無事に終えることができたら
「あ、の……」
やっと絞り出した声も少し震えてしまう。
恥ずかしくて、クラクラして、目を逸らしてしまいたくなるけれど、リアム殿下の真剣な目がそれを許さなかった。
「オリビア嬢の言ったこと、ロキやルーチェに聞きましたが、彼女の言葉は真実ではありません。それでも信じられないなら証明することもできます」
「いえ!それは……もう、大丈夫です。あなたのことを信じます」
「よかった……」
リアム殿下はほっとしたように少しだけ顔を綻ばせる。それでもまだその笑顔が引き攣っているのは、緊張からかもしれない。
ふと気づく。私の両手を包む、リアム殿下の大きな手が微かに震えている。
リアム殿下は、いつだって私に、真摯に向き合ってくれている。
命がけで私にずっと会いにきてくれていた時も。死の淵から助け出してくれた時も。アーカンドに来てからも、そして、今も。
リアム殿下が、私を愛してる、なんて……夢みたい。あれだけ愛が欲しかった。絶対に手に入らなかった。自分は1人じゃないとわかっても、こんなふうに愛しく思う人から熱のこもった目で見つめられることがあるなんて、想像もできなかった。
リアム殿下の瞳がほんの少し不安に揺れる。
胸が苦しくなる。嬉しい……。
だからこそ、私も、この人には誰よりも誠実でありたい。そう思った。
「……リアム殿下。私の秘密を、聞いてくださいますか」
誰にも話したことのない真実を、話そうと決めた。
◆◇◆◇
前世の記憶、この世界について少し知っていること、リリーも恐らくそうであるということ、私が本来たどるはずだった運命、予想されるリリーの目的……私は思いつく限りの全てをリアム殿下に話していく。さすがにここがゲームの世界だとは言えなかったけれど、それ以外は全て。
隠し事が、なくなっていく。
殿下が本来、リリーに夢中になることも。全てが現実になるわけではないと理解していても、それが今でも少し怖いのだということも、全て話した。
「未来予知……に、近いのでしょうか」
自分がリリーを好きになるのだと聞かされた瞬間は少し嫌そうに顔を顰めたものの、リアム殿下は最後まで私の話を真剣に聞いてくれた。
「予知、とは違うのかもしれません。今はもうずいぶん私の知る運命とは外れていて、起こることも違っているのでなおさら……ただ、その通りになったこともありますし、聖女様はそれを望んでいます」
「魔王討伐の栄誉がほしいために、守るべき愛し子を排除し、精霊王をわざと苦しめようとするなど……」
理解できない、と頭をゆるく振るリアム殿下。それには私も同意だけれど、そういう子だったと思う他ない。
おそらく、前世の記憶があると思われるリリー。その記憶に引きずられて、この世界の倫理観から少し外れてしまっているのかもしれない。
私はずっと握られたままの両手に力をこめて、きゅっとリアム殿下の手を握り返す。
「……私にとって、リアム殿下は特別です」
「メルディーナ……」
「だけど、私はこの運命に立ち向かわなければいけない。……精霊王の代替りを無事に終えることができたら、私の気持ちを聞いてくださいますか?」
「!!もちろんです」
リアム殿下は嬉しそうに目を細めて笑った。
あ……いつだったか、ニールから逃げようとする私を街中で助けてくれた後の笑顔と同じ目……。
「けれど、どうかこれだけは許してください」
そういうとリアム殿下は、私の手を優しく引き寄せ、その温かい腕の中にすっぽりと私を抱き込んだ。
抱きしめられて、温かくて……何度も狼さんに抱きついて嗅ぎ慣れた、リアム殿下の匂い。
私が1番安心する匂い。
精霊王の代替わりが、無事に終わったら。それはつまり、私がそのとき……生き残ることができていたら、ということ。
そうして、大きな木の下で、日が暮れるまで私はリアム殿下に抱きしめられていた。
ほとんど、私も好きだと言ったようなものだったけれど。リアム殿下は私の決意と不安を尊重してくれたのだった。




