表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/88

外伝 アスラン 1

「気持ちが悪い……こいつは人間じゃねぇよ。化け物だ」


 こちらを見て酷く気持ち悪そうに吐き捨てられた言葉。


 次の瞬間、頬を殴られて、地面に転がった。


 頭がぐわんぐわんと揺れて、口の中に血の味が広がった。


「おい。殺すなよ」


「わかっているよ。ただ、ちょっと教育するだけだ」


 そう言って、何度か蹴られ続けた。


 全身が痛くて、うめき声を上げながら、喉の奥からひゅーひゅーと息を吐く。


「ははは。こんだけ蹴られても、悲鳴すらあげない。さすが化け物だな」


 にやにやとした笑みを浮かべた男は僕を蹴ることに飽きたのか、椅子に座って煙草をふかし始めた。


 煙草匂いが部屋いっぱいに広がっていく。


「おい。寝てないで水くみしておけよ」


 そう言われ、僕はふらつきながらも体を起き上がらせると、バケツを持って外に出た。


 外は、雪がちらついていた。


 空には厚い雲がかかり、地面に積もった雪の上を、ざくざくと音を立てながら歩いていく。


 ……寒い。


 白い息を吐きながら、空を見上げる。


 肌に触れた瞬間溶ける雪。瞼を閉じれば、シンとした、無音の世界が広がる。


 自分の息遣いが聞こえる。


 目を開け井戸に向かってみずをくもうとしたけれど、何度縄を引っ張っても、桶を上げられない。内側で凍っているようだ。


 ぼろぼろの指が切れて血がにじむ。


 それをぺろりと舐めて、ため息をついた。


「……ダメか……仕方ない」


 バケツに綺麗な雪をあつめていれ、近くの、天井が半分壊れてすでに使われていない納屋までいくと、納屋に残されていた干し草と木の枝で焚火の準備をする。


 そして、持っていたナイフで自分の指先を切り、血をぽたぽたと流しながら、床に魔術陣を描いていく。


 出来上がり、魔力を流すと焚火に火が付いた。


「よし……これであとは溶かすだけ」


 縄を天井の梁にかけてバケツ吊るし、火の熱で中の雪を溶かしていく。


 そんなに時間はかからないはずだ。


 ただ、指先も足先も寒くてたまらない。せっかくだからと火に近づけて温める。


 すっぽりと天井に開いた穴から、薄暗い雲を見つめていると、楽しそうな声が聞こえた。


 声につられて壁に開いた穴からのぞき見ると遠くの道先で、この先にある町の子どもが、両親と手をつないで歩いていた。


「雪だ! 雪! わぁーい!」


 喜び、はしゃいだ子どもは両親の手から離れて、ちょっと走ったら転んだ。


 子どもは泣きわめき、両親は心配して立たせた後、今度は抱き上げられていた。


 温かそうな衣服に、笑顔。


「……走れば転ぶ。雪が見えないのか」


 僕はバカなのだろうかと思いながらバケツの中身を確認すると、雪がしっかりと解けていた。


 それを持って、家の中の水瓶に入れると何度か繰り返していく。


 そして水瓶がいっぱいになったところで、焚火の火を消した。温かさが少し名残惜しかった。


 家の中に戻ると、男達が武器の準備をしている。


「おい。今晩狩りがあるから、準備しておけ」


 僕はこくりとうなずいてから、男達の食べ残しの食事をじっと見つめた。


 狩りの前に出来れば何かを胃に入れておきたい。


 少しでも食べられたら、それで動ける。


 そう思っていると、男がこちらを見てにやにやと笑った。


「お? 腹が減ったか? 欲しいのか?」


「ください。動けた方が狩りが上手くいきます」


 男はその言葉に舌打ちをすると、パンを床に投げ捨てた。


「はぁ。可愛げがねぇ。外で食え。目障りだ」


「はい」


 さっとパンを拾い、外へと出た。


 先ほどの火を残しておけばよかった。そう思っていると、納屋の方からパチパチと焚火の音が聞こえた。


 向かうと、そこには見知らぬ男性が座っており、焚火で温まっていた。


「ん?」


「……誰」


 訝しんで尋ねると、中年の男性は帽子を取った。茶色の髪に垂れ目の男性は、優しそうな笑みを浮かべると言った。


「私はガートレードという。ちょっと一休みさせてもらっているよ。あぁ、ホットミルクがある。飲むか」


 僕は首を横に振り、ちらりと家の方を見てから、僕は答えた。


「早く行った方がいい。ここの住人は気が短い」


 その言葉に、ガートレードはくつくつくつと笑い声を静かに立てる。


「幼子が、大人みたいな喋り方だな。そなた、名前は?」


 ガートレードの言葉に、僕は何とも言えない気持ちなる。


 人間だれしもが名前を持って生まれるわけではない。


 だが、それをこの人に言っても仕方がないだろう。


「答えない。それより、そこは元々僕の焚火だ」


「あぁ。無断で借りてしまってすまんな。だが、この焚火、本当にそなたが?」


「……僕だよ」


「ほう……」


 こちらを伺うようにガートレードが視線を向けてくる。


 こちらのことを探ろうとするその目線が気持ちが悪い。僕は無視することに決めると、向かい側の火の傍に座り、パンをちぎって口に運ぶ。


 それをガートレードが目を丸くして見てくる者だから、僕はさっとパンを隠した。


「これは僕のだ」


「いや。誰が子どもの食べ物をとるかね。それより、それだけか」


 一つのパン丸ごと貰えるなんて今日はついている日だ。


 僕は固いパンをちぎっては口に運び言葉を無視して食べる。


 ガートレードは小さく息をつく、カバンから小さな鍋のような道具を取り出して、それを火に当てた。すると、それは赤く輝く。


 鍋の中に水筒から水を流し込み、布の包みのものを入れると、ぐつぐつと煮立ち始めた。


 僕はそれをじっと見つめる。


「今出来る。待っておれ」


「……その道具、魔術が構築されているね。菫靑特殊魔石と雑多な魔石が混ざっている。へぇ……どういう術式……? うーん……」


 頭の中に、特殊魔石と共に、術式が巡っていく。


 いくつかの例が頭を過っていくが、どうにもうまく組み合わされず、何かほかに仕掛けがあるのではな

いかとじっと観察すると、内側に別の特殊魔石が埋め込まれていることに気が付いた。


 なるほど、これがあれば術式が完成する。


 僕は地面に術式を描き、それから魔術陣にそれを組み入れていく。


「これを……こうか。うん。完成だ」


 美しく組みあがった術式に、笑みを浮かべると、それを見ていたガートレードは息をのむ。




 魔術陣……十にも満たない少年が、今それを構築した現実にガートレードは驚愕していた。



聖女の姉 コミック第二巻発売前記念!

2025年9月5日 発売です(*'ω'*) よければ読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ1巻公式サイトはこちらから飛びます!

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
コミカライズ2巻公式サイトはこちらから飛びます!

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
小説1巻好評発売中です(*´▽`*) ↓タップしていただけたらサイトへ飛びます。

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
小説2巻の公式サイトはこちらから飛びます!

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ