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第四十二話 オーガの村(6)

「おい、シュテン!この村に風呂は無いのか?」


 重傷者の治癒もほとんど終わり東門の補修に目処が立った頃、信長がわがままを言い出した。


「“フロ”ですか?そのような物はございません」


 シュテンは申し訳ないという表情ではなく、よくわからないといった表情で返事をした。


「お前ら、“風呂”を知らないのか?大きな桶に湯を入れて肩までどっぷりつかるんだよ。気持ちいいんだぜ」


 話を聞くと、いつもは鍋で湯を沸かして手ぬぐいで体を拭くだけらしい。江戸時代の庶民と同じような状況だった。


 魔法によって水を作ることも出来るし温度を上げることもできる。しかし、その湯をためる桶が無い。


 村を探してみると、保存食を入れておく大きな空き樽があった。丁度人一人がゆったりと入れる大きさだ。オーガの男達でもなんとか入れるだろう。しかし、臭い。長年様々な食品を入れておいたので、えもいわれぬすえた臭いが染みついていた。


「この樽でいいか。ガラシャ、過酸化水素水を作って消臭してくれ」


「まったく、人づかいが荒いわね」


 そう言いながらもガラシャは過酸化水素水を合成して樽の消毒と消臭を始めた。濃度100%にすると爆発するので、30%程度の濃度で作業をする。


 一通り消臭が終わったので、空気中から水を凝結させて魔法で温度を上げた。


「信長様、これが“風呂”ですか?」


 シュテンをはじめ村のオーガ達が興味深そうに近寄ってくる。


「ああ、この湯につかって汚れと疲れを取るんだよ。じゃあ、俺が一番風呂だ!」


 信長はみんなの前で突然服を脱ぎ始めた。全く恥ずかしがる様子がない。


「ちょ、ちょっと信長くん!みんなに丸見えじゃない!戸板くらい立てようよ!」


「はぁ?何を今更言ってんだ?俺もお前も生まれたままの姿を見せ合った仲だろ?」


 信長はガラシャの方を見て下卑た笑みを浮かべた。


「ご、誤解を招くようなことは言わないでよね!あれは不可抗力だったんだから!」


「見たくなかったらあっちに行ってろよ。それとも、本当は見たいのか?ほーらほーら」


 そう言って信長は、前を隠すこと無くガラシャの方を向いて腰を振って見せた。


「クソ変態!」


「信長様。あまりガラシャをからかわないでください。湯を沸かしてくれなくなると、我らだけで沸かすのは大変です」


 蘭丸が心底困ったような表情を向けた。


 ――――


「ああ、久しぶりの風呂だな。生き返るようだ」


 風呂桶の周りには戸板が立てられ、外からは見えないようになっている。これで、誰の目を気にすること無く、ゆっくりと思索にふけることができる。


 肩まで湯につかった信長は、星が輝き始めた空を見上げこの世界に来てからの事を振り返った。


 オーガ族を手に入れたことは僥倖だった。蘭丸達と5人だけでアンジュン辺境伯を倒して領地を手に入れるつもりだったが、オーガ達が200人もいればより簡単に制圧できるだろう。そして、軍を強化してまずは人族の王国を乗っ取る。とはいえ、この世界についてもっと知らなければならない。彼を知り己を知れば百戦危うからずというやつだ。


「おい!エーリカ!背中を流してくれ!」


「は、はい、信長様」


 ちょっと戸惑ったようなエーリカの声が返ってきた。


「何考えてるの!?信長くん!こんな幼女にわいせつなことをさせるつもり!?」


「はぁ?ガラシャ、まだいたのかよ。そんな事するわけないだろ!それともお前が流してくれるのか?」


「ちょ、ちょっとエーリカちゃん!脱がなくてもいいのよ!だめだって!」


 戸板の外はなんだかカオスな状態になっているようだ。


 しばらくすると、袖と裾をまくったエーリカが入ってきた。


 信長の身体年齢は17歳か18歳くらいだが、栄養バランスの良い食事を心がけ毎日の鍛錬も欠かさなかったので、一流のアスリートのような肉体をしている。贅肉など一切無い。


 エーリカは、そんな信長の肉体にちょっと上気しながら背中を手ぬぐいでこすった。


「おお、いい力加減だ、エーリカ」


 久しぶりの風呂に信長は上機嫌だ。


「信長様、その、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」


「ん?なんだ?」


「あの、先ほどガラシャ様と、は、裸を見せ合った仲だと・・・」


 エーリカはうつむき加減で信長に問いかけた。その頬はちょっと赤くなっている。


「ああ?さっきの話か?俺たちはここに転移してきたんだが、その時みんな裸だったんだ。神様のいたずらってやつだな」


「そ、そうだったんですね・・」


「なんだ?エーリカ、気になるのか?くくく、わかった。もう少し成長したら俺様の妾にしてやる。お前はきっといい女に成長するぞ。どうだ?」


 背中を流しているエーリカの方を振り返り、信長はこれ以上に無いと言うくらいいやらしく邪悪な笑顔を向けた。


「はいっ!信長様!」


 その邪悪な笑顔を見たエーリカの表情はぱぁっと明るくなり、満面の笑みを浮かべて信長に返事をした。その声には隠すことの無い歓喜の感情がこもっている。


 バキッ!!


 風呂を囲っている戸板が突然粉々になって吹き飛んだ。そしてそこに“鬼”が入ってきた。


「ふざけるな!信長!黙って聞いてりゃいい気になりやがって!こんな幼女を妾にするなんて何考えてるんだぁ!」


「ガ、ガラシャ!ま、待て!話せばわかる!」


「ガラシャ様!落ち着いてください!誰かぁーーー!」


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― 新着の感想 ―
エーリカは、命の恩人である信長に純真な憧れを抱いている様子。 そんな幼女を弄ぶ信長にはキツイお仕置きが必要のようです(笑)
ガラシャというかガラ悪シャになっとるw
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