三十一話
二十八話と二十九話の間の一話が抜け落ちていたので、二十八・五話として投稿してあります。申し訳ありません。
私はアスラン様の言葉に頷きを返した。
もう何を言われても、アイリーンの言葉に傷ついたりしない。もう彼女と私との運命の道は分かれたのだ。
そう思った時、ヨーゼフ様が声をあげた。
「父上! アイリーンが全て悪いのです。僕は、僕はこの国の為にと思って」
「黙れ! 二人の沙汰は全てを調べ上げてから告げる! ただし、罪から逃れられるとは思うな!」
「そ、そんな! ぼ、僕は、僕は悪くない! あのデブスが全部仕組んだんだ! 僕は悪くない! シェリー嬢! なぁ? そうだろう? 今なら、僕の妃の座だってなんだってやる。お願いだ。僕は悪くないと言ってくれ!」
「ヨーゼフ様! 何故です! 私は、私はヨーゼフ様の為に、貴方の為に、貴方の為に、貴方のためにぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「あ、アイリーン?」
ヨーゼフ様へと向かってアイリーンは声を荒げ、次の瞬間その瞳から赤黒い涙を流しながら声をあげた。
「呪ってやる。呪ってやる! この国も、ヨーゼフ様も! お姉様も! 全部、全部、全部! 呪いつくしてやる!!!!!」
悲鳴にも近いアイリーンの声と同時に、部屋の中の空気が一変した。
重苦しくなり、息を吸うだけで肺の中がまるで何かに焼かれているような痛みを感じる。
「これは!?」
異変を感じた瞬間に、レーベ国王は声をあげた。
「アイリーンを捕らえよ! 大聖女よ! これは一体どういうことだ!」
大聖女は震えながら声をあげた。
「そんな……私の代で……まさか堕落した聖女を生み出してしまうなんて……そんな……」
堕落した聖女。
聖女の力を反転させた呪いを生み出してしまった者はいずれ死を迎える。神に反した罪ともいわれている。
けれど、ただ死を迎えるだけではない聖女がいる。
それが堕落した聖女であり、聖女の力が呪いとなり、それが自身からあふれ出す。
そんな光景など、古い歴史本にしか残っていない。
ましてや現在では王城におさめられている禁書に記録が残っているくらいである。
私も師匠からその禁書を王城内で見せてもらったからこそ知っている知識であった。
「……アイリーン」
「嫌だ嫌だ嫌だ。もう、呪われろ。全て全て呪われロ。ノロワレロ。あぁぁぁぁぁっぁ」
美しい妖精のような聖女の姿からはかけ離れた、その姿に、私はぐっとこぶしに力を入れるとアスラン様に言った。
「アイリーンを止めたいです。力を貸してもらえますか?」
大聖女様は両手を合わせて祈りを捧げるだけ。レーベ国王は騎士に指示を出してアイリーンを取り囲むが、その近くには歩み寄れない。
まるで見えない壁に阻まれているかのようだ。
ヨーゼフ様は顔色を悪くして逃げようとしたが、次の瞬間、空中へと浮かび上がり、アイリーンが生み出した黒い霧によってその体を縛り付けられている。
アスラン様は、私の言葉にうなずくと、私のことを下ろし、それからマントを開くと魔術具のペンを取り出した。
「魔術式を構築する。必要な材料がそろっているといいのだがな」
「任せてください。私は貴方の採取者です」
「心強い。では、いくぞ」
アイリーンの悲鳴が響き渡り、それに伴って黒い影がこちらへと襲い掛かってくる。
ジャン様と騎士達は私達を守るようにして立ち、それらを薙ぎ払っていく。
「集中しろ。こちらは任されよう」
私達は頷き、アスラン様が空中に魔術式を構築し始める。私はその魔術式を見つめながら必要であろう材料を次々にポシェットから取り出していく。
長年かけて、アイリーンの為に採取した物。
最近アスラン様に頼まれて、集めていた物。
全てを出し切るつもりで私は集中してアスラン様の指示と私の判断で取り出していった。
目の前に巨大な魔術陣が広がる。それは今まで見てきた何よりも美しく、輝いていた。
「聖女の力とは呪いになると恐ろしいな」
アスラン様の言葉通り、今のアイリーンはまるで魔物のような姿で悲鳴を上げていた。
力とは、その使い方によって良くも悪くも変わるのだ。
「はははっ。これほどまでに聖女とは強力な力を持つのか。恐ろしいな。だが、あちらは自身の力だけ。私には君がいる」
私は特殊魔石をアスラン様へと手渡した。その瞬間、魔術式が完成し、より美しく輝く。
「ノロワレロぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
悲鳴のような声。
聖女の力の成れの果て。
それが魔術式によって光に包まれ、その呪いの力が光へと呑みこまれていく。
星がちりばめられたように、花火が散るように、呪いが光へと、呑みこまれた。
あっという間に年末ですね。本当に早いです。年を取るごとに、一年が加速していく(/ω\)
毎日、ほわほわしながら、生きていきたいところですね(●´ω`●)








