第六十二話 対ドワーフ戦(7)
明けましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくお願いいたします。
「お前が総大将のラードフというヤツか」
信長の前に連れてこられたのは、左腕を失ったドワーフ軍総大将のラードフだった。フェーリーメドウズの爆発によって、左腕は肩の所から吹き飛ばされているのだが、傷口は見事にふさがっていた。
「いかにも。私が軍務相兼総司令のラードフだ。敗軍の将を見世物にするなど趣味が良いとは言えんな」
信長様と呼ばれている男の後ろには、一段高いところに16歳くらいの少年が座っている。おそらくあの者がアンジュン辺境伯だろう。そして目の前の男が、このアンジュン辺境伯領の軍事を司る織田信長だ。この大広間では、アンジュン辺境伯の家臣と思われる人間やオーガ達30人ほどがラードフを囲んでいた。
「くくっ、見世物にされるのも敗軍の将の務めだ。甘んじて受け入れろ。ところでラードフ、我が主のアンジュン辺境伯様はお前にも慈悲をくださるそうだ。それに、我々は戦など望んでいない。バート連邦とも仲良くやっていきたいのだよ。だから、朝貢と奴隷供出の停止と賠償金で許してやろう。どうだ?よい提案だろ?」
信長は邪悪な笑みを浮かべ、ゴミを見るような目でラードフを見ている。
「ほざけっ!今回は十分な準備が出来なかったが、次の侵攻はバート連邦の総力を挙げたものとなるだろう。その時はこの辺境伯領だけでは無い!イーシ王国も完全に滅ぶ!皆殺しだ!高笑いしていられるのも今のうちだけだぞ!」
「そうか、残念だな。俺様は平和を誰よりこよなく愛しているんだ。お前のような野蛮なやつでも平和を渇望するように再教育してやる。付いてくるがいい」
そう言って信長は立ち上がり歩き始めた。ラードフも信長の言葉に従い後を追う。
城の中庭には木の杭が10本ほど立てられていて、それにドワーフ兵の鎧がかぶせてあった。そして、そこから100メートルほど離れた場所に、鉄の棒6本を束にしたような機械が、台車の上に置かれている。さらに、捕虜となったドワーフ兵200人程度が見物人として連れてこられていた。
「ラードフ、面白いものを見せてやろう。お前もこれで平和を愛するようになるだろう」
信長は右手を挙げて合図をする。すると、台車の横に立っていた兵士がクランク棒のような物を回し始めた。
バババババババ!!!!
「な、何だと!!??」
台車の上の機械は激しい音を立てながら火を噴いたのだ。そして、100メートル先にある鎧は穴だらけになって、ついには粉々に砕け散ってしまった。
「ば、ばかな、どうやってこんなことが・・・・・爆裂魔石を使っているのか?いや、しかしこれほどの数の爆裂魔石を用意することなど・・・」
「見たか?オレ達が開発した魔導具『ネオアームストロング砲』だ」
「ネオアームストロング砲だと?」
「ああ、正式名称はもっと長いんだが、まあネオアームストロング砲だ。どうだ?これと戦ってみるか?今はまだ20挺ほどしか無いが、大増産中でな。来月には300挺が揃うぜ」
信長達が制作したネオアームストロング砲は、1880年頃のガトリング砲を模したものだ。毎分300発の発射速度を誇っている。ただし、現状では弾丸の生産が軌道に乗っていないため、実戦で使用するとすぐに弾薬が尽きてしまう。300挺が揃うというのも嘘だ。また、弾詰まりなどの動作不良も改善の余地があった。つまり、すぐには使えないのだ。それでも、ラードフの肝を冷やすことは十分に出来ただろう。
「こんな魔導具をいったいどうやって・・・」
「ラードフ、魔導具だけじゃない。あの山を見てみろ。これから吹き飛ばしてやるぜ」
信長の指さす方角には、高さ500メートルほどの山があった。距離は10キロほど離れている。その山頂は急峻に尖っていて今にも崩落しそうな危うさがあった。
「あの山頂は時々崩れて下の街道を埋めちまうんだ。危ないから山頂を吹き飛ばしてそれ以上崩れないようにしようと思ってな。上級魔法ゲイティメドウズで吹き飛ばす。ついでだから見物させてやる」
次の瞬間、山の頂上付近が突然光に包まれた。それは真っ白な光で目を開けておくことが出来ないほど強烈だった。
そして地面が地響きを立てて揺れたかと思ったら“ドン”と体を揺さぶる衝撃波と轟音が響いてきたのだ。
山頂の光が収まると、そこにキノコ雲が立ち上っているのが見えた。しばらくするとその煙も晴れて、急峻な山頂を失って低くなった山が見えてくる。ゲイティメドウズの魔法によって、山頂が見事に吹き飛ばされていたのだ。
それを見たドワーフ兵の多くは、腰を抜かしてへたり込んでしまった。よく見ると、アンジュン辺境伯領の人族兵達も腰を抜かしている。味方にも初めて見せた上級魔法だったのだろう。
「あ、あんな魔法を首都で放たれたら・・・」
山が吹き飛ぶような魔法を、もしバート連邦の首都で放たれたら間違いなく数万の死者が出るだろう。首都機能を失い国は滅ぶ。
「くくく、どうだ?平和が恋しくなったか?お前は国に帰ってこのことを伝えろ。そして、滅ぼされたくなかったら朝貢と奴隷供出の停止と賠償だ。それだけで許してやる。我々はお前らのように野蛮じゃないのでな。朝貢や奴隷など要求しないぞ。お互い、対等に付き合おうじゃないか」
信長はこれ以上に無いというくらい、邪悪な顔をしてラードフに迫る。その顔には、もし拒否したら殺してやると書いてあるようだった。
「な、何が平和だ。あからさまな恫喝ではないか。これだけの力があるのだったら我が国に攻め込めば良いではないか。それが出来ないということは、あの魔導具も上級魔法もそうそう簡単には使えないのではないのか?だからこうして脅しているのだろう?」
信長達はゲイティメドウズを放つことは出来るのだが、実は重大な欠陥があるのだ。それは魔法の射程距離である。ゲイティメドウズの射程距離は500メートルほどなのだが、その効果範囲は 500メートルを超えている。そのまま放ってしまったら術者も吹き飛んでしまう自爆魔法に等しいのだ。その為、強力な防御魔法を展開できる術者が側に居ないとゲイティメドウズは使えない。そこに気づくとはさすが歴戦の勇士だ。痛いところをピンポイントで突いてくる。
「そう思うんだったらそう思っておけば良い。お前らの国を滅ぼすのは簡単だ。だが、辺境伯様はそれを望んでいない。国が滅んで混乱に陥れば、民は苦しみ多くが死んでいくことだろう。お前らのような連中にも慈悲をくださるのだ。ありがたく思うんだな」
実際、敵国の中枢を破壊することはそう難しく無いだろう。自分たちだけ21世紀の核兵器を持っているようなものなのだ。しかし、この中世のような世界でそんな事をしたら、間違っても統治など出来ない。人口が半分に減ってもかまわないのだったらそれも可能だが、信長にとってもそれは本意では無いのだ。
「俺様はな、平和と民主主義が大好きなんだよ」
第六十二話を読んで頂いてありがとうございます。
土日祝は休載です。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!




