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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第二章

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6話

 薄暗い廊下。


 どこまでも、延々と、ずっと、ずっと、薄暗い。


 あの日から私の世界は灰色へと変わった。


「私が謝ったのに……どうして許してくれなかったの……お姉様……」


 長い廊下の先には、神に祈るための広い空間があるけれど、天井に取り付けられたステンドグラスから、日の光が差し込む。


 それに向かって、私は神殿の中の掃除が終わってから祈りを捧げ続ける。


 ここには私一人きりである。


 ここは神殿の地下であり、天井の位置は丁度地上へと出ている天窓であった。つまり私が見上げているのは地上。


 そして私が唯一話が出来る相手は、朝昼晩と、私の様子を監視し、食事を与えに来る神官だけであった。


 しっかりと日課は済ませているか、チェックは入るけれど、それは私が神殿に祈りを捧げている間にやってくる。


 誰とも顔を合わせることのない生活は、気が狂いそうになるほど長い。


 なんで、私がこんなに苦しい目に合わなければならないのだろうか。


 神官は私に罪と向かい合うようにと言ってくる。


 私の罪って何?


 ヨーゼフ様とお姉様が仲良くするのが嫌で、お姉様を追い出したこと?


 お姉様の採取した物を、ヨーゼフ様と一緒に売り払ったこと?


 ヨーゼフ様の言うとおりに、堕落した聖女の力を使ったこと?


 でも……謝ったじゃない。


 私は拳をぐっと握ると、地面をドンっと勢いよく叩きつけた。


 どうして許してくれないのだろうか。


 私は聖女で、ちゃんとここで毎日大人しく生活しているのに、一体いつになったら許してくれるのだろうか。


 豪華な料理も食べられなくなって、素敵なアクセサリーだって手に入らなくなった。


 毎日毎日祈りを捧げて……。


 まぁそのおかげで、体は太っていた時よりも痩せて軽くなったし、体の中に聖力も戻って来た。


 ただし、私は自分の胸の中にある小さな黒い、堕落した聖女の力のかけらが残っているのには気づいていた。


 早くこれを消し去りたい。


 そう思うけれど、それは胸のあたりを行ったり来たりしては、私をあざ笑うように蠢いているのだ。


「一体……いつになったら許してくれるの?」


 私は苛立ち、床を何度も何度も手で叩きつける。


「謝ったのに、謝ったのに! 謝ったのに! ……どうして、どうしてよ」


「本当に、なんと酷い人達なのでしょうか。聖女様をこのように暗い場所に閉じ込めて」


「え?」


 音もなく、その男はそこにいた。


「某の名前は、ゼクシオ。貴方様の忠実な僕でございます」


 恭しく頭を下げたその男は、にやりとした笑みと糸目が胡散臭い雰囲気を醸し出していた。


「なんでここにいるの?」


「貴方様のお迎えに参りました」


「は? ……お姉様が、私を許してくれたの?」


 その言葉に、ゼクシオは笑みを消すと首を横に振った。


「アイリーン様。貴方様も話は聞いていると思いますが、貴方様はここに生涯幽閉でございます。姉君様が許したとしても、出られることはありません」


 ひゅっと、息を呑む。


 そうだ。


 何回も聞いた。


 けれど現実が呑み込めなくて忘れていた。


「じゃあ……なんで貴方は迎えに来たの?」


 ゼクシオは私の手を取ると、静かに言った。


「アイリーン様、アイリーン様こそが真の聖女様でございます。堕落した聖女から回帰された貴方様こそが、この世界の神でございます。我々はだからこそ、貴方様を迎えに来たのです」


「我々?」


「はい」


 そう言うと、いつの間にか私を取り囲むようにして真っ白な装の者達が現れ、膝をつき、私を崇める。


「我々は聖女教の教徒であり貴方様の使徒。貴方様の為に命を投げ、貴方様の為ならば何でも致します」


 その言葉に、私の心臓がどくりとなる。


「私の為なら?」


「もちろんでございます。貴方様の幸せが我らの幸せでございます」


 私は、口角がすっと上がっていく。


 私を大切に思い、私の為に働いてくれる人間がいる。


 そう思えば思うほどに、心臓がどくどくと脈打ち、笑みが深まっていく。


「あらぁ。ふふふふ。いいわ。いいわよ。貴方様の神様になってあげる」


 気持ちがいい。


 私は久しぶりの高揚感を味わいながら、両手を広げた。


 すると、皆が拍手を送ってくる。


 あぁそうよ。


 私はこうやって人々に愛される存在なの。


 お姉様とは違う。


 許してくれないような、心の狭いお姉様とは、私は、違うのよ。


 感情の高揚。


 だけれど、ふと冷静になれば……ただ、この人達もまた、私ではなく聖女としての私しか見ていない。


 そのことに気付き、高揚した感情が次第に冷静に凪いでいった。


どこまで行ってもアイリーンはアイリーン(/ω\)


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