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第二十六話 ボードレー伯爵邸(2)

 エルフの男達は信長達に一斉に切りかかった。その動きと太刀筋は素早く、今まで相手にしてきたエルフより数段レベルが高いようだ。


 しかし、信長達も遅れをとっている訳では無い。4対8と数的には不利なのだが、信長と蘭丸、坊丸と力丸がペアになってエルフ達の剣撃を防いでいた。


「信長くん!こいつらに魔法が効かない!」


「な、何だってーーー!」


 ガラシャの声に、力丸が大げさなリアクションをとってみせる。ガラシャはさっきから火魔法と氷魔法をエルフ達にかけているのだが、全く効果が現れなかった。


「ふっ、この鎧は封魔の鎧だ。初歩的な魔法など通さんよ」


 テリューズ騎士団長は不敵な笑みを浮かべる。無詠唱の魔法使いがいるということを聞いて、念のためこの鎧を着てきて正解だったようだ。それに、人族にしては想像以上に剣技のレベルが高い。部下達は肩や小手に何度か剣をたたきつけられている。鎧が無ければすでに全滅していてもおかしくは無かった。


「貴様ら、やはりただの人族では無いな。それにこの剣撃、強化魔法か。誰に雇われた?グラントチェイスター卿か?」


 ひ弱な人族とは思えない剣の速度だ。それに、打ち合ったときにも力負けしていない。おそらく強化魔法だろう。であれば、後ろにいるあの女がかけているのだろうか?


 テリューズ騎士団長は信長と少し間合いをとって、腰に装着したダガーを引き抜く。そしてそれを2本、ガラシャに向けて投擲した。


 キンキン


 投擲されたダガーは、瞬時に移動した信長の剣によってたたき落とされた。そして、テリューズが間合いをとった事によって、一瞬の隙ができる。その間にエルフの騎士二人が切り伏せられてしまった。重要な部分は鎧によって守られている為致命傷では無いようだが、内小手と太ももを切られてしまいもう戦列に復帰は出来そうに無い。


「おっさん、これで4対6だな。どうする?今なら突然襲ってきた事を許してやってもいいぜ」


 信長は邪悪な笑みを浮かべてテリューズを見る。


「ふっ、薄汚い人族が何を言う。アーチャー様を手にかけた罪、今償ってもらおうか!」


 そう言ってテリューズ騎士団長は信長に向かってダッシュした。その速度は今までの動きとは明らかに違っていて速い。そして中段からの斬撃は小さい動作から素早く繰り出され、信長の左肩を狙う。


 突然加速したテリューズに、信長の対応が一瞬だけ遅れてしまった。剣で受ける事は間に合わない。その剣先を躱そうと体をひねった。


 一瞬交差する二人。そして、剣を振り下ろしたテリューズに対して蘭丸が仕掛ける。その剣を受け流してテリューズは一歩引き下がった。


「信長くん!」


「よくぞ今の一撃を躱したな。しかし、それではもう戦えまい」


 信長の傍らには、その左腕が落ちている。肩への斬撃を躱す事はできたが、左肘の上あたりで切断されてしまっていた。


 テリューズが突然加速したのは、どうやら重傷を負って後ろに下がっているエルフが何かしらの魔法を使ったようだった。


「いい気になるな、おっさん。ガラシャ!雨を降らせろ!思いっきりだ!」


「えっ?でも、雨?」


「いいから降らせろ!」


 そう言われたガラシャは、上空に向けて魔力を集中する。そして、空気中の水分を凝結させて雨を降らせた。


 空気には、1立米あたり20gほどの水分が含まれている。ガラシャは、イメージの届く300m上空までの水分の凝結に成功し、それは約1200リットルの雨となってエルフ達の頭上に降り注いだ。


「足場を悪くして動きを封じたつもりか?やはり人族は低脳だな。この程度で有利になれるとでも思ったか!・・・・・な、何っ!?」


 降り注いだ雨は、深さ数センチの水たまりを作っていた。そして次の瞬間、その水が凍りついてしまった。


 その氷の温度は自然に生成される氷のレベルをはるかに超えて低く、エルフ達の足と地面をつなぎ止めることに成功する。


 蘭丸達はその瞬間を逃さなかった。


 動きの止まったエルフ達に対して斬撃を繰り出し、テリューズ以外のエルフの首を一瞬にしてはね飛ばす。そしてテリューズに対してはその両足を切断した。


 両足を失ったテリューズはその場に仰向けに倒れてしまう。


「おっさん、だれが低脳だって?お前ら、どうして水が凍るかなんて知らないだろ?封魔の鎧って言っても、鎧の外にはその効果は無かったようだな」


 切り落とされた信長の左腕は、坊丸が回収してガラシャに渡す。そして、細胞が死なないように魔法によって20度程度に冷やした。


「貴様ら、目的はいったい何だ!何のためにボードレー家を襲う!?」


「何でってもなぁ、ここに人族の剥製があるって聞いたから見に来ただけだ。それと、狩りに使っていた子供がまだ居るんだったら、そいつら開放してくれないか?」


「剥製に子供だと?そんな事のために襲ってきたというのか!?」


 エルフ達の常識では、人族は下等で同胞を守るという意識に乏しく、だから平気で同族の子供を狩猟用に差し出す事が出来るのだという認識だったのだ。


「悪いか?おっさん。人族だろうとエルフ族だろうと、娯楽で人を殺すような連中は胸くそ悪いんでな。お仕置きをして回ってるところさ」


「くっ、ばかばかしい。しかし、実際に我らを倒した事は事実。貴様らにこれをやろう」


 そう言ってテリューズは懐から一つの石を取り出した。それを自分の胸の上に置いた。


「最高級の魔石だ。冥土の土産という奴だよ」


 そう言ってテリューズは早口で何かの呪文を詠唱する。


 それを察した信長達は、全力で後ろに跳んだ。そして距離をとって地面に伏せる。


 そして次の瞬間、その魔石はまばゆい光を放って爆発した。


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