87_ゼネラル・エレクトロニクス秘匿戦④
ラビット小隊のステルス行動で初手を取られたG.E特務艦隊。3隻いた巡洋艦は2隻に数を減らしたが、撃沈された巡洋艦から出撃が間に合った艦載機部隊はラビット小隊へと迫っていく。
「熱紋照合、セクレト試作11世代TSFデスペラード、並びにVTSFヴェルニス・パイロットライン。及び不明機2を確認。内1機はエルセリア連邦の機体と断定」
「ブラボー、デルタ、エコー小隊交戦中」
「アルファ、チャーリー小隊通信途絶。エコー3中破、後退します」
「敵艦の解析状況はどうなっているか」
「艦種特定、ラビット級強襲揚陸艦ラビットⅡ。セクレトアスティエロの新造艦です。ENG出力は公称値から逸脱しており、戦艦クラスの出力を保有している模様」
「あの小型な船体でグラビティシールドの常時展開が可能な理由はそれか。セクレトめ、東雲技研のような真似を」
押されている。G.E指揮官は苦しい表情を浮かべた。
(先手を取られたとはいえ、たかが商会の戦力に我々がこうも翻弄されるのか……いや、再誕計画でのあの2機の働きを見るに、戦えばこうなる可能性が高いことは予想していたことだ。
しかしそれを差し置いてもセクレトの特機戦力、噂にたがわぬ性能だ)
再誕計画。帝国軍次期主力機選定の場は、機体の売り込みの他に、各企業の技術を大手を振って盗み見ることが出来る場でもあった。
特に模擬戦で無敗、その後のヴォイド殲滅戦で多大な戦果を挙げたデスペラード、ヴェルニス・パイロットラインは入念にデータを取られており、G.E内でも仮想敵として想定していた難敵だ。
(シミュレーション上だが、たった2機で帝国軍1個分遣艦隊に勝利した相手だ。無理な攻勢を仕掛けて防衛ラインを突破される訳にもいかん。組織的な防衛に徹し、スターゲート宙域から増援に来るまでは現状を維持するのが得策か)
つい最近G.E本社で行われた戦闘シミュレーション。そこでは再誕計画で得た2機のデータと、一般的な帝国軍分遣艦隊を並べた机上戦闘評価が行われたが、結果はデスペラードとヴェルニス・パイロットラインの戦術的勝利。つまり艦載機部隊を全滅に追いやられるか、艦隊の半数を墜とされるか。あるいは旗艦を撃沈されるか。
そんな結果はあり得ない。あり得るはずがない。
何度もシミュレーションを繰り返したが、G.Eが誇るセントラルネットワークが導き出す結果の全てが2機の勝利で終わった。何度試そうが、不利な状況から始めようがそれは変わらなかった。
たった2機でそれ程の戦果を挙げる敵に、一体どう挑めばいいのか。仮想敵として扱わなければいけない作戦室は頭を抱えた。
その2機を含む部隊が、G.E指揮官の前に実際の敵として現れてしまった。たった2隻とその艦載機部隊で討ち取れるなどはずが無い。G.E指揮官は持久戦の構えを取ることに決めた。
「味方の増援はどうか」
「オプシディアン・ハーベスターズへ向かっていた艦隊は、ハイパーレーンをこちら側へ向かって転進しています。合流まで3600sec」
「長すぎる。スターゲート宙域に待機していた”例の部隊”はどうか」
「既にワープ航法に入っています、合流まで360sec」
「良し、増援到着まで本艦を中心に防御陣形を形成する。小隊各機は艦の直掩に付け。当てなくていい、牽制しながら3機を囲い込め。逃げ道を無くした所で艦砲による撃墜を―――」
「ブラボー小隊、エコー小隊通信途絶!」
「デルタ1帰艦、被弾いる模様」
『デルタ1からHQ! 畜生何なんだあいつ等!? 彼我のスピードが違い過ぎてまるで歯が立たん!』
頭部と片腕を失いながらも帰艦したデルタ1からの恨み節が通信に乗る。焦燥に染まった声がブリッジ内に響くと、静まり返った中で誰かの息を呑む音が聞こえた。
「被撃墜速度が早すぎる……」
モニターに表示される残存機数がひとつ、またひとつと減っていく。
(3隻合わせて48機の部隊だぞ、化け物め!)
G.E指揮官は拳を握り締めた。今この宙域に集められたのは名のある傭兵上がりや元軍人で構成された部隊だ、G.Eが用意できる最高水準の部隊であることに疑いの余地はない。
それが、たった三機の敵を相手に手も足も出ない。
時間を稼ぐと決めたはいいが、相手はそれを待ってくれるつもりは無いらしい。
◇
エリーの目の前で2機が踊り狂う。上下に挟み込み、入れ替わり立ち代わり居場所を変える2機は驚異的な運動性能により疑似的な包囲網を形成。翻弄された敵機は無暗矢鱈に射撃を繰り返す。
『エリー!』
「コイツで!」
オキタとリタ、息の合った二人が意図的な逃げ道を作った所に、エリーはソードライフルからビームを放ち直撃させる。改修されセイバーリング・アンセスターと名付けられたエリーの機体から放たれる高出力ビームはTSFのシールドでは防ぎきれず、一撃で機体中央に大穴を空けた。
『行くぜ―――!』
その声を切っ掛けにレーダー上の赤いマーカーの中に突っ込む3機。
巡洋艦が張る雨のような弾幕さえ、まるで無かったかのように突き進む高機動兵器。これこそがTSFの神髄とでも言わんばかりに3機はスロットルを空けた。
先頭を行くデスペラードがウェポンコンテナ上部のミサイルッチを一斉射。続けて両腕に構えたアサルトライフルを乱射すると、避けきれなかった数機はライフルの直撃の後に追撃のミサイルを受けて爆散する。
『私が!』
オキタが空けた穴の出血をさらに広げるため、リタがVSF形態で巡洋艦へと向かう。行かせまいと追いすがる敵機からの射撃をB.M.Iの感覚を頼りにノールックで躱し、宙返りをしながらTSFへと変形。僅かな変形の合間にリタは視線を素早く敵機に合わせロック、2丁のビームマシンガン、ミサイル、背部ビームキャノンで迫る敵を撃ち抜いて行く。
「邪魔だよ!!」
そんな二人を追い抜き、爆発的な加速で先頭へと躍り出たセイバーリングが敵機に斬りかかる。敵機はビームサーベルに持ち替え、左手に持つ物理シールドを構えて迎え撃とうするが、高速で振動するセイバーリングのソードライフルはシールドごと敵機を両断した。
周りから見たら正気を疑う高機動。機体の慣性制御を超えたGとなって身体をシートに押し付ける。
3つの青のマーカーが赤色と交差する度に、摺り潰されるように赤のマーカーが消えていく。
『っ、敵主砲発射態勢!』
リタの注意喚起の合間も鳴りやまないロックオンアラート。三機は敵艦から放たれた主砲をスラスターを噴かして表面を舐めるようにで躱すと、遅れてやって来るのは視界を覆いつくす程のミサイル群。
『今更そんなもんに!』
『当たるほど軟な死線は潜ってない!』
飛んでくるミサイルの中へと突っ込んで行く3機。避けられない物だけ撃ち落とし、最低限の動きでキルゾーンを抜けていく。
『合わせろ!』
『任せて!』
「やらいでか!」
(久しぶりなオキタの無謀な突撃だけど……合わせる!)
スラスター出力はレッドゾーンへ。エリーは自身の顔が引きつっているのを自覚した。
何せ頭のネジが抜けているのではないかと錯覚するほどの強行突破。スラスターが全身に取り付けられているデスペラードは兎も角、リタのヴェルニス・パイロットラインすら無謀とも思える3次元的な機動で、時には変形しながら機体の上下を入れ替えるように迎撃の中を付き進んで行く。
唯一セイバーリングは滑らかな軌道を描いているが、派手さがないだけでやっていることは変わらない。三機はシェイカーの中で振られ続けているかのような機動で前へと邁進する。
セイバーリングはその先鋒として敵へ切り込み、直後にデスペラードが直角を思わせる機動で豊富な武装を叩きこむ。その後をヴェルニスが理想ともいえる援護でスペースを広げ、邪魔となる敵だけを最速で撃ち抜いて道を作る。
自分たち以外なら射撃はおろか、格闘戦すら真面に出来る速度域ではない。安全域など疾うに過ぎ去った本気の轢き殺しがそこにはあった。
(息が苦しい、でも!)
「13時に3つ! 10時に1つ!」
『俺がやる! 構わず行け!』
オキタは行きがけの駄賃だと10時方向へ操縦桿を斃し、そのままシールドの乗った機体で体当たりを仕掛ける。溜まらず放たれたビームライフルは直撃コースに載るが、その全てがグラビティシールドによって阻まれる。
『オラァ!!』
弾切れの武器をリロードする暇すら勿体ないと勢いそのままに蹴りを入れ、吹き飛ぶ敵機の結末も見ずに元の軌道に戻る。
時間を掛ければ不利になる。焦るオキタは巡洋艦と敵機が張る弾幕の中に再び飛び込もうとするも、その頭を抑えようと敵機が包囲網を敷いて十字砲火を浴びせ始めた。
オキタはお構いなしに突っ込むが、四方八方から跳んでくるビームを避けきることが出来ず、機体のグラビティシールドに負荷を与える。
『うおっ、ヘタこいた?!』
ビームやレーザーには絶対的な防御力を誇るグラビティシールドだが、それだけにENGに懸かる負荷は大きい。目減りしていくエネルギーにオキタは舌打ちした。
『これは当たってねぇだろ!』
「バカでかいシールド張ってるから、引っかかってるんだよ!」
『っ、機体感覚とシールド範囲のズレか!?』
本来数センチの余裕をもって避けたはずの攻撃も、シールドが機体の外側に大きな円を描いて張っているせいで引っかかってしまう。デスペラードに乗り換えてから今まで、直撃らしい直撃を受けて来なかったが故の出来事だった。
『援護する』
「さっさと合流!」
『すまん!』
一時後退するデスペラードを無理に追いはせず、近づけさせないように弾幕を形成するG.E艦隊。速度を殺された3機に迫る火線も、それでも先程に比べると少なくなっている。
「削り切るにはもう少し足りないか。特殊部隊の名前は伊達じゃないね」
『でも、これを突破しないとどうにもならない』
「分かってるよ」
エリーは歯噛みしながら隣の2機を見た。
エリーが知る最強はオキタだ。そんなオキタに並べるのは自分だけだという自負がある。”今は”自分がオキタの隣に相応しいと確信している。
そんなオキタが軍に居た頃、その隣には絶対的な右腕がいた。嘗ての部下、クラウディア少尉だ。
個人技に秀でるオキタの僚機を務め上げた彼女がこの場に彼女がいれば、その圧倒的な援護を以てオキタを活かせていただろう。先程蹴りを入れに行ったが、彼女がいればそんな無駄な動きなどさせずに一度の射撃で墜としたはず。エリーが知るクラウディアはそれくらい簡単にやってのける。彼女にはそれが出来るだけの腕も、一足飛びに死地へと飛び込むだけの覚悟も持ち合わせている。
(悔しいけど、ボクはまだクロの代わりには慣れない。けどボクとリタの二人なら、クロの代わりは出来る)
歯嚙みするエリーの脳裏に浮かぶ四本腕のTSFの姿。狙撃手にも拘らず、突撃するオキタの機動砲撃戦にぴったりと付いて行き、何処に目が付いているのか背後から迫る敵すら片手間に墜とすのは嘗ての戦友の姿だ。
あの域に達せない今の自分たちではオキタを満足に活かせない。だが時間がない中、突破力を求めるならやるしかなかった。
『ラビットホームからラビット小隊へ。敵艦がワープアウトしてくるよ、注意して』
『ちっ、タイムオーバーか』
「けどやることは変わらないよ!」
ワープアウトして来る1隻の戦艦。軋む身体に疲労が滲む、エリーはそれを自覚しながら自身を鼓舞するように声を張り上げる。
その隣で、リタとオキタは確信ともいえる違和感を感じ取っていた。
『……オキタ』
『ああ……お前が前に言ってた感覚、今の俺にも何となく分かるぜ。
いるな、あそこに。ΑΩを載せた機体が』
リタは背筋に奔る悪寒を。オキタは僅機体越しに感じた僅かな気配を。
『全員気張れよ、ここからが本番だ』
戦艦から出撃するG.Eの第11世代機を見て、三人は操縦桿を深く握り直した。




