第五十八話 対ドワーフ戦(3)
アンジュン辺境伯領第三砦
「ドワーフの連中も正攻法では攻略できないと理解しただろう。夜襲か、もしくは大きく迂回して後背から攻撃か。全員、準備をしておけ!」
信長が蘭丸達に命令を出す。今夜の襲撃は無いと思うが、信長達は油断をすることはない。どのような攻撃に対しても確実に対応しなければならないのだ。しかし、夜襲に全員で対応すると睡眠をとることが出来ないので、数班に分けての警戒となった。
「信長様、我らに敵総大将の首を取ってこいとご命令ください。敵本陣に切り込んで、見事首級をご持参いたしましょう」
そう言って歩み出たのは、オーガ族のシュテンだ。信長の前で片膝をつき頭を垂れる。
「我が配下の30名で敵本陣を急襲いたします。なにも、こちらから攻撃をしてはならないという訳でもありますまい。敵が夜襲を考えているのであれば、先にこちらからかけてやりましょう」
「おもしろい。シュテンよ、やってみるが良い。だが無理はするな。いくらお前が強くても、圧倒的な数の暴力にはあらがえぬ。誰かが負傷するか、完全に包囲されそうになったら撤収しろ。俺は無理な作戦で部下を死なせることが一番嫌いなんだ。解っているな」
「はい、信長様。承知しております。誰一人欠けることなく帰還をお約束いたします」
「よし、じゃあエーリカもついて行ってやれ。エーリカ、もしシュテンが無理な戦いをするようならぶん殴って連れて帰ってこい。いいな」
「はい!信長様!」
信長の傍らに立っていたエーリカは、頼りにされたことを喜び満面の笑みで信長を見た。
――――
「いったいあれは何だったんだ!?」
ワランソの町まで撤退したラードフ将軍は、参謀達を集めて軍議を開催していた。各部隊を率いる大隊長や100人隊長達の表情は暗い。
「ラードフ将軍。帰還できなかった兵は7000名を超えています。また、重傷を負った兵は4000名ほどです」
「緒戦の数時間でそんなにも損害を出したのか・・・・」
6万名の内、既に11000名以上が失われている。しかも、重傷者を看護もしくは後送をする兵も必要となるのだ。ドワーフ軍はたった1時間ほどの戦闘によって、実質1万5千名の戦力を失う事になってしまった。
「わしも間近で爆発を見たが、魔力の発散などは一切感じなかった。魔法や爆裂魔石ではない。あれは雷や竜巻といった自然現象と同じ物じゃ」
鎧ではなく、ローブをまとった老兵が口を開いた。ほとんどのドワーフ兵は豊かな髭を蓄えているのだが、この老兵の白髭は誰よりも豊かで威厳がある。
「老師。やはり魔法ではないのですね。砦から何かが投射されておりました。あの投射された何かが爆発した事に間違いはないでしょう。すると、魔力を使わずにあのような爆発を起こすことができるということでしょうか?」
ラードフ将軍は、白髭の老人に敬意を持って問いかける。この老師と呼ばれる老人は、ドワーフ族の中で最強の魔法使いだ。上級魔法も使うことが出来、魔族にも劣らない実力がある。
「先ほど旧知の軍医に話を聞いたのじゃが、負傷した兵の傷口から鉄の破片が見つかったそうじゃ。おそらく、鉄の容器の中に爆発する何かを入れて投射したのじゃろう」
「爆裂魔石を使わずに、そのような事ができるのでしょうか?」
「実際に連中はやってのけておるからのぉ。どちらにしても正攻法では攻略できまい」
「それでは夜襲ですか、老師。しかし、今夜は混乱を立て直すだけで限界ですな。今日はゆっくり兵を休ませて、明日、夜目の利く者を集めて夜襲部隊を編成しましょう。それと、敵が夜襲をかけてくるやもしれませぬ」
ラードフ将軍と老師は頷きあう。6万の兵を率いて5000人の砦を攻めるのだ。既に4万5千人近くにまで減らされてしまったが、それでも敵の10倍近い戦力がある。こんな戦いでこれ以上損失を出すわけにはいかなかった。
と、その時、老師の魔法探知に引っかかるものがあった。
「ラードフ将軍!敵襲じゃ!すさまじい魔力の集中反応がある!こ、この魔力は上級攻撃魔法!魔導部隊!魔法防御を展開!敵は西じゃ!」
老師のかけ声によって、軍に帯同している40人の魔道士が方陣を組み魔法防御の詠唱を始めた。40人の魔道士による合同魔法によって空に魔方陣が浮かび上がる。そして、その魔方陣は部隊の西側に展開された。
次の瞬間、防御魔方陣にすさまじいエネルギーが衝突し、太陽が爆発したのではないかと言わんばかりの輝きが発生する。
「魔力を全て使え!この防御が突破されたら軍は持たん!」
魔道士達は持てる魔力を全て出し切って防御陣を張り続けた。しかし、敵の魔力放射はすさまじく、魔力切れを起こした魔導士が一人、また一人と倒れていく。
「だめじゃ、防御が破られる!」
40人の魔道士によって展開されていた防御魔方陣は粉々に砕け、投射された魔力はドワーフ軍の中で大爆発を起こした。
「く、この爆発は、上級魔法のゲイティメドウズか?いや、それ以上の破壊力・・・。まさか、伝説の極大魔法なのか?」
老師は長年の研究によって、他の魔道士の魔力支援を受ければゲイティメドウズを撃てるようになった。しかし、それも複雑な術式を組み立て、発射までに5分程度は要する。先ほどは、魔力の集中を感じてから30秒ほどで放たれていた。
「こんな上級魔法を瞬時に撃てるだと?これは魔族でも上級貴族にしか出来ぬ事。まさか、人族に魔族が協力しているのか?」
爆発によって多くの兵が吹き飛ばされ、西に向かって一本の道ができあがっていた。そして、そこを、数十人の兵士が歩いてくる。
「まさか・・・オーガ族だと?オーガ族がゲイティメドウズを使えるというのか!?」
その問いに、オーガ族の少女が返答した。
「ふっ、今のはゲイティメドウズではない。ただのフェーリーメドウズよ」




