第六十四話 アンジュン辺境伯包囲網(1)
ドワーフ族バート連邦 首都
「ドノフ商務相。しかしこのままではアンジュン辺境伯領との貿易は出来なくなってしまうな。そうなると、転売で儲けていた外貨も得られなくなってしまうのか」
「はい、ライダイ宰相。やはりアンジュン辺境伯の技術はどうしても欲しいですな。こうなれば、イーシ国王に直接圧力をかけましょう。アンジュン辺境伯領への侵攻は適当な理由をでっち上げれば良いでしょう」
「うむ、そうだな。ではそうしよう」
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イーシ王国 王城 南 迎恩門
国王を始め、王太子や宰相を含む王国の高官達が裸足で整列をしていた。バート連邦からライダイ宰相の親書を携えて使者が到着したのだ。
使者を迎えるために掃き清められた石畳の上で、イーシ国王達は跪き額を地面にこすりつける。これが列強から生きることを許された人族の王の礼儀なのだ。迎恩門という名前にもそれは表現されている。大恩ある列強の方々を迎えるための門なのだから。
「ガイバ通信使様。ようこそお越しくださいました。国民全てバート連邦のご恩に報いるべく歓迎いたします」
バート連邦からの使者であるガイバ通信使は一人歩み出て、額を地面にこすりつけているイーシ国王の前に立った。そして、右足でイーシ国王の頭を踏みつけ、ぐりぐりと力を入れた。
「イーシ国王。この度の要件、外務卿より聞いておろう。お前らの国のアンジュン辺境伯が我が国に牙を剥いた事、はなはだ許しがたし。お前らが滅びるか存続できるかは私に任されておる。解っていような」
そして、この日から三日三晩に渡って使節団の歓迎会が催された。
国中から集められた酒や美女が際限なく振る舞われた。人族の女は、ドワーフの女と違い華奢で色白だ。ドワーフ族の男には、妻にするならドワーフ族だが性的快楽には人族が良いと言う者が多い。そしてガイバ通信使は事前に注文を入れていたのだ。若い生娘が良いと。イーシ国王はその要望に応えて、コーキ宰相に12歳から16歳までの生娘を50人集めさせた。そして、ガイバ通信使達の慰み物として提供されたのだ。さらにお土産として、乾燥松茸200キロと金貨500枚、そして性奴隷として10人の少女が渡された。
「イーシ国王。なかなか良い心がけだったな。ではアンジュン辺境伯の持っている全ての技術提供と、追加奴隷5000人、賠償として金貨80万枚で手を打とう。もし約束を違えたなら、我がバート連邦は真・賢人連合を動かし、正義と平和の名の下に人族を全て根絶やしにするであろう」
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「コーキ宰相。アンジュン辺境伯領には本当にそんな技術と魔法があるのか?」
ガイバ通信使の歓待が終わった後、イーシ国王はコーキ宰相を呼んでいた。
「はい、国王陛下。隠密に調査をさせましたが、一人も帰ってきておらず詳細はわかりかねます。しかし、この1年でアンジュン辺境伯から鍋や農具などの鉄製品が数多く入ってきております。鉄を加工する技術を持っていることは間違いないでしょう。また先日の献上の品に、美しいガラスの壺や鏡がありました。ガイバ通信使殿がおっしゃられたことは概ね間違いはないかと」
「隠密が帰ってきていないのか?お前の配下も無能揃いよな。だが、隠密が殺されたのであれば謀反を考えているやも知れぬ。まずはアンジュン辺境伯に対して、持っている技術全てと奴隷5000人の提供を命じろ。もし従わぬようならイーボチヤ伯爵に討伐を命じよう。イーボチヤ伯爵とアンジュン辺境伯は確か領地問題を抱えて時々紛争を起こしておったな。丁度良い。係争地はイーボチヤ伯の領地とする詔勅を出せ。まったく勝手にバート連邦と紛争を起こしよって、迷惑なやつだ」
「しかし陛下。アンジュン辺境伯はバート連邦軍を押し返しております。ここは万が一に備えて、タンソウ侯爵とユーイ伯爵にも出陣を準備させた方がよろしいかと存じます」
タンソウ侯爵とユーイ伯爵は、このイーシ王国が誕生したときからの古き貴族だ。国家に対する忠誠心も人一倍ある。彼らなら、跳ねっ返りのアンジュン辺境伯を抑えることができるだろうと国王は思った。
「宰相、良きに計らえ。あとのことはお前に任せる。余は忙しいのでな」
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アンジュン辺境伯領 領主城
「アンジュン辺境伯殿。この度のバート連邦との紛争、国王陛下はひどく心を痛められております。平和と協調を基本とする我が国の国是とは相容れませぬ。しかし国王陛下は御心の広きお方。アンジュン辺境伯の技術全てと奴隷5000人の提供、そしてバート連邦へ金貨80万枚の賠償で許してくださるとのこと。心して受け入れませ」
イーシ国王からの使者として、バンボン男爵がアンジュン辺境伯領を訪れていた。そして、国王からの命令書を手渡す。
「そうそう。イーボチヤ伯爵との係争地については、国王陛下の詔勅でイーボチヤ伯爵領であることが決定されました。すぐさま国境線まで軍を下がらせるようにお願いしますよ。よろしいですかな」
命令書を恭しく受け取ったレイン・アンジュン辺境伯は、その命令書を信長に渡し、そして信長から封緘のされた書状を受け取る。
「バンボン男爵殿。こちらが陛下への答礼の文になります。何とぞよしなに」
レインは国王への書状と一緒に、金貨50枚の入った袋を手渡した。金貨はバンボン男爵への心付けだ。貴族が通信使として来る場合の礼儀でもある。この心付けをしておかないと、親書が手渡されなかったり改ざんされることがよくあるのだ。
「アンジュン辺境伯殿。答礼の文をもう書かれていたのですか?ずいぶんご用意の良いことですな?まあ、私は通信使としての役割を確実に果たすのみですが」
そう言ってバンボン男爵は受け取った袋の重さを確認し、いやらしい笑みを浮かべる。
「それでは確実にこの文は国王陛下にお渡しいたします」
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土日祝は休載です。
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