聖女と嘘
ちょっとだけ短めです…!
クラウス殿下の傷にかざしたリリーの手から、ボウっと淡い光が放たれる。
……けれど、その光は小さなまますぐに消えた。
「えっ?な、なんで?」
戸惑いながらも何度も何度も魔力を流すリリー。しかし、その度にほんの少し光るばかりで、またすぐ消える。それ以上何も起こらない。
何度も、何度も。繰り返しても変わらない。
「なんで!なんでよぉ!!こんなのおかしいっ!!私は聖女なのよっ!」
リリーは、回復魔法を失った……?
なにがなんだかわからないけれど、今はそれどころじゃない。
急いでクラウス殿下の元へ向かう。
「私に治癒させてください!」
周りにいるセイブスの騎士たちは私を止めなかった。それどころかクラウス殿下に何度も回復魔法をかけようとし続けるリリーを引き離す。
「触らないで!私は聖女よ!こんなことありえない!」
他の倒れて動けない騎士を見ても、クラウス殿下の傷が一番重症なのは明らかだった。
クラウス殿下の手を握る。指先が冷え切っている。
「メル、ディーナ……」
「クラウス殿下、喋らないでください。すぐに治りますから」
強い光がクラウス殿下を包みこむ。今の私が使えるのは、小さな頃、婚約のきっかけになったあのときの治癒より、ずっと強い力で。
治癒は一瞬だった。傷は塞がり、あとは破れた衣服に血がついているだけ。
「傷が治っても血はすぐには戻りません。私の魔力で補完してますが、しばらくは動かないでいてください」
「メルディーナ、君は……治癒魔法を取り戻したのか……。君が、聖女なのか……?私には一体、なにが、なんだか……」
「殿下。リリーは間違いなく聖女だったはずです。私にも何が起きているのかはよくわかりませんが」
まだ何かを言いたそうにしているクラウス殿下を残し、他の騎士たちも治癒していく。そこにいる誰もが呆然としている。
「こんなのっ!こんなのどう考えたっておかしい!そうだわ、きっとその女っ、メルディーナが私の力を奪ったのよ!どんな禁忌の力を使ったの!」
その言葉を、もはや誰も信じてはいないようだった。
急展開の連続で気がつかなかったけれど、騎士たちの後ろにエリックの姿もあった。取り乱すリリーを信じられない面持ちで見つめている。
エリック。リリーを心から信じていた、私の可愛い弟。
少し離れた場所にニールもいる。顔色を悪くして、口元を手で覆っている。
アーカンドに来て、リリーが嘘をついていることを一足先に知っていたニール。動物たちとも嫌悪感なく接していた彼は、今何を思っているんだろう。
「あっ……」
一気に魔力を使い、流れた血の代わりに殿下や騎士たちに魔力を渡した私は、緊張も相まって立ち上がった瞬間に少しふらついてしまった。
そんな私の肩を温かくて大きな手がそっと抱き寄せてくれる。
「メルディーナ、お疲れ様」
「リアム殿下」
いつだって、支えてくれるのはこの人だ……。
ロキも、いつのまにかルーチェもそばにいる。
とにかく、誰も死ななかった。大丈夫。みんな生きている。
私の、リオ様の、精霊王様の大事な子供たちは誰の命も奪ってはいない。
喚き続けるリリーに、現実を突きつけたのはリオ様だった。
「お前は、嘘をついた」
「はあ!?何を言ってるのよ!デタラメ言うのはやめて!」
騎士に支えられて体を起こしたクラウス殿下が呆然とリオ様を見つめる。
「リリーが、嘘を……。聖女は嘘をつけない。だから私は彼女の言葉が全て真実だと……。なんてことだ、やはりリリーは」
「クラウスッ!?まさかそんな獣の話を信じるの!?みんなもっ!」
リリーは焦ったように周りを見渡したけれど、誰もが不審な目でリリーを見つめていることに気づいてさすがにひるんだようで、ぐっと言葉に詰まった。
当然だろう。リリーは治癒を使えなかった。おまけに傷つく人たちを癒したのは、偽物で全ての不幸の元凶だと彼女が断じていた私なのだから。
リオ様は哀れみさえ含んだ視線でリリーを見つめたまま。
「お前は確かに聖女だった。だが、今はもう違う」
「なによ、どういう、こと」
「人間は誤解している。聖女は嘘をつけないのではない。絶対に嘘をついてはいけないんだよ」




