第三十三話 黄金の三頭竜(1)
「助けに来た・・・?そんなこと・・・・あるはずがないわ・・・。私は望んでここに来たの・・・。だから、そんな嘘を吐かないで・・・」
少女はかすれた声で信長を拒絶した。そして、その目に固い決意のようなものが感じられる。
“この少女は何かの目的で自らここに来ているのか・・・”
少女の周りでは魔石が淡く光っている。少女の前には祭壇のような物が備え付けられていて、そこには何かしらの呪術的な雰囲気のする道具が置かれていた。
そして少女は白装束をまとって、一心不乱に呪文かお経のようなものを唱えていた。
「まるで入定のようですね、信長様」
「ああ、俺もそう思っていたところだ」
信長と蘭丸達は小声で話し合っている。皆、この少女が入定をする僧のように思えたのだ。
「ねえ、“にゅうじょう”って何?」
と、ガラシャがきょとんとした顔で質問をする。
「え?日本史の授業で習っただろ?坊さんが断食をして即身仏になることだよ。つまり餓死して仏様になる修行のことだ」
それを聞いたガラシャは「ああ」と頷いた。
「即身仏ならわかるわよ。その“入定”ね。じゃあ、あの子はここで死ぬつもりって事?」
ガラシャは眉根を寄せて信長に質問をする。もしそうだとしたら、あまりにも人の命を軽く使いすぎる。角が生えているので人族ではないかも知れないが、それでもまだ幼さの残る少女が即身仏になるなど考えられない。
「そうだな。そうかも知れん」
信長達が小声で話をしていると、緑色の髪の少女が口を開いた。
「はやく・・・逃げて・・・あなたたちも巻き添えになるわ・・・・」
“巻き添え?”
巻き添えと言うことは、この後何かのイベントが発生すると言うことだ。つまり、即身仏ではなくて何かに生け贄として捧げられるのだろうか?
「何が出てくるかは知らないが、俺たちがそいつをぶっ殺してお前を助けてやるって言ってるんだよ。とりあえずここを出るぞ!さあ、俺たちに付いてこい!」
そう言って信長は手を出したが、緑色の髪の少女はその手を振り払う。
「もし・・逃げたら・・・村が・・滅ぼされる・・・だから・・行けない・・」
「なんだ、やっぱり生け贄じゃねぇか。そうとわかればなおさら放っておけないな。無理矢理にでも連れて行くぞ」
信長は少女の手首を強引につかんで引っ張り上げた。その少女は想像以上に軽い。
「もう・・・手遅れ・・・・・」
信長に持ち上げられた少女は、祭壇の向こうにある高さ10mくらいの岩を見る。この広い空間の天井にまで突き刺さっている、巨大な一本の柱のような岩だ。そしてその岩が徐々に光を放ち始める。
音も熱さも感じない。ただ金色の光がこの空間を包んでいった。
そして、その光が少し弱くなった時、その大岩の前に巨大な生物が立っていた。
その巨体は薄い金色の光を放っている。その体は鱗で覆われていて、太く短い足で二本立ちしている。そして背中にはプテラノドンのような翼が広がっていて、ゆっくりと動かしている。さらにその上には、伝説にあるような竜の頭が三つ、鎌首を持ち上げてこちらをにらんでいた。
「あ、あれは・・・・・」
信長達はその巨体を見上げて固まってしまった。
「知ってる・・」
そうだ、俺たちはあれを知っている。何度も見たことがある。自分以外のあらゆる物に絶対的な敵意を示し、世界の滅びを望む存在。
「キング○ドラ・・・本当に居たんだ・・・」
その神々しいまでの姿に皆が心を奪われていたのだが、力丸だけはそれを凝視して観察をしていた。そして、
「いえ、あれはキング○ドラではありません。この三頭竜には腕がありますが、キング○ドラには腕は無いのです。ですから、あれはまがい物ですね。便宜的に、キングヒドラとでも呼称しましょう」
力丸の冷静な分析眼に、みな驚嘆した。本物のキング○ドラなら勝てるイメージは出てこないが、まがい物ならなんとかなりそうな気がしてくるから不思議なものだ。
「なあ、嬢ちゃん。お前は、あれに喰われるためにここに来たのか?村を守るためか?」
緑色の髪の少女は信長の目をじっと見て、ゆっくりと頷いた。そして口を開く。
「腕が、痛い」
少女は信長に腕を掴まれて持ち上げられたままだったのだ。




