代替わりが近づいている
リアム殿下は私が瘴気を払いに行っている間に、オリビア様に話をしてくれていたらしい。
どうやらわざわざハディス殿下もそれに同行してくれたのだとか。
「リアムとオリビア・ウィルモット嬢を2人にするわけにはいかないし、彼女は公爵家の令嬢だ。万が一いた人間をいなかったことにされても困るからね」
「まさか……事実の捏造をするかもしれないと?そのような方だったんですか?」
確かにリアム殿下とのことも、私はオリビア様のあまりに悲痛な様子にきっと真実なのだと思い込んだのだ。
私が不甲斐ないばかりにハディス殿下にも迷惑をかけたかと思うと心苦しい。
「メルディーナ嬢。今回のことがなくとも彼女の件はきっといつか問題になっていたんだ、あまり気にしないでくれ。君が心健やかに過ごしてくれるのが1番だよ。そうしなければリアムも使い物にならないし、残念ながらまだまだ瘴気も君を待っている」
ハディス殿下はそんな風に言って、悪戯っぽくニヤリと笑った。
「殿下……ありがとうございます」
そう、この優しい人たちと国に、私にできるのは瘴気の浄化くらい。もっともっと役に立てるように頑張ろう。
リアム殿下と話し、不安がなくなったからか?もしくは……愛されていると分かったからか。
私は日に日に力を取り戻していった。
瘴気を払いに出向くたびに、それを自分でも感じる。どんどん瘴気を払うのが速くなっていくし、誰かを治癒する時も少しの力でできるようになって。
だけど、それを喜ぶばかりではいられなかった。
瘴気が溜まり発生する澱みが、次々に生まれていく。
浄化しても浄化しても、それを上回るほどの速度で……。
◆◇◆◇
忙しい日々の合間に、時間を見つけてはリアム殿下と一緒に守りの森に顔を出していた。
リオ様や、その赤ちゃん、森の動物たちに会うために。
聖獣様の名前は精霊王様が授けてくれるらしい。
リオ様は優しい顔で我が子を見つめながら。
「きっとこの子は、代替わりが終わった後に新しい精霊王様に名付けてもらう最初の子になるだろうね」
だから、まだ赤ちゃんには名前がない。
代替わりが近づき、今の精霊王様には名前を授けるだけの力が残っていないのだ。
「リオ様のお名前も、今の精霊王様にいただいたんですね」
「そうだよ。いい名前だろう?だから私たち聖獣はみな精霊王様の子供のようなものなんだ」
「子供……」
ロキが、優しく笑うリオ様をじいっと見つめてぽつりと呟いた。
私と出会う前のことを思い出せないロキ。ロキにも親のような存在がいただろうか。
ひょっとして、記憶がなくとも親や子供の話に何か感じているのかもしれない。
ふと見ると、リアム殿下は体の大きな、心優しいクマに抱き抱えられていた。
「メルディーナ……これはどういうことだろうか」
「わ〜!リアム!荷物みたいだね!!」
困惑気味なリアム殿下と、面白そうにはしゃぐルーチェ。
いつか、傷だらけで意識を失ったリアム殿下を運んでくれたクマさん。どうやらリアム殿下に対して並々ならぬ庇護欲を抱いてしまったらしい。
「ふ、ふふ……!」
いつもは私を守ってくださるリアム殿下が、クマさんに抱えられているのがなんだかおかしくて笑ってしまう。
「わーい!メル様が笑ってる〜!ねえねえ、僕のことも抱っこして〜!」
ルーチェは大はしゃぎだ。
小鳥たちに紛れてクマの頭や肩にちょこんと座り、キャアキャアと喜んでいる。
ルーチェは本当にロキよりうんと子供みたい。精霊に年齢の概念があるのかは良くわからないけれど、本当にロキに比べて、生まれてからそこまで時間が経ってないのかも?
精霊王様の代替わりが無事に終わって瘴気がほとんどない世界に戻ったら。
いつか、またロキやルーチェ以外の精霊とも会うことができるだろうか。
「メルディーナ、お前に言っておかなくてはいけないことがある」
「なんでしょう、リオ様」
ぐっと真剣な顔つきに変わるリオ様。さっきまでの穏やかな顔とは違う。
「動物たちが……ときどき、いなくなる」
「いなくなる……?」
「ああ、澱みが生まれ始め、私も全てを把握できているわけではないが、少なくとも聖なる力を少しでも宿した数匹、数頭の動物が、アーカンドから消えた」
「死んでしまったわけではなく、消えたのですか?」
リオ様は頷く。
「もしかすると本当に消えたわけではなく、大きな澱みの影響かもしれない。そうすると私には全くその存在が見えなくなるからね。どちらにしろ、何か良くない予感がする」
言いながら、大きな鼻先を私の方に擦り付ける。
これは、聖獣様の最大級の親愛の証。
「メルディーナ……どうか気をつけて」
精霊王様の代替わりが、ますます近づいている。




