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第六十六話 イーボチヤ伯爵(1)

 イーボチヤ伯爵領 領主城


「国王陛下よりアンジュン辺境伯を討伐せよとの命令です。領地はイーボチヤ伯様とタンソウ侯爵とユーイ伯爵で好きに分ければ良いとのことです。つまり早い者勝ちということですな」


 通信使としてイーボチヤ伯爵領を訪れているバンボン男爵から、イーボチヤ伯爵は命令書を受け取った。国王から正式にアンジュン辺境伯領を切り取れと命令が来たのだ。イーボチヤ伯爵は顔がにやけるのを抑えることが出来ない。


「くくく、アンジュン辺境伯領では麦や米の生産が急に増えておるらしいな。我らはその穀倉地帯を頂こうか。タンソウ侯爵とユーイ伯爵の軍が正面から侵攻を開始したら、我らは側面を突く。そうすれば労せず切り取ることが出来るだろう。いくさの準備だ!」


「しかし伯爵。バート連邦との紛争では、巨大爆裂魔法を使ったとの噂があります」


 イーボチヤ伯爵の執事は、出入りの商人からアンジュン辺境伯は巨大魔法でバート連邦を押し返したと聞いていたのだ。もっとも、荒唐無稽なただの噂だとは思うが、家臣としては伝えないわけには行かない。


 と、そこへ鎧を着た騎士が駆け込んできた。


「伯爵!国境くにざかいの砦から早馬です!アンジュン辺境伯の軍が越境して攻めてきております!数はおよそ1000!」


「何?たったの1000で攻めてきたのか?しかし動きが速いな。討伐軍のことを察知していたと言うことか」


 実は、通信使のバンボン男爵が王都を立ってから既に4日の時間が経過していたのだ。国王からの正式な指示が伝達されるためには時間がかかる。文官が詔書を作って国王が承認し宰相が玉爾を押す。そして通信使に渡すのだが、通信使自ら早馬に乗るようなことは無く、乗り心地の良い馬車に揺られてゆっくりと移動するのだ。もちろん危急の場合は早馬を使うのだが、今回の討伐は戦力的に優位にある王国側がアンジュン辺境伯領に攻め込むため急ぐ必要を感じていなかった。


「1000の兵力であれば国境の砦を落とすことは出来まい。万が一の事があっても10日は持ちこたえるだろう。増援を出すぞ!砦のアンジュン軍を蹴散らしてからなだれ込む!その頃にはタンソウ侯爵達の軍が正面から来ているはずだ!騎士団は全員招集!急げ!」


 そして数時間後。


「バカな!国境の砦が落とされただと!?」


「はい、伯爵。巨大な爆発が発生して砦は半壊しました。最初の攻撃で砦にいた兵士の三割が死亡。残りの兵士で応戦したものの奮戦むなしく全滅を・・・」


「巨大な爆発?まさか、噂の巨大爆裂魔法なのか?まずいな。領主城の防御を固めろ!この城塞都市に籠城すれば心配ない!その間にタンソウ侯爵達がアンジュンの領主城を落とすはずだ!」


 イーボチヤ伯爵は砦への増援を取りやめ、この城塞都市に籠城することを決めた。この都市は周りを石造りの城壁とほりに囲まれている。食料の備蓄も十分にある。国境の砦が破壊されたと言うことだが、この城塞の頑強さは砦の比では無いのだ。


 翌日


「バカな!もうこの城塞都市まで来たというのか!?」


「はい伯爵。アンジュン軍は車輪の付いた乗り物に乗って街道を移動したようです。その速さは馬に匹敵します」


 この世界でも騎馬隊は存在する。しかし、軍馬は貴重なのだ。一領主が1000頭の馬を揃えることはほぼ不可能。せいぜい数百の騎馬が限度だった。馬は戦の無いときでも餌や訓練が必要なのだ。多数の馬を常時揃えておくのはよほどの大国で無ければならない。だから、砦から領主城までの日数を歩兵の速度で計算していた。


「なんだ!それは!?そんな物を持っているのか!?」


 イーボチヤ伯爵領とアンジュン辺境伯領との国境の内側10キロほどは街道は整備されていない。これは、万が一攻め込まれた時に進軍を遅らせるためだ。しかし、国境で紛争が起こった場合は、そこへの補給が必要となるので、国境の10キロ内側からは街道が整備されている。この世界の基本戦術は国境での防衛を中心に組み立てられているのだ。


「くっ、例えどんなに進軍速度が速くともこの城塞を落とすことは出来ぬ!タンソウ侯爵達の攻撃が始まれば我々の勝ちだ!それまで籠城するぞ!」


 ――――


 ユウシュン達は城壁から500mの所に布陣を完了した。これは、敵のバリスタが届かない距離だ。


「では信長様のご命令通り、オレが降伏勧告に行こう」


 そう言って一歩前に出たのはシュテンだ。オーガ族の100人隊長として当然自分が行くべきなのだ。


「待て、シュテン、貴様、国境の砦のことをもう忘れたのか?」


「何だ?ユウシュン。国境の砦?問題なく落としたでは無いか。何か問題があるか?」


「いやいや、そこじゃ無い。お前が降伏勧告に行ったまでは良かったが、なぜ返事も待たずに攻撃をした!“降伏勧告をしろ”と言うのは降伏勧告をしたら皆殺しにしても良いという意味じゃ無いんだぞ!」


「う、いや、オレも攻撃するつもりは無かったんだが、オーガ族のことを脳まで筋肉だろうと言うから、ついカチンときてだな」


 ユウシュンは大きくため息を吐く。その通りじゃないかと。やはり交渉事はオーガ族には無理だ。


「すまん、シュテン。ここはオレに任せてくれ。相手は人族だ。やはり人族のオレが行った方が降伏するかもしれないしな」


「そうよ、こういうことはユウシュンに任せるのが一番よ」


「ガラシャ様まで・・・」


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― 新着の感想 ―
シュテンは、脳まで筋肉と言われてカチンときたそうだから、それが悪口だとは理解しているようだけど(笑)
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