外伝 アスラン 17
田舎貴族の男爵令嬢という設定で、他のご令嬢達に挨拶を済ませて話を聞く方に専念しておくと、周囲の少女達からこれも食べなさい、あれも食べなさいと、美味しい物を餌付けされる時間が続いた。
「食べる姿も可愛らしいわ」
「本当に」
ただ、そうした中でも、どの令嬢が父親に何と言われてここに来たのかや王子の婚約者になりたいのかなりたくないのかなど、様々な話を聞くことが出来た。
ほとんどのご令嬢はヴォルフガング公爵令嬢がジャンの婚約者となると思っている様子だ。
そしてついにヴォルフガング公爵令嬢であるソニア嬢が現れた。
美しい金色の髪に菫色の瞳の少女はあまりにも美しく、周囲のご令嬢達も感嘆の声をこぼす。
「皆様ごきげんよう」
「「「「「ごきげんよう、ソニア様」」」」」
ただ、僕としては彼女の身に着けている魔術具のネックレスの方が気になった。
彼女の近くは高位貴族が固まりはじめ、近くで話しの輪に加わることは難しそうである。
僕は遠目からその様子と話を耳をそばだてて聞くことに専念した。
その時ファンファーレが鳴り響き、ジャンが登場すると少女たちは深く一礼をする。
僕はそれに習い一礼をする。
「皆、顔を上げてくれ。今日は楽しいひと時を過ごそう」
その言葉で皆が顔をあげるが、僕としては王子とは大変なのだなとそんな風に思った。
ジャンと不意に視線が合うと、一瞬、いつものジャンの顔に戻りこちらに、ニッと笑顔を向けた。
からかっている。
僕はため息をつきそうになるのをぐっと堪えたのだった。
その後、ジャンが登場したことでご令嬢達はさらに楽しそうに会話が広がり、会は和やかに進行していった。
僕は会話に混ざり会話一つ一つを拾い情報を収集していく。そして、数時間後にやっと会が終わった時にはげっそりしていた。
長かった。
ただ、情報自体は集まったのでよしとする。
女性とはよくあぁもまぁ話が尽きないものだと感心もした。
別室へと一足先に戻った僕は、髪に着けられた装飾品やアクセサリーを外し、洋服を脱ぎ捨てようとした。
そこへ、ゲリーとリードが僕の様子を見に部屋へと入って来た。
「うをっふ……くそ。違う。こいつは男だった」
ゲリーがそう呟き、何故かリードは目を両手で覆っていた。
「あああああ、アスラン。すまないけど、なんだか見てはいけないものを見ている気分になるから、せめて仕切りの後ろで着替えてくれないか」
僕はため息をつき、仕切りの後ろへと行くとドレスを脱ごうとするのだが、後ろの留め金が外れなくていらいらとする。
「ゲリー! 手伝ってくれ。一人じゃ脱げない」
僕がそう言うと、ゲリーが言った。
「嫌だね。侍女連れてくるから待ってろ」
「リード!」
「僕も嫌だよ。脱がせ方なんてわかんないし」
僕はため息をつき、近くに会った椅子に腰かけると侍女が来るのを待った。
そしてその後は侍女の手伝いがあってやっとドレスを全て脱ぎ着替えることが出来たのであった。
僕は大きく背伸びをすると、用意してもらっていたレモン水を一気に飲み干した。
「女性とは、すごいな」
僕はそう呟く。あんなにも窮屈な物を着ながらもそんな素振り見せずに優雅に微笑むのだからすごい。
しばらくしてからジャンが部屋へとやってくると、ネクタイを緩めてソファへとごろりと横になった。
「疲れた」
そりゃああれだけ猫を被っていれば疲れるだろう。けれどすぐにジャンは姿勢を正してソファへと座ると言った。
「どうだっただろう。何か有益な情報はあったか?」
僕は少し考えてから、聞いた情報を思い出しながら呟いた。
「いろんなことを令嬢達は話していたが、一番気になったのはヴォルフガング場が身に着けていた魔術具のネックレスと、それに伴って話題にでた、屋敷に魔術師を召し抱えたという話だな」
「魔術師を?」
その言葉に、リードが口を開いた。
「最近、ガートレード様のこともあってか、魔術師を貴族の屋敷で召し抱えるということも増えて来たそうです。流行になりそうだと母上が話しておりました」
貴族の界隈では昔からそうした流れが何度か起こっていたらしい。
僕は本で読んだことを思い出しながら、それであのような魔術具をソニア嬢はつけていたのだなと思った。
「ソニア嬢の付けていたネックレス。あれは護りの魔術具だ。危害を加えようとする相手から身を護るものだな」
僕がそう告げると、ジャンが眉間にしわを寄せた。
「屋敷に魔術師を召し抱え、そして護りの魔術具? この王城につけてくるのは、不自然に思えるな」
「何か危険なことでもあるんじゃないか?」
「……少し調べてみる」
ジャンはそう言ったあと、僕を見て笑うと言った。
「だが残念だな。あんなに可愛かったのに! もういつものアスランだ」
僕は揶揄っているのだなと思いながらも、その揶揄いがいまいちわからないので肩をすくめたのだった。
男の恰好だろうが、女の恰好だろうが、どちらでも変わらないと僕は思う。
その後の時間はのんびりと過ごし、僕は今回見知った情報についてはノートにまとめてジャンに渡すと告げて屋敷へと帰ったのであった。
ただ、屋敷に帰った僕をガートレード先生が怒った様子で待ち構えている何てこと想像もしていなかった。
この時のアスランはまだ友達を思う気持ちはなく、言われたから一緒にいる、頼まれたからやる、という状況なのです(/ω\)








