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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
第3章

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治療を受けたくない女の子

 


「本当によかったのか?」

「何が?」

「リアム殿下の同行を断ったこと」


 浄化の目的地へ向かう途中、馬車の中でお兄様が私を窺うように見つめて言った。


「いいもなにも、本当はもっと早くこうすべきだったのよ。私はリアム殿下に少し甘えすぎだったわ」

「そんなことはないだろう。それに、もしそうだとしてもリアム殿下はお前に甘えられることを望んでいると思うけど」


 ゆるゆると首を横に振る。


「そんなことはないわ。もしもそう見えたなら、きっとそれはリアム殿下が王族としての義務を果たすことに誠実な、とても真面目な方だからよ」

「……何があった?」


 自分に言い聞かすような私の言葉に、お兄様は納得してくれなかった。お兄様を無駄に心配させてしまうことは私の本意ではない。セイブス王国にいた頃の関係が信じられないくらい、お兄様は頼れる家族だ。事実を知ってもらった方がいいかもしれない。

 私はオリビア様と話したことを包み隠さず打ち明けた。話を聞きながら、お兄様の顔がどんどん険しくなっていく。全て知っているロキは何も言わず、じっと馬車の外を小さな窓の隙間から眺めている。


「なあ、メルディーナ、」


 お兄様の言葉が続く前に、馬車が目的地に到着した。



 ◆◇◆◇



 今回も、王都とはかなり様子の違った静かで小さな村だった。

 瘴気の黒いモヤモヤが村中にうっすらとまるで薄く霧がかかったように漂っていた。


 いつものとおり浄化して、瘴気の影響で健康を害し伏せっている村人たちを順番に浄化と治癒で癒していく。何度も繰り返したことで随分と効率よく行えるようになっていた。

 できるだけ短い時間で、早く苦しんでいる人達を救いたい。


 ただし、今回は問題が起きた。


 ほとんどの村人の回復を見届け、あとはここだけ、と案内された家に村長の後についてやってきたけれど、なにやら家の外で数人が騒いでいる。


「どうされたんですか?何か問題が?」


 慌てて近寄り小さく声をかける。騒ぎの中をよく見ると、まだ少年と言った男の子が大きな声を上げながらドアをドンドンと叩いていた。


「カンナ!なんでだよ!愛し子様に治療してもらえばすぐに治るのに!」


 目元を真っ赤にして必死で言いつのっている姿が痛ましい。

 これは……誰かが治療を拒否している?


「すみません、愛し子様。この家に住むカンナという少女がどうやら治療を拒否して閉じこもっているようでして……」


 集まっている人に話を聞いてきた村長が困り果てた顔で報告してくれた。

 お兄様の方をチラと伺うと頷きかけてくれる。


「私に話をさせてくれますか?」


 実はこうして浄化をして回る中で、ときどきいるのだ。このまま瘴気に冒された運命を受け入れて死にゆきたいと願う人が。


 そもそもこれまでの人生で何か辛いことがあって絶望にのみこまれている人や、なぜか自分には価値がないと思い込んでいて、私に治療されることそのものに罪悪感を抱いてしまう人など様々だ。

 共通しているのは、自ら命を絶とうとまでは思わずとも、出来れば死にたいとどこかでずっと望んでいること……。能動的に死のうとまで考えはしなくても、生きることに消極的な人達はいる。


 最初はそんな人達を無理に治療することに言いようのない不安も感じていた。

 それでも、いつか生きていてよかったと思ってくれる日が来ると信じて……。私が生きることを諦めかけたあの地下牢での夜を思い出し、今の恵まれた幸せを思って生き延びた感謝を感じているように。

 そんなことを考えていると、リアム殿下の優しい笑顔が浮かんで胸がツキリと痛んだ。


 場所を開けてもらい、ドアの向こうにいるはずの少女に声をかける。


「私は愛し子と呼ばれるメルディーナ・スタージェスです。出来ればあなたの顔を見て話したいの。他には誰も中にはいれないと約束するから、ここを開けてもらえないかな?」


 少しして、ドアが開いた。さっと中に入り、鍵を掛けなおす。フラフラと顔色の悪い少女を支えてベッドまで連れて戻る。小さな家に一人きりで、きっと心細かっただろう。


 村の方針で、家族で瘴気に冒されたものが出た場合は、元気なままの者が他の場所に集まり、住み慣れた家は患者のための居場所とされていた。両親は別の場所に隔離されているらしい。家族でこの少女だけが瘴気に冒され、心休まる自宅で伏せっていたのだ。


「辛いのに、鍵を開けてくれてありがとう」


 微笑んでお礼を言うと、ふいと目をそらされてしまった。表情も顔色もそうだけど、耳にも尻尾にも生気が感じられない。普段はきっと艶やかなのだろうな。


「カンナちゃん、よね?あなたはきっと私に治療されることを望んでいなくて、鍵を閉めていたのよね?カンナちゃんの許可なく勝手に何かをすることはないと約束するから、話を聞かせてもらえないかな?」


 誰にも言わないから、と続けると、迷うようにその瞳が揺れた。拒絶したい気持ちが強くても、基本的に妖精たちを愛する獣人は「愛し子」という肩書を持った私の話を聞いてくれることが多い。

 これも、リアム殿下が愛し子が人間であることを受け入れてもらえるよう地道に地盤を作ってくれたからだと分かっている。


「本当に、勝手に誰かに言ったりしない?」

「約束するわ」


 カンナちゃんはためらいがちに何度か唇を震わせ、やがてぽつりと呟いた。


「私は……邪魔者だから」




※ちょっとセンシティブな内容だったかなと思って若干修正入れてます。内容に変わりは有りません

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