無意識にしていたこと
ロキに導かれるままに歩いていくと、段々と街中から外れ人がいなくなっていき、自然の多い場所に出て行った。そのまま止まらずに歩き続けるうちに。
「森に出たわ……」
そこは、セイブス王国に面した場所よりもずっと木々がひしめき合っていて、まるでその森全てが緑の神殿であるかのように神聖な空気を感じる場所だった。
((すごい……こんなに瘴気を感じない場所、随分久しぶりだ))
そうなの?
目に見える程濃い瘴気以外、私には分からないからなあ。と、思っていたら。
((何言ってるの?メルだってめちゃくちゃ感じてるだろ?アーカンドは息がしやすいって言ってたじゃないか。ここ、すごく体が軽く感じない?))
((……そう言われてみれば))
そうと認識していなかっただけで、私も瘴気の濃淡の影響をばっちり感じているらしい。
((精霊の俺と繋がれるほどメルの魔力は強くて清いから、多分他の人よりずーっと影響を感じやすいと思うよ。セイブスではかなり苦しかっただろ。ただでさえあそこの妖精たちをメルが1人で生かし続けてたんだし。――ほら、呼んでる!森へ入ろう!!))
((ちょっと待って?))
((早く!とにかく森に入りたい!行こ!!))
ちょっと待って?なんだかまた聞き捨てならないことをいっぱい言われた気がするんだけど?というか呼んでるって何?怖いんだけど……。
ロキを問いただしたかったけれど、瘴気の薄いこの森の空気に興奮しているのか、明らかにはしゃいでいて全然話にならない。仕方ないので、とにかく何もかも落ち着いてからだ!と森に足を踏み入れる。
「――っ!?!?」
数歩森の中に足を踏み入れた時のことだった。踏みしめた草が生い茂る地面に、ぶわわっ!と次々に花が咲いていく!
「えっ!?なにこれ……?」
「メル!皆がメルを歓迎してる!メルが来て嬉しいんだよ」
「ロキ!?」
私が思わず目を丸くしたのも無理はないと思う。
「どうした?そんなに口ぽかんと開けてたら虫はいるよ?」
「あなた……」
「あれっ?」
何かがおかしいと気付いたロキもじっと私の目を見つめた。
そう、目を見つめているのだ。
キラキラと木の隙間から洩れた日の光を浴びて白銀の髪も、髪とよく似た色の瞳も輝いている。ずーっと前に見たきり、全然変わらない綺麗な色。数年ぶりに見る、それでも少しも忘れられなかった、ロキの姿。
――いやいやいや。私今、ロキの姿が見えてる!
「メル?もしかして俺のこと見えてる?」
私と同じように目を丸くしたロキの言葉にコクコクと何度も頷いた。目を見つめたまま、ロキがおそるおそると近づいてくる。
相変わらず私の顔くらいの大きさのロキが鼻先まで近づいてきた。それでも視線が合ったままなのを確認すると、ロキはぱっ!と満面の笑みを浮かべて勢いよく私の顔面に飛びついた。
「ぶっ!?」
「あ、ごめん、嬉しくてつい」
鼻が少し潰れたかもしれない。
「私も嬉しい!」
赤くなった鼻を抑えながら、思わず声が弾む。
嬉しい嬉しい!こうしてまたロキの目を見て話せるなんて……!
でも、どうして?
「瘴気が薄い場所に来て、使った分の魔力と、ずっと使ってた分の魔力が全部戻ってきたからかな?」
もう我慢できないぞ。
「ねえ、さっきから何度か引っかかる言葉があるんですけど。使った分の魔力は分かるけど、『使ってた分の魔力』って何?」
ロキはもう1度勢いよく飛びついてきた。
「ぶっ!!!!」
「まさか、無意識だったの!?」
視界いっぱいに広がったロキの小さな顔が驚愕に染まっている。「全部自分の意志でやってるのかと思ってた……」そう言いながら。
「だから、何の話なの?私にはさっぱり。ちゃんと全部説明してよ」
「あ、ああ。ごめん、驚きすぎて……まさか、妖精も分からない?」
「ロキは精霊よね」
「わあああ。確かに1度も説明したことない気がするけど。知ってると思ってたから……正確には妖精も精霊も一緒だよ。すっごく簡単に言うと、上位精霊をそのまま精霊、下位精霊を妖精って言ってるんだ」
ロキは木の幹が大きく地面から浮き出ている場所に私を促し座らせた。
「セイブス王国には瘴気が溜まりすぎてるんだよ、妖精たちが長くあの場所にいれば息が出来なくて死んじゃうくらいにね。俺はメルと繋がってるから大丈夫だったけど。……メルは、そんな死にかけの妖精達にずーっと、何年も自分の魔力を与え続けて生かしてたんだよ」
「ずーっと?」
何年も?妖精がいることにすら気づいてなかったのに?
「何年も」
メルの決めたことを否定してると思われたくなくて今まで何も言わなかったのに。そう続けながらロキは迷いなく頷いて見せたけど。
なんだかピンとこないんだけど……。




