天性の喧嘩の才能
翌日、午前10時。
私はちょっと寝坊して、時間ぴったしについた。他の4人は既にハチ公前に立っており、私が最後のようだ。
「わり、寝坊した」
「遅いぞー」
ハチ公前につき、謝る。
「んじゃ、まずみんなでカラオケ行こっか」
「わかった」
そういうと、突然背後から声が聞こえた。
女性の甲高い声。こいつらのファンだという女性だった。ミナヅキこと、菅原は笑顔で手を振りファンサービス。本田はめんどくさそうにおうと手を振っている。
「かっこいい顔にしか興味ないクズ女が……」
と、小声で言っていた。私は思わず菅原を見る。
「そういうの直しなさいって言ったでしょう?」
「あはは。ごめんごめん。つい、でも、ああいう女はやっぱ嫌いなのはしょうがないでしょ」
「…………お前そういうキャラ? 女嫌いかよ」
「そういうわけじゃないよ。大多数の女が苦手ってだけ。君たちみたいな子ならいいんだけどね。どうしてあんな女は消えないんだろうか」
笑顔で毒を吐いている。
「あー、そっか。ゼーレ……。実名なんて言うんだよ」
「市ノ瀬 花音」
「市ノ瀬は知らねーよな。こいつ仮面被った女嫌いだ」
「…………」
「ま、阿久津の方とは小さい頃からの知り合いで、気が許せてるし、衣織のほうはウザいくらい話しかけてくるから慣れたって感じだ」
「女嫌いがなんでアイドルなんか……」
「イケメンであるからこそ、金を落とすでしょ?」
うわぁ、黒い。アイドルの裏ってこんななのかよ。
てか、女嫌いなら私をなぜ誘った。
「私も女だが女に見られてねえの?」
「唯臣が憧れるヤツだろ? 悪い子ではないでしょ。僕はギャーギャー姦しくて顔しか見てない女どもが嫌いってだけで」
「…………」
「はいはい、アイドルの裏の顔はカラオケで話しましょう。あなたたちアイドル二人は女性もいるとスキャンダルものなんですから」
月能が話を切り上げて、私たちはカラオケに移動することにした。
カラオケの席に座り、私はとりあえずドリンクを頼む。メロンクリームソーダを頼み、曲を入れる。
私の好みの曲はアニソン。私は割とアニメが好きだ。
「よし、キュアキュアOPでも歌うか!」
「女児アニメですよねそれ」
「面白いぞ。きゅあっ、きゅあっ、キュアキュア〜!」
「伝説の不良がキュアキュア好きっていうのは初耳だな俺も。割と調べてるんだが」
「性別もわかってなかったくらいだしそこまで深く調べてないよね???」
「るっせ。金ねーから探偵とか雇えなかったから聞き込むしかなかったんだよ。喧嘩したやつも恐ろしい化け物とかしか言わねーしよ」
化け物という言われようはひどい。
そう思いながらもキュアキュアOPを歌い切った。熱唱したのでものすごく疲れた気がする。
「ふぅ、歌ったぜ……。次誰か歌えよ」
「じゃあ私がうったうー! の前にトイレ!」
「はしたない……。まあ、私も少々……」
「うん。行ってらっしゃい」
月能と衣織が出ていった。
入れ替わりで店員がメロンクリームソーダを持ってくる。私はストローで飲んでいると、菅原がなにやら観察するように私を見ている。
「んだよ」
「……君、本当にその蒼眼の死神という人かい? 今の君を見ているとそういう感じはしないのだけれど」
「嘘じゃねえよ。青い瞳してんだろ」
「カラコン?」
「自前。ドイツ人とハーフなんだよ……。と、あの店員ドアをキッチリ閉めずいきやが……」
と、ドアを閉めようと立ち上がると外から「やめてくださいお客様」という先ほどの店員の声が聞こえてきた。
外を見ると、明らかに悪そうな男に二人が捕まっていた。やめてと反発するが、遊ぼうぜと自分達の部屋に引き込もうとしている。
「…………」
私は行動が早かった。
「テメェ、人の連れに手ェ出してんじゃねーよハゲ」
「んだぁ? こいつも女か! おら、こっちで……」
私は言い切る前に男をぶん殴る。男は殴られた衝撃で壁に背中を打つ。
もう一人の男は、嘘…‥と固まっている。
「コイツらと遊びてぇならまず私の相手しろや……。話はまずそれからだろ。それに……」
私は店員を壁までやり、壁に手をつく。
「このことは警察とかにも言うんじゃねえぞ……。カラオケ店でよくある男女の性行為だと思え。安心しろ。血は極力出さねえし、そういったことはしねぇ。迷惑かけるが、しーっ、だ。いいな?」
「は、はひっ!」
私は男二人をその男たちの個室に連れ込んだのだった。
そして、中ではテーブルなどに極力当たらないよう気をつけながら、男たちを痛めつけた。
男たちは「もうしません……」とうわ言のように言う。私は男たちの髪を引っ張り顔を近づける。
「聞こえねえな。もっとハキハキ大きく喋れや」
「もうしませんんん!」
「よし、言ったな? もうすんじゃねえぞ。それに、そんないくじなしならヤクザなんてやめちまえ」
「えっ!? いつ俺らが……」
「見えてんぞ。紋々が」
はだけた肩から刺青が見えた。
「玉網会の奴らだろテメェ。このご時世にヤクザの紋章をポッケに入れてるやつなんて久し振りにみた」
「組まで……?」
「そこの組は私が一度しばいたからな。拳銃出された時にはマジで焦ったぜ。そこに私の名前……市ノ瀬 花音を出してみろ。喧嘩売りにくるのはバカか、怖いもの知らずのやつだけだ。狭間のやつによろしくな」
そういって、そのヤクザたちは逃げていったのだった。
そして玉網会の事務所で。
「喧嘩して負けただぁ? 組の看板背負ってんのに負けやがって……。しゃあねえ。俺がいってやる。相手は?」
「市ノ瀬 花音と」
そう言った時、明らかに強面の男性がソファに足をぶつける。
「なぜお前らそいつに喧嘩売った!」
「そいつの連れに手を出しちまいまして……」
「馬鹿野郎! そいつ、昔単身で乗り込んできて組を半壊させたバケモンだぞ! あいつ自身が辞めなかったら俺らいなかったんだ! 馬鹿野郎!」
そういうと、その男は他の兄貴と呼ばれる身分の人にも言い始めた。その男たちの顔色が青くなる。
「あれは死神だぜ……。アレに迂闊に手を出しちゃいけねえよ……。チャカで撃っても死なねえバケモンだありゃ……」
「たかが高校生ですよね……?」
「たかが高校生に怯える俺らが異常だと思わねえのかテメェ!!」
「喧嘩してみてテメェら、一発も殴れなかっただろ?」
「はい……」
「アレは天性の才能だ。あの年で度胸も、俺らみてえにある。天才という器より遥かに大きいヤツだ……」
蒼眼の死神は、天性の才能、というよりかは神と等しい喧嘩の技能を持っていると評された。




