父さん
4時間かかってしまって、夜となる。
私はログアウトして、病院のご飯の時間を迎えた。
「クソ、現実だと左目見えねえ……。慣れねえな。左目真っ暗なの」
「はは。そうだろう」
「あ、茂治さん。きてたんすか」
「ああ。君にお客さんがいてね」
と、言って入ってきたのはいつぞやの西谷、南国、北海の人たち。
「大丈夫かよ。喧嘩で負けるなんてなにがあったんだ? 蒼眼の死神様がよォ」
「災難だったねー。左目失っちゃったんだっけ……」
「負けたっつーか、相打ちな。あっち拳銃持ってたんだよ」
「左目それで撃たれたってわけかよ。よく生きてんな。普通死ぬだろ」
「まぁ、私タフだし」
「タフって話じゃねえと思うが」
「そうですねぇ〜。花音さんはきっと自己修復能力がものすごく高いのでしょう〜」
「んだそれ」
「はるか昔、戦争で死ぬ傷を負った兵士が次の日には歩き回っていたということもあるくらい、そう言った人がいるんです〜」
「聞いたことある。その人、死ななかったんだっけ」
「ふーん」
きっと私はその人と同じで自然回復するのがものすごく早いんだろう。
「左目、見せてみろよ」
「ん?いいぞ」
私は包帯をとって、目を開けてみる。
「うげ、空洞……」
「なかなかグロテスクだね……」
「見せろつったから見せたんだぞ。それで、何のようだよ。わざわざこんな夜遅くに訪ねてきたんだ。なんか用事があんだろ?」
私は包帯を巻き直す。
「あー、前にさ、パーティで東山っていうのいたのわかる?」
「あー、なんかものすごく嫌味を言ってきた奴」
「そう。その東山がねぇ、パーティを主催するらしくて」
「ふんふん」
「で、その招待状を持ってきたんだけど……いく?」
「なんで?」
あの東山ってやつ私にあんなこと言って誘ってくるの?
「何でって魂胆は見え見えだろ。マナーとかなってねえのを見せびらかして貶めるためだろうが。陰険な奴」
「あー」
「とりあえず、恥をかかせようとしてるんです〜」
「東山家は選民志向がすごいからね。私でも手を焼くくらい聞く耳持たずさ」
上流階級に私のような下賤の者が入り込むのが嫌なのだろう。
たしかに、物語ではこういう私のようなやつがそういった高貴な場を乱す。それはあくまで物語の中だけだが。
「とりあえず、参加しないって方向でいいよね? 理由は怪我による入院のためってことで」
「お前も気をつけろよ。東山は割と狡猾であの手この手で嫌がらせとかしてくるからな。オレたちでもなんとか食い止めるけどよ、止められなかったら悪いな」
「いや、いい。そう言った考えも理解はできる」
「だからそんなこと言わないの」
「理解はできるってだけだ。納得はもちろんしねぇ」
納得できるもんかよ。なぜその程度の理由でこんなことされにゃならんのだ。
「じゃ、伝えることは伝えたので私たちはいきます〜。お大事に〜」
「ああ、ありがとな」
「阿久津様もわざわざ時間いただきありがとうございました」
「いや、構わないよ」
と、三人が出て行った。
「それで茂治さんも何かお話があるんじゃないですか」
「特にないが」
「ないんすか? じゃあなんで……」
「娘の見舞いに父親が来てはいけないのかな」
「……いいとは思うんすけど」
なんか、慣れねえ。
茂治さんが悪いってわけじゃねえけど、なんか慣れねえ。
「……娘扱いされんの慣れてないんでやめてください」
「はぁ……。君は思ったより重症みたいだな」
「重症て……」
「まぁ、無理もない。君はいつも一人で生きてきたのだろうからね」
「はぁ」
「花音。とりあえず、今日から茂治さんと呼ぶのをやめようか」
「じゃあ何て呼べば……」
「お父様、もしくはお父さん、だ」
「そんないきなり……! 無理っす!」
「無理じゃない。やるんだ。でないと月能とは二度と会わせない」
と、脅しをかけてくる。
いきなりそんなこと言われてもな。父さんだなんて今更呼ぶのも恥ずかしい。
「君はこうでもしないと馴染もうとはしないからな。月能と二度と会えなくなってもいいのなら呼ばなくてもいい。君には一番これが効くはずだ」
よくわかってるのがムカつく。
小遣いなしとかならまだギリギリ生きられる。バイトとかして食いつなげるしな。
ただ、月能と会わせないってのは……。強引すぎやしねえか? 月能が許すのか?
いや、あいつはそれなら許すな。うん。間違いなく。
「……父さん」
「ふむ、お父さんではないが許してやろう。普段からそう呼ぶように」
「……むず痒いぃ」
「慣れたらそうでもないさ。では、私はこれで。安静にするようにな」
そういって病室から出ていくと同時に食事が運ばれてきたのだった。
私は病院食を食べる。
「…………父さん、ねェ」
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