(閑話)女子高生ズの考察①一途かヤンデレか
紫乃さんと青司くんがデートしている裏で、妹の桃歌ちゃん(モモ)と友達の未菜ちゃん(ミーナ)が何やら話しています。
女子高生ズのわちゃわちゃをお楽しみください。
※青司くんに対する印象が変わる恐れがあります。ご注意ください。
横浜駅西口から少し歩いた場所にある、川沿いの二階建ての一軒家カフェ。店内はかわいらしい雑貨に囲まれ、オムライスやスイーツなど食べ物が美味しく、隠れ家的な雰囲気も相まって人気の店だ。
今、二階の隅のソファ席に、二人の少女が向かい合わせに座っている。背格好からして女子高生か。共にタイプの違う美少女だった。
「……ここまでお膳立てしたんだから、しっかりね。うん、じゃあね……はあ、全くお兄ちゃんったら」
「あれ? モモ、紫乃ちゃんと電話してたんじゃないの?」
「途中でお兄ちゃんが勝手に代わったみたい。それにしてもごめんね、ミーナ。せっかくの休日に付き合わせちゃって」
モモがスマホを耳から離し、ほうっとひとつ息を吐いた。彼女のたれ目がちの優しげな顔立ちは庇護欲を誘う。黒の革ジャンを肩に羽織り、ロングスカートから伸びたすらりとした足を組んでいる。
ミーナは切れ長の瞳が印象的な整った容姿のクールビューティー。小首を傾げたので、ゆるく巻いておろしている艶やかな茶髪が揺れる。
本日の彼女の服装は、黒い襟とボタンと腰のリボンがアクセントのピンクの愛らしいワンピースに、足元は白いパンプス。冷たくも感じる顔立ちとかわいらしいコーディネートはアンバランスなのだが、本人は気にしない。好きなものを着るのが、彼女のポリシーだ。
モモとミーナは高校に入学したばかりの一年生。同じクラスになって早々、とても気が合って仲良くなった。お互い言いたいことは溜めずに言うので女子の中では浮きやすいタイプだったり、見た目から理想を押し付けられやすくて辟易していたりと、共通点が多い。
モモの謝罪に、ミーナは首を振る。
「気にしないで。機会があれば青司お兄さんが片思いしてる紫乃ちゃんに会わせてほしいけどね」
「もちろんだよ! ミーナは『初対面の人にすごく気遣いする子』っていう設定にしてたからさ。まあ本当なんだけど。でも多分ミーナは紫乃ちゃんと仲良くなりそうな予感がしたから、今まで会わせられなかったんだよね」
「ん、じゃあ楽しみにしてる。それにしても、紫乃ちゃん大丈夫かな。青司お兄さんって、表向きの行動とか言動とかは一途に見せて、ドロッドロに病んでる部分を上手く隠してるから、モモから聞く限り天然さんの紫乃ちゃんには気付かれなさそうよね」
モモの兄である多田青司は本日20歳になる大学生だ。彼は8歳年上の片山紫乃という女性に熱烈に片想いをしている。
今日は青司が紫乃に初めて自分の想いを伝えるため、妹の桃歌とその友人である未菜は協力を仰がれた。
モモは色々準備が必要だったが、ミーナがやることはひとつ。13時頃にモモのスマホに電話をして、横浜駅西口付近で具合が悪くなったと告げること。
少し前にミーナと合流したモモは、二人のお気に入りのカフェに移動し、紫乃に連絡を入れて今に至る、というわけだ。
モモはミーナの鋭い観察眼に感心する。
「さすがミーナね。大抵お兄ちゃんの見た目に騙される女の子ばかりなのに、初対面で本人を前にして『青司お兄さんって腹に一物抱えているタイプですよね』って真顔で言い切っただけはある! お兄ちゃんはそれでミーナのこと信用してるんだよ」
「だてに乙女ゲームをやりこんでないからね。でも、さすがにいきなりは失礼だったなって反省してる。でも、でもさ! あんな爽やかハイスペックスパダリイケメンが純白思考なわけないよね! 何かの目的のために、自分を磨き続けたとしか思えないよね!」
「落ち着いて。ここリアルだから、三次元だから」
「ああごめん、興奮しすぎた。青司お兄さんがイケメンでハイスペックで腹黒でヤンデレででも一途っていう、二次元設定過ぎるんだもん」
ミーナは大好きな乙女ゲーム関係の話になると、目を爛々とさせ、頬を紅潮して、とびきりの笑顔になる。クールビューティーのかわいらしい変貌を目の当たりにした男性店員が興味津々といった様子で注文していた飲み物を持ってきた。
暴走しそうなミーナを制しつつ、モモは店員から愛想よくアイスコーヒーを受け取った。ミーナはアイスキャラメルラテ。あとでデザートも頼もうと二人は決めていた。
飲み物で喉を潤したモモは、瞳をキラリと光らせて改めて口を開く。
「ではここで問題です。回答者のミーナさん、今から私がする質問に、「一途」か「ヤンデレ」の二択でお答え下さい」
「いきなりだな。まあやるけど」
ミーナはモモの唐突なクイズコーナーにも動じない。それどころか楽しそうに了承した。こういうノリも、互いに好きなところのひとつである。
「それでは第一問、テーレンッ! 多田青司が11歳のとき、自分の祖父がオーナーのマンションに引っ越してきた、当時大学生だった片山紫乃が今でも好きだ」
「一途ですね。素敵ですね」
クイズ番組のような効果音まで入れるノリノリなモモに、ミーナは即座に答える。
「第二問、テーレンッ! 青司は、お年玉やお小遣いやバイト代を紫乃との将来のために貯めたり、親に経済的に頼らず自活するための仕事を見つけたり、資格を取得した」
「うん、一途一途。大人の女性に追い付くためとはいえ、偉いね」
「第三問、テーレンッ! 青司は紫乃から弟みたいな存在だと思われていることを理解し、成人年齢の20歳になるまで紫乃に会わないと決意、中学入学を機にメール以外の接触を一切避けた。しかし妹を手なずけて、紫乃の元に情報収集のスパイとして送り込んだ。尚、妹は全てを理解しているので強要ではないとする」
「え……一途、かな」
一気に雲行きが怪しくなってきた。ミーナの回答にも戸惑いが見え始める。
「第四問、テーレンッ! 青司は半年前、自身がモデルのキャラクターを登場させたスマホのアプリを開発し、妹を使って紫乃にダウンロードさせた。理由は、現在の青司の姿を模したキャラクターを毎日見せることで、紫乃の無意識下に自分の存在を知らしめる効果を狙ったから」
「無意識下に働きかけるとか、サブリミナル効果ってやつじゃない? ……それはヤンデ……」
ミーナはおそるおそる答えるも、モモのやけに明るい声に遮られた。
「第五問、テーレンッ! 青司は、4年ぶりに会う紫乃に最大のインパクトを与え、彼女に自分の存在を刻み込む『計画』を思い立った。自分が紫乃の家を訪れるタイミングでカウントダウンするようにアプリに細工をして驚かせたり、偶然友人が具合が悪くなった妹をその場からさりげなく去らせたり、異性に慣れていない紫乃をかわいいかわいいと愛でたり、自分の誕生日だからお願いを聞いてほしいとおねがりしたり。最終的にコスモワールドで二人きりの観覧車デートを実現させ、そこで大学生だけど自活している成人男性だとプレゼンをし、プロポーズ。いきなりなので断られることは承知の上で、それなら結婚を前提に付き合おうと畳みかけようと……」
「はいヤンデレ。それアウトです。怪しげな勧誘と同じ。考える隙を与えないやつ」
今度はモモの質問にかぶせるように、ミーナが早口で言い切った。計画の全貌をたった今知ったミーナは冷や汗が止まらない。ちょっとこじらせた片想いだと聞いていたのに。
「これが最後の問題です。第六問、テーレンッ! 青司は、紫乃に9年間片思いのため、とてもモテるが男女交際をしたことがない。キスもそれ以上も経験なしである。ちなみに再会の妄想で、青司は何度か鼻血を出した」
「妄想で鼻血……それはもう末期……」
「さらに協力してくれたお礼にミーナと私には舞浜にある夢の国のフリーパスが進呈される」
「ありがたくいただきます!」
「以上で質問は終了となりまーす。またの挑戦をお待ちしておりまーす。次回はUSJのフリーパスの予定でーす」
「や、もう当分いいです」
ミーナはげんなりして、アイスキャラメルラテをずずっと飲んだ。甘いキャラメルが喉にはりついて、ますます胸焼けがしそうだった。モモも気力が削がれたような疲れた表情を浮かべる。
「というわけで、お兄ちゃんヤバくね? って話ですよ」
「うん、ヤバい。どんなにかっこよくてもだめだわ。残念過ぎるわ」
「元々うちの家族は亡くなったおじいちゃん含めて、紫乃ちゃんのこと大好きなんだよね。15歳の私が言うのも何だけど、何事にも素直だし、年下の私にも気楽に接してくれるし、性格が気持ちが良いんだよね」
「うん、モモから話を聞く紫乃ちゃんってそんな感じ」
「昔からお兄ちゃんは紫乃ちゃんに夢中で、最初は微笑ましく思っていた両親たちだけど、中学高校でも変わらないからさすがに『あれっ本気だったの?』って気付いて。今じゃ『うちのお兄ちゃんがごめんね☆末永くよろしくね☆』って感じ。だってお兄ちゃん紫乃ちゃんしか見てないもの。恋の病だもの」
「ふむ、『紫乃病』だね。もう完治は無理だね」
「紫乃病、死の病……なんたることだ……」
神妙な顔のミーナ、頭を抱えるモモ。周囲の客や店員は、小声の二人の会話は聞こえていない。しかし深刻そうな話をしているように見えるので、きっと恋の悩みを相談しているに違いないと見守っていた。まさかダジャレのノリだとも知らずに。
ミーナがふと気付いたように、モモに問いかける。
「ねえ、もし他に紫乃ちゃんのことを好きな人が現れたら、青司さんどうするんだろうね」
「関係ないってさ。自分がやっと成人して、しかも紫乃ちゃんは独身で恋人もいないのに、今更他の人に取られてたまるもんかって。どんな奴が現れようが、絶対に自分を選ばせるって」
「たいした自信だわ。だけど実際それを叶えられるスペックの持ち主だし……それにしてもすごい情熱。一途に思われるのは、少しうらやましいかも」
「お兄ちゃんほど……じゃなければね」
うんうん、とモモとミーナは頷いた。一途な人は浮気の心配もないし、自分だけを愛してくれるので、とても安心できる。だが青司ほどは勘弁したい。モモが言葉を濁すのも仕方ないことだった。
少し憐れみの視線をモモに送っていたミーナは、メニューを手に取った。後からデザートを頼もうと思っていたことを思い出したのである。そして選びながら呟く。
「紫乃ちゃんがどうしても受け入れられなかったら、青司お兄さんストーカーになりそう。今の時点でもちょっと怪しいけど」
「お兄ちゃんの性格上、ストーカーよりも、笑顔で無理心中を選ぶと思う。はい来世来世って感じで」
「それ乙女ゲームで見たことある。ヤンデレあるあるだ」
「……紫乃ちゃんごめんね……お兄ちゃんを受け入れてくれる結末しか、明るい未来はないの……」
「……LOVE or DEAD。全然羨ましくなかった」
モモは、テーブルの上で組んだ両手の上に項垂れた。ミーナは額に手を当てて天を仰いだ。
女子高生ズの一喜一憂は、まだまだ続く。
正直、作者はこのヤンデレと一途についてが一番書きたかったのです(笑)
女子高生ズの考察は、今後も続きます。
次回は新キャラが登場します。




