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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
第2章

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リアム殿下は考える1

 


 小さな頃。リアムは気がつけば人間の国にいたことがある。

 人間の国は怖いところだと、絶対に近づいてはいけないと何度も何度も言い聞かせられていたはずなのに。そう言われるたびに、人間の国に通じているという森すら怖く感じたほどだったのに。

 気がつけば覚えたばかりの獣化の姿で、人間がたくさん行きかう通りで1人うずくまっていたのだ。


 慌てて本当の姿に戻ろうとしたが、動揺が酷かったためか上手くいかなかった。今思えばその時に元に戻れなくてよかったのかもしれない。獣の姿であれほどの目にあったのだ。獣人だとバレたら本当に捕らえられ、2度とアーカンドへ帰ることは出来なかった可能性もある。


 とにかく気付いたときには蹴られ、いたぶられ、そうして血を流した自分を、まるで汚いものであるかのように人々が自分を遠巻きにしていた。

 ここは地獄で、人は悪魔なのだ。そう思った。


(痛い、こわい、こわい……助けて…………)


 このまま自分は死ぬのかもしれない。そう絶望している時に、不意に小さな腕に抱きかかえられた。

 そのままあっという間に人目を避けた路地裏で、温かい光に包まれる。


 それが、メルディーナとの出会いだった。




 必死で逃げ帰り、城で両親と4歳年上の兄に叱られる。


「それでも、無傷で帰ってこられたのは本当に運が良かった」


 そう言われた瞬間、あの人間の女の子の顔が浮かんだ。

(あの子が、治癒魔法を使ってくれたんだ……)


 人間は怖かったけれど、悪い人間ばかりではなかったと必死で訴える。


「うーん、人間が治癒を?家庭教師の先生にもそんなの聞いたことないぞ!治癒は俺たち獣人にも使えるやつがほとんどいない特別な魔法だよ?」


「それでも、僕の傷が全部治っているのが証拠です!」


 父は訝しがる兄と、ムキになるリアムの両方の頭を優しくなでた。


「リアムに残るこの魔法の気配、恐らく治癒を使える女の子がいるというのは本当だろう。だけど、それ以外にも見たこともない魔力の気配……いや、これは魔力なのか?」


「……??」


 どうやら、リアムがあれほど恐れていたはずの人間の国にいたことと、その見たこともない力の気配が関係しているのでは?ということだった。

 だがそれからしばらく警戒するも、同じようなことは2度と起こらなかった。


「ごめんね、ごめんねリアム……僕が眠っていたから君を危険な目に合わせちゃったんだ……」


 いつも自分の側にいる、小さくて泣き虫な()()は泣きながらそう言って謝った。



 両親の警戒心が薄れたあたりで、リアムは再び人間の国へ向かった。今度こそ自分の意志で、慎重に森のなかへ……。

 恐らく両親や兄は本当は気づいていたのかもしれない。それでも何も言わずに好きにさせてくれた。あれだけの目にあったのだから、普通なら許されないことだったはずだが、なぜ自由にさせてもらえたのかは分からない。


(あの女の子にまた会いたい……)


 リアムの頭にあるのはそればかりだった。



 メルディーナは優しい少女だった。

 初めはリアムを遠ざけもした。それでも諦めきれずに通い続けた。

 人間の国に入るのはいつだって命がけだったと思う。それでも「もうやめよう」とは1度も思わなかった。


 それに、メルディーナといると心地がいい。


 最初の出会いを、自分はあなたに助けられたあの子供だと分かってほしくて狼の姿で会いに行った。毛並みを撫でて、「あなたは本当に綺麗ね」と褒められたから、それからもずっと獣化したままで逢瀬を重ねた。


 本来の姿で会おうと思ったことがないわけではない。だが、獣人の姿の自分にメルディーナが何を思うのか……彼女はそんな子ではないと思っても、どこかで拒絶を恐れる自分がいた。


(狼の姿でなら、彼女は自分に心を許し、愛情を注いでくれる)


 なによりも、側にいられなくなることが1番怖かった。



 メルディーナはいつも優しく自分を撫で、抱き着いて甘え、色々な話を聞かせてくれた。

 その中で彼女が治癒の力を失ったこと。母親が亡くなったこと。その時期から「自分は愛されない人間だ」と思うようになったこと……色々なことを知った。


 メルディーナはリアムの前では涙も見せた。


(泣かないで……メルディーナ。愛なら僕がいくらでもあなたにあげるから)


 そっと顔を近づけ舐めとったメルディーナの涙は悲しい味がした。


 あまりにも彼女の心が助けてと叫んでいるように思えて、獣人の姿でローブを深くかぶり、市井で働く彼女を見守っていた日もあった。


「……次にお会いしたときにお教えします。それでは、また」


 追手の目から隠すためとはいえ、この腕の中に抱き込んだ彼女の感触を忘れられない。

(ローブの捲れたあの瞬間、彼女には僕の顔はよく見えなかったはず)


 それでも、心のどこかで気づいてほしいと願う自分がいた。




「リアム!君の可愛いメルディーナが泣いてる!!!!」


 夜、小さな友達が絶叫したのは人間の国の瘴気がどんどんと濃くなり、足を踏み入れるだけで体力がそがれるようになった頃だった。


 全力で走り、祈った。


(どうか、どうか無事で!メルディーナ……!)


 やっと見つけた彼女は……ボロボロのドレスのところどころを血で染め、顔色は真っ白で……まるで今にも息絶えそうな程の憔悴……


「ウウッ!ウワオーーーーン!!!」


 大事なこの愛しい人を、誰がここまで傷つけた!!!!



 なんとか腕を回し、必死で自分に縋りつくメルディーナに、リアムは胸が焼き付くような思いだった。


「今度は僕があなたを、助けます――」




 そう誓ったはずなのに、アーカンドで、彼女をなんの不安も憂いもなく休ませてあげようと思っていたのに。


 癒え切らない彼女に無理をさせてしまったのは自分の愚かさだった。





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