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第五十七話 対ドワーフ戦(2)

「ラードフ将軍。斥候が帰ってまいりました。敵は第三砦と呼ばれる出城に集結しているようです。煙の上がり方から、おそらく5000人以上の戦力です」


 人が集まる以上、食事を作るために火を使わなければならない。砦から上がっている煙の状態によって、ある程度の兵力を推測できるのだ。


 その報告を聞いて、短期間の内によく5000人も集めることが出来たとラードフ将軍は本心から感嘆した。我々ドワーフ族が兵を集めている事を、何かしらの手段で察知していたのかもしれない。そうだとすれば、人族の中にも少しは頭の回る知恵者がいるようだ。しかし、敵は5千、こちらは6万の兵力だ。どんなに強固な砦があったとしても、数で押し切れば何とでもなる。しかも、今回はドワーフ族の技術の粋を集めた新型投石器を準備している。大型兵器のため到着が少し遅れているが、投石器が到着した暁には出城など木っ端みじんに出来るだろう。人族の弓の届かない場所から、一方的に石を投射できるのだ。我々はそれを高見の見物といけばよい。


 3日後


 アンジュン辺境伯領の出城から500mほど手前、組み立てられた投石器5台が設置され、ドワーフ兵達によって発射の準備がされていた。この投石器は、80kgの鉄球もしくは石を500m飛ばすことが出来る。そして、人族の弓矢では500m先まで届かない。バリスタ(据え付け型の大型弓)でも400mが限度なのだ。さらに、攻撃魔法の効力も400mが限度と言われている。ドワーフ族の開発した新型投石器によって、戦争の常識が変わったのだ。もはやエルフ族や魔族ですら恐れるに足らずだ。


「準備を急げ!設置が出来次第投射を開始するぞ!」


 ラードフ将軍が準備をしている兵達にハッパをかける。そして、司令官の期待に応えるべく、兵達も割り当てられた仕事をてきぱきとこなしていた。


 ドバーン!


 それは突然の出来事だった。投石器に鉄球を装填し、おもりを巻き上げている最中、突然雷が落ちたのだ。落雷のあった場所では爆発が起きて、何人もの兵が飛ばされた。そして、手や足が吹き飛んでいる者もいる。


「雷だと!?バカな!雷雲など出てはおらぬぞ!」


 しかし、ドワーフ族の陣地では、あちらこちらで落雷と思われる爆発が起こり、数名から10名ほどの兵が吹き飛ばされていた。


「落ち着け!地面に伏せろ!雷ならそれで防げる!」


 あちらこちらで爆発が発生しているし激しい雷鳴も聞こえる。しかし、稲妻が全く見えないのだ。こんな雷などあり得なかった。


「ラードフ将軍!人族の出城から何かが投射されています!おそらく、爆裂魔石ではないでしょうか?」


 確かに爆裂魔石はある。しかし、爆発させるためには術者が20m以内で直接魔力を流し込まなければならない。さらに、爆裂魔石はそもそも数が少ない。一度に何十発も使えるような代物ではないはずだ。


 ――――


「次弾装填急げ!」


 砦の中では、蘭丸が砲兵達に指示を出していた。1小隊3人で一つの迫撃砲を担当する。砲兵達は止めどなく100mm迫撃砲を撃ち続けた。


 信長達は、戦国時代に戻ったときの事を想定して、綿火薬やトリニトロトルエン(TNT)火薬を作る技術を習得していたのだ。これらの火薬類は、作り方さえ知っていれば中学校の理科の実験で使う程度の薬剤と器具があれば製造できる。


「武田や顕如(本願寺法主)を驚かせてやろうと思っていたんだがな」


 戦国武将達の度肝を抜いてやろうと思っていたのだが、まあ、この異世界でドワーフどもの度肝を抜くことは出来ただろう。


「俺様の領国を侵攻した代金を払ってもらおうか!」


 迫撃砲の構造は至極単純だ。厚さ5mmほどの鉄板で砲筒を作ればそれで足りる。もちろんある程度の精度は必要だが、蒸気圧を使った工作機械によって同一精度での加工が可能となった。


 この砦には、合計60門の迫撃砲を持ち込んでいる。そこから、止めどなく榴弾が撃ち込まれているのだ。


 ――――


「後退だ!全軍500m後退だ!」


 ラードフ将軍は、この状況に対して後退を指示した。設置したばかりの投石器も置いて行かざるを得ないだろう。兵の命の方が圧倒的に重要なのだから。


 ドワーフの陣地では、後退を指示するドラが鳴らされた。それを聞いたドワーフ兵達は、指示通り500mの撤退を開始する。


 ドワーフの最前線は、砦から500mの位置まで前進していた。そこから500m下がれば合計1kmの距離がある。これだけ離れていれば、どのような武器や魔法であっても届くことはないはずだ。そこで体制を立て直し、攻城作戦を練り直さなければならない。


 しかし、ラードフ将軍が安全だと思った1kmの距離まで下がっても、敵からの攻撃は止まらなかった。


 ドワーフ兵は指示通り下がれば安全だと誰もが思っていた。しかし、違ったのだ。周りで爆発が起こるたびに、戦友達が吹き飛んでいる。その爆発が、いつ自分の足下で起こるのか解らないのだ。アンジュン辺境伯領の出城はもう遠くて見ることが出来ない。それにもかかわらず、攻撃のやむ気配がなかった。


 信長達が開発した100mm迫撃砲は、最大射程が3000mもある。つまり、あえて500mまで近づいたことを確認して攻撃を仕掛けたのだ。


 逃げても逃げても爆発が止まることはなかった。屈強なドワーフ族とはいえ、鎧を着たまま全力疾走するのは体力を使う。しかし、逃げなければ殺されるのだ。ドワーフ軍はパニックを起こして、前線基地のあるワランソの町まで撤退した。






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― 新着の感想 ―
地球なめんなよファンタジー世界の住民共! 人類が知恵と汗と努力を積み重ねて続けて得た、「鉄と炎」が 齎す「効率よく」「ナマモノを処理する」技術の産物の何たるかを知るがいい
剣と魔法の異世界で無双するはずの信長君が、現代兵器で無双している!(笑) まあでも、舐められたままでは終われんからね。 ここは徹底的にやってしまおう!!
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