ことを急ぐ
夜は寝てはならぬ。
月の光が窓から差し込んできている深夜。私はベッドに寝そべりながら目を開けていた。寝てはいけないといわれたのもあるが……少し侑李の推理で気になるところがある。
というのも、犯行が今日本当に行われるのだろうかということ。
ここは個室で、階層は四階。侵入できるのはあそこの扉からしかない。
となると、ここで襲ってきた時点で見張りが怪しまれるのは避けられない。もし、見張りが犯人だとして、怪しまれない言い訳をどうやって作るのだろうか……。
私はそうやって考えていると、扉が開かれた音が聞こえた。
「寝てやがるな……」
私はうっすらと目を開けつつ、その男の姿を確認する。
スーツ姿の男性であり、手にはナイフを持っている。
「あの阿久津家とかかわりがあったとは……不良のくせに……」
ふむ、その言い方から察するに犯人だな。
これは侑李の推理が正しかったというわけだ。ことを急いでいる。阿久津家とのかかわりを見せたということで、捕まるのは時間の問題だと悟ったのだろう。
男は私に近づき、手に持ったナイフで突き刺そうと振り上げた。
「じゃあな」
「死ね!」
私は思い切り蹴り飛ばす。
顔面にもろに蹴りが入り、思わず倒れこむ男。私はベッドから起き上がり、電気をつけに向かう。明るくなった部屋では男の姿がしっかりとわかった。
男の顔には血がついている。血のりかなにかだろう。多分俺も襲われたという体で逃げ切るつもりだったんだろう。
「警察官が犯人だったわけだ。侑李の推理がマジで正しかったってわけだな。犯行時間も」
「野郎……」
男はナイフを持ち直す。
犯人が分かって戦うってんなら私は絶対負けない。
「不良のくせに! なにのうのうと生きてんだよ! てめえみてえな不良がいるせいで、俺の娘は! 俺の妻は!」
「何があったか知らねえけど、八つ当たりされる筋合いはねえよ!」
私は思い切り殴り飛ばす。
男の体がテレビに当たり、テレビが割れる。男はまだナイフを刺そうとしてはいるが、ナイフを持った相手と戦うことは何度もあったから大体は対処できる。
ことを急いだのが敗因だろう。
「オラァ!」
私はとりあえずナイフをかわし、腕をつかみ地面に押し付ける。ナイフが手から離れ、私はナイフを蹴り飛ばす。
「おらどうした! 警察なら逮捕術とか学んでんだろ! 素直に肉体戦に持ち込めや!」
「何事ですか!」
と、警察の人と看護師さんが駆けつけてきた。
「せ、先輩!?」
「なにしてるんですか! 離れて離れて!」
「先輩から離れなさい! なにしたのかはわかりませんが……」
「ふむ、どうやら私の読みはあっていたようだねェ」
「ふあーあ……きたんだ……」
と、突然入ってくる侑李と衣織。
「まだいたのかよ」
「まぁ、君がこういう状況になるのはわかっていたからね。とりあえず、証拠としてここにカメラを仕掛けていたんだ。ばっちりナイフを突き刺そうとした場面が映し出されているはずだよ」
と、テレビのリモコンを手に持っていた。
そういや、話している最中にテレビのリモコンを入れ替えていた気がする。見ていなかったが、なんかすんなりと入れ替えていたらしい。
「ことを急がなければまだチャンスはあったのにねェ。考える脳もお粗末というところかな? 実に滑稽だね」
「くそ……クソ! てめえのせいで……!」
「かのちんを恨む理由はないよね? 殺そーとしたのはどう考えたってあなたが悪いよ!」
「せ、先輩……?」
「そこの警察官。素直に連行するといいよ。現行犯逮捕、できるだろう?」
「え?」
「目の前に殺人犯がいるのに捕まえないつもりかい? 先輩だからといって殺人犯を野放しにするというのはどうだろうねェ」
意味が分からないという顔の警察官。だがしかし、手錠を用意していた。
「せ、先輩。た、逮捕します?」
「放せ!」
と、犯人は足で警察官を蹴り飛ばす。
それでやっと理解できたのだろう。警察の人は犯人を睨みつける。
「先輩……」
「てめえらのせいで、俺の人生はめちゃくちゃなんだよ! どいつもこいつも!」
「うるさいです! 逮捕する!」
と、蹴られながらも手に手錠をかける警察の人。
看護師さんはどこかに電話していた。
「け、警察呼んだので!」
「ナイスです! 警察車でおとなしくしててください、先輩」
「クソ……! 俺の人生はここで幕切れかよ……」
と、抵抗をやめ、つまんねえとうつむいたのだった。




