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第三十九話 オーガの村(3)

「ここがオーガの村か」


 直径20センチくらいの丸太を組んで作った城壁に囲まれた集落にたどり着いた。城塞都市と言うほどでは無いが、木製の城壁の角には櫓も建っており、外敵からの守りには強そうに思えた。


 信長達はシュテンに案内されて村の中心にある広場まで歩いた。武器を持った男達以外の村人は、どうやら家に閉じこもっているようで女子供を見ることは無かった。


「ここで待っていろ。もうすぐ族長が来る」


 そして、しばらくして他のオーガとは明らかに“格”の違うオーガが現れた。


 そのオーガは身長230センチほどもあり、筋肉は盛り上がっていて黒光りしている。年齢的には50歳前後に見えるが、その眼光は鋭く年齢的な衰えなど一切感じさせなかった。


「お前らがケートゥ様を倒したというのか?ひ弱な人族がか?あり得ぬ事だ」


 族長と呼ばれたオーガは信長達を見下しながらキセルでタバコをふかす。


「族長、この者はドーレルを殺害しました。それも素手で一撃です。さらに祠からエーリカを連れ帰っているので、真偽のほどを確かめていただきたく存じます」


 シュテンは片膝をついて族長に敬意を示した。


「エーリカがここに戻ってきたと言うことは、まだケートゥ様に喰われていないと言うことだろう。ならば、この人族を皆殺しにしてエーリカをもう一度お役目に出すだけだ」


 そう言った族長は、信長達を殺すように顎でシュテンに命じた。それを見たシュテンは、頷きながらもどこか釈然としないものを感じているようだった。


「おいおい、話を勝手に進めるなよ。エーリカをもう一度祠に戻すだと?言っただろ。あのトカゲ野郎は俺様が退治したんだよ。それでこのエーリカは家来になったんだ。その家来をみすみす渡すわけ無いだろ。こんな小娘を生け贄に出すような軟弱な卑怯者の脳みそじゃ理解できないのか?おまえ、真性のバカなのか?」


 信長も負けじと、ふんぞり返って族長を見下すような表情をした。しかし、身長差がかなりあるので、見上げるような形になっている。そしてエーリカは信長の後ろに半身をかくし、不安そうに族長を見ていた。


「ふん、まあいい、りあえばわかることだ。わしの絶仙剣ぜつせんけんを持て!」


 オーガの若者が、一振りの剣を持ってきて族長に渡した。そして、鞘からその剣をゆっくりと引き抜いた。その両刃の直刀には、中国風の龍の模様が打ち込まれている。


「絶仙剣だと?まさか、他にも同じような剣があと三振りあるんじゃないだろうな?」


「人族の分際で物知りだな。いかにも、世界のどこにあるかはわからぬが、他に誅仙剣・戮仙剣・陥仙剣があるといわれておる。その四振りを手にした者は、魂の世界への扉を開くことができるとな」


 絶仙剣とは、中国の古典「封神演義」に出てくる剣の名前だ。この剣が封神演義の剣なのか、自動翻訳スキルの誤訳なのかはわからないが、信長はその四振りを手に入れてみたくなった。


「おい、蘭!あの刀はお前にくれてやる。図体だけでかい臆病で卑怯者のおっさんを殺して手に入れろ!」


「ほざけ!うおおおぉぉぉーーーー!」


 オーガの族長は大きく振り上げた剣をまっすぐ信長に振り下ろした。さっきのドーレルといい、技に全く工夫が無い。おそらくオーガ族の膂力は桁外れなのだろう。その力にあぐらをかいて、技の研鑽をしてこなかったことが明らかだ。


 そんな事を考えながら、信長は族長を睨んで微動だにしない。こんな力だけのバカに殺られるはずが無いのだ。


 ガキンッ!


 瞬時に信長の前に移動した蘭丸が、自身の剣で族長の剣を受け止めた。族長の振り下ろした剣の威力はすさまじく、その勢いで蘭丸の足が地面にめり込んでいる。


「よくぞ受け止めたな。しかし、刃こぼれしているぞ。二撃目は耐えられまい!」


 絶仙剣をもう一度大きく振り上げて、一撃目よりさらに力とスピードを乗せて振り下ろす。


「バカの一つ覚えか?」


 蘭丸は剣を下から上に振り上げた。その速度はすさまじく、剣先からパンッという破裂音を発する。これは、剣先が音速を超えた証左だ。


 蘭丸は振り上げた剣先を、空中で円を描くように軌道を変えて今度はオーガの右足をめがけて振り下ろした。そして、オーガの足はふくらはぎのあたりでばっさりと切断されてしまった。


「ば、バカな・・・」


 オーガの族長はその場に倒れ伏す。さっきまで握っていた剣は、持っていた右手首と一緒に転がっていた。


 蘭丸は絶仙剣を拾い上げ、握りしめているオーガの手首を外して族長に放り投げた。そしてその刀身をまじまじと見つめる。


「信長様。この剣から何か力を感じます。力を使いこなして見ろと言っているような・・」


 それを聞いたオーガの族長は、目を見開き驚愕の表情を浮かべた。


「バカな!人族ごときに絶仙剣が語りかけることなど、あるはずがない!わ、わしにさえ何も・・・・・」


 蘭丸は族長を睨んで剣先を向けた。


「お前がひ弱だったからだ。自らの命惜しさに子供を差し出すようなヤツに、この剣が力を貸すはずなどない。薄汚いお前に握られるのは、汚されているようで苦痛だったと言っているぞ」


 蘭丸はいつもと変わらない口調で、剣から伝わってきたことを淡々と話す。その内容は、剣の所有者としてふさわしいと思っていた族長には残酷な内容だ。


「そんは・・・どうしたらよかったというのだ!我らオーガ族はこの森でしか生きていけぬのだ!それを古き盟約によりケートゥ様が庇護してくださっておる!わしは、盟約を守ること以外・・・何が出来たと言うんじゃぁ!」


 片足と右手首を失ったオーガの族長はその場に泣き崩れた。数十年にわたって一族を率いてきたという誇りがある。そして、心を鬼にして盟約を守ろうとした。それが間違いだったというのか?


「そんな事はお前が考えろ。俺様ならなぁ、敵は全部ぶっ飛ばしてやる!仲間を守るためなら命をかけてやるぜ!誰も泣かせたりしねぇ!お前はそれが出来なかったんだろ!だから剣にもケートゥにも見捨てられるんだよ!冥土の土産に俺様の下僕を見せてやる。出てこい!ケートゥ!」


 信長はケートゥの名を叫んで右手を高く突き上げた。すると、そこにケートゥの化身たるトライデントが現れる。そして、それは光の粒子となって広がり、それが再度ひとまとまりになって黄金の三頭竜の形を成した。


「あ、あ、あ、ああああ・・・・あなたはケートゥさま・・・それでは、本当に・・・・」


「俺様が勝ったからな、その盟約とやらを俺との契約で上書きしたんだ。これでわかっただろ、ザコ野郎。ケートゥ!このザコを焼き殺せ!」


 ケートゥは三つの首をかかげて族長を見下ろす。そして口を大きく開いてブレスの凝縮を始めた。


「信長様!族長を殺さないでください!」


 エーリカが叫んでケートゥの前に出ようとする。しかし、そのエーリカの首を信長はつかんで引き留めた。


「エーリカ、黙ってみていろ」


「信長さま・・・・」


 ケートゥは三つの口を族長に向けてブレスを放った。そのブレスは一点に凝縮し、まばゆいばかりの光線となって族長を包んだ。そして、激しく熱せられた族長とその周りの地面は大爆発を起こす。爆発が収まった跡には、直径10メートルくらいの穴が開いていた。


「よくも族長を!許さん!」


 オーガの若者達が腰の剣を抜いて信長達に斬りかかろうとした。怒りによって、まさに鬼の形相をしている。


「待て!」


 しかし、そのオーガ達を一喝する声が響いた。それはシュテンの声だ。


「我らは強き者に従うのが掟。なれば、族長を倒した信長様に従うのみ」


 そう言ってシュテンは信長に片膝をついた。


「シュテン!本気か!?こんなひ弱な人族に我らオーガが従うというのか!?」


「お前は族長を倒した信長様達がひ弱だというのか?族長に、いや、俺にすら勝てないお前達が言える事ではない」


 その言葉に、オーガの若者達は押し黙る。オーガの若者が10人束になっても、族長にもシュテンにも勝てないのだ。


「いいのか、シュテン。お前と一対一で決着を付けてもいいんだぜ。お前、あの族長よりかなり強いだろ?」


 信長は片膝をつくシュテンを見下ろし、邪悪な笑みを見せた。


「信長様、それは買いかぶりです。私は、エーリカを生け贄に出すと決まったとき、それに反対できませんでした。一族の力を結集して、魔物と戦うことができたかもしれません。それでも、私は族長の方針に従ったのです。そのひ弱な自分を悔いておりました。しかし信長様は、仲間の為なら命をかけるとおっしゃった。オーガ族は強き者に従うのが掟。なれば、信長様に従うことこそ、我らの使命なのです」


「いい覚悟じゃねぇか。じゃあ、お前ら一族まとめて家来にしてやる!シュテン!お前はオーガの戦士を束ねる百人隊長だ!いいな!今この時より俺の目標のために戦え!俺はなぁ、弱い者いじめが大っ嫌いなんだよ!弱っちい奴らでも安心して暮らせる世界を作るぜ!わかったか!」





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オーガ族の剣技は力任せのもの、ならそれに技が加わったらとんでもない物になりそう。
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