謁見
長い間お互いを遠ざけ合っていてできた溝を埋めるように、ソファに並んで座りお兄様と話す。
魔法が使えないお兄様が、治癒を持っていた私にコンプレックスを感じていたなんて初めて知った。そうだよね、私はいつも自分のことで必死だから気がつかなかった。私が治癒を使い王家に望まれ、エリックが魔法の天才として期待される中、まだ子供だったお兄様が何も感じなかったわけがない。
私は本当に子供だったと思う。
「でもね、私にも魔法があるとリアム殿下が教えてくださったんだ」
「それは、本当!?」
「ああ、私も奮起し最近はずっと魔法の訓練をしていた。色々落ち着いたらお前に見てもらいたいな」
私がリオ様にお兄様の身の安全を聞いて守りの森に安心してとどまったように、リアム殿下が私を見つけてくださってからはお兄様もこの城でなかなか快適に過ごさせてもらっていたらしい。
お兄様が防御魔法を持っていることも教えてもらった。私もお兄様も、無能なんかじゃなかった。嬉しそうに少し興奮気味なお兄様の様子に、ちょっとだけ泣きそうになる。
そうしてお兄様と別れていた間の互いの話をしていく。お兄様は一応今もアーカンドとセイブスを行き来しているようだけど、セイブスでは相変わらずいてもいなくても変わらないような扱いで、最近ではほとんどアーカンドで過ごしているらしい。しばらくセイブス王国に戻っていないと言った。
「とはいえ、私やメルディーナがアーカンドにいることをよく思わない獣人もたくさんいるようだ」
それはそうだろう。むしろ、オルガやミシャのように、喜んで歓迎してくれている人がいることに私は驚きだわ。
話し込んでいると、ノックの後リアム殿下が姿を見せた。
「兄妹の時間を邪魔してすみません。メルディーナ、王があなたと会いたがっています」
謁見の時間だ。
◆◇◆◇
リアム殿下、お兄様とともに謁見の間に通される。
一段高い位置にある玉座に国王陛下、その側にいるのは……王太子殿下だろうか?2人とも、リアム殿下に雰囲気が似ている。他国の王族、それも人間と長い間不仲が続いている獣人の国王陛下。この上なく緊張していたけど、それでほんの少しだけ和らいだ。
「ご挨拶が大変遅くなってしまい、申し訳ありません。並びに、多大なるご迷惑をおかけしたことについても心より謝罪いたします」
国王陛下や王太子殿下は私のことを好意的に見てくださっていると聞いている。私が精霊のロキとともにあり、見つかった場所が守りの森であったことも大きいのだとか。私が城から逃げ出したことについても咎めるつもりは一切ないとリアム殿下が事前に教えてくださった。
「初めまして、メルディーナ嬢。私はリアムの兄で王太子のハディス・アーカンドだ。君のことはリアムに聞いているよ。私達はあなたを歓迎する」
国王陛下と少し言葉を交わした後、人好きのする笑顔で王太子殿下が言葉をかけてくださる。この謁見は決して公式のものではないと聞いていて、だからこそこの場に王妃様がいないのだ。
「ただ、君も知っていると思うけれど、中には君やイーデンを快く思わない者もいる。……できれば、その者たちを納得させてほしいと思う」
人間と獣人の間に生まれた軋轢は根強い。普通に説得するだけではとてもじゃないが納得できないという者も多いのだ。
「君は、瘴気を払えるそうだね」
ハディス王太子殿下の言葉に、斜め後ろに控えたお兄様が息を呑む。
「はい。私は浄化を使うことが出来ます」
「瘴気を払うその魔法が果たしてただの浄化なのかは気になるところではあるけど……まあそれは今考えることではないだろう。君にはリアムと共に、セイブス王国に近い場所にある街へ向かい、瘴気を払ってほしいと思っているんだ」
その瘴気は、恐らくセイブス王国で生まれたものなんだろう。
国境近くの街に瘴気が発生し、それ以上王都側に来ないよう細心の注意を払っているのだと王太子殿下は続けた。
「あなたはリアムの恩人でもある。何の憂いもなくここにいてほしいと言いたいところだけど、状況がそれを許さない。それにあなたが瘴気を払ってくれれば、我が国としても助かるんだ。頼まれてくれるかい?」
「もちろんです。認めていただけるよう、全力を尽くします」
元よりただ守られるつもりはない。私は優しく頷く国王陛下に向かって深く礼を取った。
ここで私に出来ることは何でもしたい。陛下は私をリアム殿下の恩人だと言ってくださったけれど、殿下こそが私の命を救ってくださった恩人だ。
そして、出来ることなら、人間と獣人が少しでもお互いを認め合えるようになれば――。
「獣人が皆、君やリアムにくっついて離れない小さな親友を見ることが出来れば、誰も反対などしないのだろうけどね」
疲れたように薄く笑う王太子殿下に同意するように顎をさすり、私の側のロキを見つめる陛下。さすが獣人の王族。ロキのこともばっちり見えている。この様子を見るに、私のために随分お心を砕いてくださったようだ。
謁見が終わり、客室に戻るとお兄様が私をソファに座らせた。
「メルディーナ、治癒だけじゃなく浄化も使えたのか……?」
「治癒もまた使えるようになったわ」
「そういうことじゃなくて……」
なぜかため息をつかれた。なんで?
「それに小さな親友って何のこと?私には分からないことがたくさんあるんだけど……」
頭を抱えるお兄様の様子に、リアム殿下が苦笑する。
「イーデンも稀有な守りの魔法を使う者ですし、聖なる魔力を多く浴びていればそのうちロキやルーチェが見えるかもしれませんね」
私の大事なロキをお兄様に紹介できる日が来るかもしれない。そう思うと心が浮き立って、私の喜びが伝わったのかロキも目に見えて上機嫌になった。もうお兄様に隠すことはないと、お母様以外で初めて自分からロキの存在を打ち明けた。リアム殿下や王太子殿下達は最初から見えているわけだからもちろんノーカウント。
……とはいえ、ずっと隠し続けていた私の秘密を知ったお兄様は、驚きに目をまわしていたけどね。




