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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
最終章

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いなくなっていた子たち

 


「メルディーナ…なぜ、君がこんな真似を」


 私を呆然と見つめていたクラウス殿下も、その目に憎しみを浮かべて私を睨みつけた。


 人間側に、聖女であるリリーの言葉を疑う人はいない。

 当たり前だわ。「聖女が嘘をつけない」ことは、セイブスに暮らす民ならだれでも知っている。


 そのリリーがなぜ嘘をつけるのか、それは私にも分からない。


「……クラウス殿下、リリー……なぜ。リリーは、聖女ではないのか?……いや、でも」


 いつのまにか側まで来ていたニールが苦しそうな声でぶつぶつと呟き続けている。

 リリーが嘘をついていることだけは理解しているニールは混乱しているようだ。


 ニールに気づいたリリーはまた声を上げた。


「まあっ!!ニール!!あなたがいなくなってずっと心配していたのよっ。きっとメルディーナ・スタージェスに捕らえられて、酷い目に遭わされているのね……瘴気や澱みを生み出すだけではなくて、ニールまでっ」



 セイブスの人々から、煽るような声が次々に上がる。


「メルディーナ・スタージェスのせいでこの国はめちゃくちゃだ!」

「そうよ!瘴気のせいで作物は育たないし、忌々しい病気も広がっている!こんなのあんまりだわ!」

「メルディーナ・スタージェスって、あの無能と言われる令嬢だろ?」

「だから聖女であるリリー様も妬んでこんなことをしでかしたのね!」

「薄汚い獣人と組んで世界を脅かすなんて……!」

「人の心がないのか!!」


 心を突き刺すような鋭い言葉。憎しみの色を込めて睨みつける瞳。それが全て、私に向けられている。



 ……セイブスにいた頃の私だったら、辛くて苦しくて悲しくて、耐えられなかったかもしれない。


 自分の心を守るために、憎しみを憎しみで跳ね除けて、そしてこの瘴気に心を囚われていたかもしれない。


 ゲームのメルディーナがそうだったみたいに。



 だけど、今の私はそうはならない。


 私を庇うように、リアム殿下が前に出る。

 隣にはお兄様が寄り添うように並んでくれた。


 そして、後ろにいるアーカンドの騎士達や、民達がセイブス側からの声に負けないほどの声を上げた。


 彼らの口から発されているのは……私を、庇う言葉。




「メルディーナ様が瘴気を生んでるなんて、そんな馬鹿なことあるわけがない!」

「俺はメルディーナ様に助けられたんだ!」

「私もよ!」

「なぜ……メルディーナ様と同じ人間でありながら……」

「聖女様を冒涜するな!」


 そう、今の私はそうはならない。

 こんな風に、私を信じてくれている人たちがたくさんいるんだから!


 アーカンドの民から飛び出した、私を指す言葉にリリーが眉を寄せた。


「聖女様……?まさか、その女のことをそんな風によんでいるの?それこそ精霊王への冒涜だわ!獣人たちはその女に騙されているのよっ!」



 まるでその言葉が合図のように、獣人たちの間を縫うように人影が動いた。


 驚く騎士たちが反応する前に、その人物は騎士たちを押し除け、すごい速さでこちらに近づいてくる。


 ただ、人々の喧騒とリリーの声にかき消され、その人に気付くのが一瞬遅れてしまった。



「メルディーナ、危ない!」


 叫んだのは隣にいたお兄様。

 次の瞬間には私は守られるようにリアム殿下の腕の中にいた。


 何が起こったのか理解する前に、私は温かい光に包まれていた。

 キィンと金属が弾かれるような音が響いて、視界の端を何かが吹き飛んでいく。


 地面に転がったのは、短剣。おまけにどうみてもその刃に瘴気を纏っている。

 あれに貫かれてしまえば、普通の人ならばあっという間に命を落とすだろう。


 予想外のことに後ろを振り向いたまま呆然とする私の前に、お兄様が手を伸ばし立ちはだかっていた。


 これは……お兄様の守りの魔法!

 光のベールがお兄様と私を守る盾のように広がり、向けられた短剣を弾いていた。


「メルディーナは、誰にも傷つけさせない」

「お兄様……!」

「お前を守るために、魔法を磨いたんだ。きっとメルディーナを守れるように、私はこの魔法を授かった」




 光のベールの前には、力なくへたり込んだ――オリビア様がいた。


「オリビア・ウィルモット公爵令嬢、なぜ、あなたが……!」


 頭上からリアム殿下の驚く声が聞こえる。



「見てください!メルディーナ・スタージェスは獣人からも忌み嫌われている!今勇敢にもその女に立ち向かった彼女こそが正常です!誰もがあの女に心を操られているのです!」


 これみよがしに叫ぶリリーの声に獣人たちから反発の声があがるけれど、もはや収拾がつかない。

 側にいた騎士に取り押さえられたオリビアは……笑っていた。


「ふふ……わたくしはもうおしまい。リアム様をお前に奪われた時にとっくに終わっていたの。だから……お前も終わってしまえばいいのよ」



「グルルルル……」

「グガアアァ」


 動物の――怒りに満ちた獣の声が聞こえる。


「まさか」


 ありえない……!


 リリーの側に寄り添うように、体の大きな動物が歩み出てきた。

 その身には溢れ出るように瘴気が纏わり付いている。あんな状態で生きているだけでも不思議なくらいだ。


 あの子たちはまさか……アーカンドから、突然姿を消した子たち?


 ハッと息を呑む。


「やっと気づいたかしら?わたくしが聖女リリーに手を貸したのよ!偽物の聖女である忌々しいお前を排するために!」



 牙を剥き出しにして唸り声をあげている。その中にはリオ様の森で見かけた子もいる。

 だけど私にはかすかに伝わってきた。助けて、苦しいよ。そう言って助けを求めてる。


 すぐに分かった。リリーはその力を使って、無理矢理心を操って、使役している……。

 なんて酷いことを!



 アーカンドの騎士達も動物たちの普通じゃない状態を目の当たりにして、あの子たちが何かをされたということに気付いたようだ。

 ピリピリとした緊張感は長くはもたず、ついにアーカンドとセイブス、両方の騎士達が声を上げて武器を構え、お互いに攻撃を開始した。


 ただしアーカンドの騎士達はリリーに従えられた動物たちを傷つけることはできない。

 セイブス側の力が押しているのが分かる。


「メルディーナ!君はイーデンと一緒に安全な場所へ!」


 リアム殿下がこちらに向かってきたセイブスの騎士を抑えながらそう叫ぶ。

 私は声も出せないまま、お兄様に守られるだけで。


 せめて、あの動物たちを解放してあげないと……!

 そんな風に思って、攻撃のために距離の近づいた動物にどうにか浄化をかけようと思った瞬間。



「ぐっ、うわああ!」


 リリーの悪意を受けすぎ、瘴気に包まれすぎて、自我を保てなくなった動物の爪がついに届いてしまった。

 傷を負った人がうめき声をあげながら倒れている。


 ただし、傷ついたのは動物を狙わないようになんとか避けていたアーカンドの騎士ではなくて。

 ――リリーを守るためにアーカンドの騎士と剣を交えていた、セイブスの騎士だった。


 そして、その中にはクラウス殿下の姿もあった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 殆どの物語がさ病気レベルの妄想癖に取り憑かれたイカれた輩しか出てこないのが不思議だったんだよね。
2022/01/30 13:50 退会済み
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