今日の記念に
その後も出会う人出会う人、みんなが私に好意的にしてくださって。
最初の不安が嘘のように気持ちが高揚し、楽しくてたまらなくなっていく。
セイブス王国では市井に暮らす人たちは、どちらかというと皆物静かで、優しく、柔らかな雰囲気だった。
アーカンドは明るく、活気に満ち溢れている。
何より驚いたのが、民のほとんどが魔法を使えるという点だった。
「アーカンドは、本当に魔法と……妖精たちと身近に暮らしているんですね」
実は気付いていた。街のあちこちに妖精たちがふよふよと浮かび、中には妖精同士で遊び、はしゃいでいる子もいる。私を見ると近寄ってきたり、こっちに手を振ったりしてはにこにこと嬉しそうにしていた。
「獣人たちは、姿は見えなくともそこに妖精たちがいることを理解し、存在を認めています。見えていようがいまいが、やはり自分を受け入れられていると感じるのは妖精も嬉しいのでしょうね」
リアム殿下が微笑みながら、露店の前で商品を、目を輝かせながら見つめる妖精を眺めていた。
自分を受け入れられていると感じる……人間だって同じだ。蔑ろにされると辛いし、大事にされていると感じると嬉しい。例え目の前にいると分からなくとも、自分を想っていてもらえると幸せだと感じる。……目の前にいても、その全てを否定されることもあるのだから、それがどれほど幸せなことなのか私にはよく分かった。
「行ってみましょう」
リアム殿下に差し出された手に、吸い寄せられるように自然に自分の手を重ねる。
エスコートの様にそっと乗せたのだけど、その手を取られるように下に導かれ、手を繋ぐような形になった。
「いくら私達の正体が全く隠せていないとはいえ、市井を楽しむのならば街で浮かないようにしなければいけませんからね」
まるで言い訳の様におっしゃるのがくすぐったくて顔が緩んでしまう。なるほど、確かに誰も公式でするようなエスコートで歩いている人はいないわね。
いつもなら躊躇ったかもしれないし、恥ずかしさに照れてしまったかもしれない。けれど、浮かんでくる感情は嬉しさと楽しさばかりで。私は返事もせずに握られた手にぎゅっと力を込めて応えた。
商品を見つめていた妖精が私達に気付き、「こっちこっち!」と言わんばかりにぐるぐると飛び回る。
この露店は、まだ若い女性が開いているようだ。
「まあ素敵!このアクセサリーはもしかしてあなたが全て作っているの?」
「リアム殿下と愛し子様!光栄です……!はい、全て私が手作りしています。宝石屑を安く仕入れて加工して、決して上質なものではありませんが、お客さんには喜んでもらえてます!」
確かに石は小ぶりでそれほど高価そうなものはないけれど、露店で手にすることが出来る物としてすごく細工も繊細で、何よりデザインが可愛らしい。店主の女性のセンスが抜群にいいのね。
前世、ネットでハンドメイドアクセサリーを自主販売している人などが多くいたことを思い出す。そんな人の中には高級アクセサリー店にはないデザインと、ハンドメイドとは思えないクオリティで大人気になっている人も多かった。そういえば私はそういうアクセサリーが好きだったとふと記憶の欠片が蘇る。
時々、まるでデジャヴを感じるようなシーンに出くわすと、こうして前世の記憶の断片が垣間見えることがある。
このお店もきっと店主の言う通りすごく人気があるんだろうと商品を見るだけでよく分かった。
一つ一つをじっと見つめるのが楽しくて、うきうきと眺め続けていると、半歩後ろで私の様子を眺めていたリアム殿下が、そっと隣に肩を並べた。
「メルディーナ、あなたはどれが1番気に入りましたか?」
「殿下。うーん、すごく迷います!どれも本当に素敵で……宝石商などが見せてくれるような上質なものももちろん素敵ですが、実はこういう繊細な手作りな物を見るとときめきが止まらないんです。特にここにあるものはすごく私の好みですわ」
「愛し子様が好きだと言ってくださるなんて……」
店主が目を潤ませて感激している。
「ふふふ、本当に全部素敵です!どれか頂いていきたいんだけど、迷っちゃうわ……良かったら、私に似合いそうなオススメをあなたに選んでもらえないかしら?」
「私が……!いいんですか?」
「もちろん!是非お願いします」
こんな素敵なアクセサリーを作るセンスのいい女性に選んでもらえるならば嬉しい。
「僕もメルディーナに選びたかったのですけど……」
リアム殿下が微妙な表情で呟いたその言葉は、テンションの上がっている私の耳には全く入っていなかった。
「リアム殿下はまたいくらでも機会がおありでしょう!今日はお言葉に甘えて私がこの栄誉を頂いちゃいます!そうですね……これなんてどうでしょうか?」
店主が手渡してくれたのはネックレスだった。
「スペサルティンガーネットという宝石で……秘めた情熱という意味のある石なんですよ!」
黄色の宝石が太陽の光を浴びてまるで金のように煌めいている。
秘めた情熱……。
「すごく素敵!気に入ったわ!素敵なものを選んでくれてありがとう」
店主にお金を払い、商品を受け取る。
すると、黙って見ていたリアム殿下が徐に別の商品に手を伸ばした。
「ならば……僕からこれをあなたに贈らせてください」
「えっ?」
その手には、今買ったばかりのネックレスとまるでセットのような、同じ宝石がついたイヤリングがのっている。
「そんな、でも……それは申し訳ないです」
「僕が贈りたいんです。迷惑でなければもらっていただけると嬉しいのですが」
「迷惑だなんて!……では、はい。ありがとうございます」
リアム殿下は嬉しそうに笑った。
「お二人のお出かけの記念にぴったりですね!この後もどうか楽しんでくださいませ!」
店主の優しい言葉にお礼を言って、私たちはそのお店を後にした。
「……ふふふ、スペサルティンガーネットはまるで殿下の金色の瞳にそっくりです。リアム殿下は……あの感じはきっとすぐにそのことに気が付きましたね……お代、ちょっと多いんですけど」
ものすごく嬉しそうな顔してたなあ〜と店主の女性の呟きは風に流されて平和な街の空気に溶けていった。




