兄と妹
アーカンドの王都へは思っていたよりすぐに着いた。行きはもっと遠かった気がするのに帰りがあっという間っていうのは前世でもあるあるだった。
守りの森へ向かったあの日、決死の覚悟でずっと緊張状態だったし、多分実際よりずいぶん長く感じてたんじゃないのかな。道を知っているリアム殿下の隣をついていくだけの今回は、余裕しかない。
お兄様のローブは今回もすっぽりとフードまで被っている。同じように、リアム殿下も黒いローブを着込んでいた。
あの日必死の思いで抜け出した王宮はもう目の前。
「メルディーナ、私がついているので大丈夫ですよ」
リアム殿下が私の背中にそっと手を添える。支えるような手つきだった。知らずに力が入っていたみたいで、体のこわばりが取れていく。
遠目で私達を確認した門番が城門をゆっくりと開いていった。
「メル様、僕もいるよ~!お城ではリアムじゃなくてこのままメル様のそばにいてもいい?」
「メルの側には俺がいるからお前はどっか行ってろ!」
小さな味方2人のやり取りに思わず笑ってしまって、一層余計な力が抜けた。
◆◇◆◇
城についてまず待っていたのは、予想に反しての歓迎だった。
「メルディーナ様!こちらへどうぞ!」
「まずは私達がメルディーナ様のお支度をさせていただきますぅ」
「えっ?えっ?」
2人の侍女に左右を挟まれ、どんどん奥へ連れられて行く。戸惑ってリアム殿下を振り向くと、大丈夫だというようにこちらに向かって頷いた。
「あらぁ?しばらく森で生活していたと聞いていたのですが、随分お綺麗ですのねぇ」
連れて行かれた浴室で、侍女の1人が首を傾げる。
「一応こまめに浄化をかけていましたので。泉の側にいましたし」
「まあ、浄化をですか!?」
私と同年代らしき、タイプの違う侍女2人。おっとりと間延びしたような喋り方をするのがオルガ、シャキシャキと明るく話すのがミシャと言った。
お風呂で磨き上げられ、2人がかりでマッサージをされる。何が何だか分からないままにこうしてお世話を焼かれているけれど。
「あの、お二人は……嫌ではないのですか?人間である私のためにこうして動いてくださること」
「ふふふ、まさかぁ。メルディーナ様のお話を聞いて、皆でこのお役目の取り合いをしたんですよぉ」
「聞いてくださいます!?選ばれたのは嬉しかったですけど、お前たちはうるさいほどに喋るから不安があるが、今回ばかりはそれが彼女の不安をやわらげるだろうって、第二王子殿下が!……私達、うるさいです?」
2人の態度は確かに私を厭っているようには見えなくて、その明るさとマッサージの気持ちよさに残っていた不安と緊張がどんどんほぐれていく。
リアム殿下はきっと、私を出来る限り万全の状態で迎えるよう、手を尽くしてくれたに違いない。
「メルディーナ様、なんでもお似合いになるからどのドレスにしようか迷っちゃいますねぇ」
「選びがいがあります!」
身支度が整っていく間に、私はすっかりこの2人の侍女に心を許していた。確かにリアム殿下は「伊達に私を長い間見ていない」。オルガとミシャの、ともすれば城に勤める侍女としては近すぎる程のあけすけな態度は私に安心感を与えた。
「このドレスは……」
「第二王子殿下がはりきって準備しようとしたら、イーデン様がどうか自分がと譲らなくてぇ。結局2人で半分ずつ選んでましたねえ」
目の前に並べられたたくさんのドレスに戸惑っているとオルガが笑いながら教えてくれる。
お兄様……。
「もう少し頑張ってくださいね!支度が出来たらすぐにでもイーデン様にお会いになれますよ!」
◆◇◆◇
「メルディーナ……」
準備が終わり、連れられたのはいつか抜け出した場所とよく似た客室。そこに、お兄様が待っていた。オルガとミシャは私を部屋の中に促すと扉を閉める。
「お兄様、あの」
言葉は続かなかった。
私を見たお兄様が感極まったように近づいてきて、思いきり抱き締められたから。
『私に迷惑をかけたくなければ今すぐそれを着てここから去れ!絶対に捕まるな!……私の妹だとバレる場所で死ぬな』
あの時お兄様に投げかけられたあの言葉が、私を守る不器用な優しさだったと今はもう分かっている。
「すまない、メルディーナ。私は最低の兄だった……何年も、ずっと。お前が死んでもいいなんて思っていない。今更何をと思うかもしれないが――」
「お兄様、もう、分かってます。全部分かってます」
それでもやっぱり少しだけ緊張してしまって。ぎこちなくお兄様の背に腕を回す。
「私の方こそ長い間ずっと……ごめんなさい」
お兄様は私に無関心なのだと、今思えば私が勝手に決めつけていた。近づかなかったのは私も同じだったのに、まるで自分ばかりが可哀想な気がしていたのかも。ちゃんと見れば、どれ程お兄様が私を心配してくれていたのかがよく分かる。きっと、これまでもずっとそうだったんだ。
「これからは良い兄であるように努力する。だからお前を守らせてくれる?」
「お兄様が守ってくださるの?嬉しい」
わだかまりも誤解も全部その辺に捨ててしまったら、変わらず優しい兄がそこにいた。
お兄様のことが大好きで、いつもその後をついて回っていた。甘えん坊の妹だった、小さな頃の私に戻れたような気がした。
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