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パッチワークソウル 第一部  作者: 津蔵坂あけび
Chapter 4. そして俺は母を知る。
43/53

毒と毒姫④


<another side>


「止まった」


 学園の地下に静寂が訪れる。

 けたたましい心音は止んだ。宿木はゆっくりと、スカーレットの眠る大樹に絡めとられた宝玉の前へと躍り出る。邪魔だとでも言わんばかりに、はりつけにされた風香を押しのける。彼女の身体はやせ細り、頬がこけ始めていた。


「喜べ。君の命は無駄にはならなかったようだ。――七百年の私の苦しみに終止符を打つのがお前だとは、少し拍子抜けだがな」


 朱色に輝く巨大な宝玉。

 その中で眠るのは、眩い光を放つたおやかな髪を持つ、神々しい少女。スカーレト・ホーエンハイム――


「七百年前。百年戦争の最中。我が娘は死んだ」


 中世に魔導を大きく発展させた、伝説の魔導士。

 軍事魔法は、ゼルディウス・ホーエンハイム。

 治療魔法は、その妻、ミラージュ・ホーエンハイムに、それぞれの発展を約束された。王国直属の魔導士として。


「殺したのは、敵国の兵士か? 戦地を飛び交う弓矢か? いや、長きに渡る戦の終わりも、クロスボウの禁止令も、娘の生き死にには関わりはない」


 特に、魔力の増幅および貯蓄に関する技術と、治療魔法の発展において、ふたりは多大な功績を残した。


「――ああ、我が娘よ。歴史はゴミだ。大きな事ばかりを取り立てる。戦争の始まりと終わり。事件が大好きだ。とんでもない英雄ととんでもない悪役が大好きだ。私は、歴史に好かれたらしい。歴史に名を残すことができた」


 しかし、そのふたりの魔導の研究に、拍車をかけたものは、他でもない。

 たったひとりの娘。スカーレット・ホーエンハイムの‘不慮の事故’による死。


「それもこれも、スカーレット。お前が死んでくれたからとでも言うように、歴史は言う。お前の死は、歴史のために必要だった。そんな陳腐な文句で、お前の死を肯定するんだ。腹立たしくてならない」


 もう沢山だ。懐にしまっていた歴史書を床に投げ捨てる。


「スカーレット。お前は、私のすべてだ。昔も、そして、今も」


 すうと息を吸い込み、腕を大きく広げ、腹の底から声を出す。


「さあ、甦れっ! その眼を開けろっ! スカーレット! 私を呪われた七百年のときから、解放するのだっ」


 しかし、少女の眼は開かない。

 代わりに、眼尻に険しい皺が寄り、口元が歪む。ぎりりと噛み締めた白い歯が、艶やかな唇の間から覗く。眠ったままの姫が、感情があるかのような素振りを見せたが、もう宿木はそれには慣れていた。それが彼女が目覚める兆しだと喜んでいたのは、もう何年も何年も昔の話だ。欲しいのは、彼女の声。そして、あどけない笑顔。

 しかし、少女は悪夢を見ているように喘ぎながらも、夢から覚めた現さえ拒むかのように、頑なにその眼を開けようとしない。もはや、故意でもあるかのようだ。宿木も鏡に合わせたかのように、眼尻に険しい皺を寄せ、奥歯を噛みしめる。


「まだ、まだ……この私を苦しめるかっ。目を覚ませ、スカーレット」

「だれ……。それ……?」


 その声は、眼前からではない。背後から聞こえた。

 もう忘れてしまった声だが、それを聞いた瞬間に記憶が蘇ってきた。紛れもない、彼女の声だ。


「面白い。私はてっきりお前の屍が動くのだと思っていたよ」


 振り返る。そこには、ガジュマルの蔓が絡みついた宝玉の中で眠る少女をそのまま持ってきたかのように瓜ふたつの少女が。薄暗い地下の僅かな光を反射して眩くきらめくたおやかな髪。凹凸のはっきりした、端正な顔立ち。ラピスラズリのごとく輝きを放つ碧い瞳。神々しいまでに美しいその姿は、まさしくスカーレット。


 ただひとつ、少しおかしい部分がある。

 なぜか、彼女はヒーロー戦隊が着用するような、てらてらと輝くヒーロースーツを着用していたのだ。


「……、なんだその格好……」

「マジモンジャー」


「なんだそりゃ」

「毎週木曜朝七時放送」


「日曜じゃねーのかよっ! ってか、マジモンジャーの話はどうでもいい! なぜ、そんな格好をしているっ?!」

「お姉ちゃんたちと一緒にネットカフェに行って、そこにコスプレ衣装があったから」


 宿木は眉をぴくぴくと痙攣させる。

 てんで意味が分からない。自分が知る限り、スカーレットは中世で生き、そして死んだ。彼もネットカフェやコスプレなど現代の文明や文化も知っている。だが、それを七百年もの間眠っていたはずのスカーレットがたしなんでいるというのは理解できない。


「あと、そこのネットカフェの自分で作るソフトクリームがむちゃくちゃ美味しい。とくに抹茶味」

「いや、聞いてないわっ!」


「おじさんバニラ派?」

「チョコレートだっ!」


 ――まるで、スカーレットとは、まったく別のところからやって来た生き写し。


「これはこれは、面白い対峙だね」


 べちゃり。べちゃり。湿った足音とともに少年の声が聞こえた。

 宿木はふと気づく。少女の背後だ。黒い水たまり。重油のようにどろどろとした黒い液体が、少女の背後に。まるで意思を持って、動いているかのようにすり寄っている。


「その女の子はスカーレットじゃない。そう言ったときに、どんな行動をするのかな? 殺してくれてもいいぜ。かつて、ボクたちを殺した、あの女のようにな」


 それを捉えた瞬間に、透き通るような青い色をしていた少女の瞳は、濁りはじめ、崩れて地面に手をついた。


「でもまあ、スカーレットから生まれたものであることは確かだ」


 黒い水たまりの中から、そいつは這いずり出てきた。

 びちゃりびちゃりと崩れ落ちながらも立ち上がり、徐々に声から想像できるような少年の身体を形成してゆく。宿木は、その姿を知っていた。


「お前は、木枯唯……」

「おやおや。ご丁寧に間違えてくれるんだ。こんな醜いボクたちのことを。――あんな綺麗な少年に。はらわたが煮えくり返るほど嬉しいよ」


 声色からして、笑っているのだろうか。

 だがその顔面は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていて、表情が読み取れない。醜い。背筋が凍るほど気色悪い異形。一瞬にして、人ではない何かと思い知らされる。


「この顔を見ると、誰だろうと驚く。でも流石に肝が据わってるね。君は……。差し詰め、ボクたちのようなものには、慣れっこかい?」

「レプリカの失敗作といったところか? それも、有象無象の失敗作が融合し、集合意識を持っている」

「お見事。ボクたちは、木枯唯の成り損ねだ。そして、――」


 宿木はそこで彼の身元を察した。

 以前に、彼は宿木に接触を図っていた。匿名の情報屋として、ある情報を宿木に持ち掛けてきた。それは、蘇生魔法に成功した少年の名前と、それを成功させた魔女の名前。


「お前か。私に、木枯唯と鏡花の存在を知らせたのは」

「いかにも。申し遅れた。今回は交渉のため、匿名ではなく名乗らせてもらう。ボクたちのことは、木枯零こがらし れいとでも呼んでくれ」


「交渉……?」

「率直に言おう。――ボクたちは、木枯鏡花を殺したい」


<おまけSSその85>

~新企画:登場人物のプロフィールその7~

三井名みいな 林檎りんご

年齢:16歳

血液型:O型

誕生日:5月24日(ふたご座)

身長:149cm

スリーサイズ:68(A)、53、71

好きな食べ物:ハンバーグ

好きなお菓子:抹茶アイス

好きな飲み物:ミルクティー

好きな色:緑色

趣味:CP観察、同人誌の執筆

特技:植物に異様に詳しい

運動神経:基本的に運動は苦手

性格などの詳細:ナイトウォーカー三人組のひとり。緑髪のショートボブであり、少しおどおどしている。自他ともに認める生粋の腐女子で、常にCP妄想に勤しんでいる。アニメにはかなり精通しているが、特撮は守備範囲ではないらしい。また、アニメでもエロは下品で嫌いらしく、雷雷とは正反対である。

 魔導科の優等生であり、魔力もかなり高いが、読心術と洗脳魔法が得意であり、本人も自覚しているが絵面は地味。他に植物を媒介とした魔法が使える。対象が木材などの、生きていないものに対しても効果を及ぼすことができ、環境によってはかなりの戦闘能力を誇る。

 小柄であり、体型も凹凸に乏しく、本人もそれをコンプレックスとしている。


<おまけSSその86>

~新企画:登場人物のプロフィールその8~

街田まちだ るい

年齢:15歳

血液型:A型

誕生日:3月9日(うお座)

身長:146cm

スリーサイズ:64(AA)、51、66

好きな食べ物:カップラーメン

好きなお菓子:缶詰プリン

好きな飲み物:コーラ

好きな色:オレンジ

趣味:雑貨づくり

特技:工作

運動神経:虚弱体質

性格などの詳細:ナイトウォーカーではあるが、ナイトウォーカー三人組とは別行動。むしろ目の敵にしているような節さえある。かなりの近眼であり、赤い縁の太い眼鏡をかけている。涙を媒体とした空間操作魔法を使い、空間を歪ませることにより相手を切り刻んだり、相手の結界魔法を乗っ取ることで戦う。高度な技術を使えば、相手が使う魔力を自分の身体に注ぎ込むこともでき、種さえ見破られなければ、圧倒的優位に立てる。媒体が涙であるため、魔力を使う際は泣いている。

 実は、一度死んでおり、父親の魔法により蘇生されている。しかし、それと引き換えに父親は植物人間状態になり、七年もの間意識不明である。父親の命と自身の命がつながっており、父親が死ねば、自分も死ぬということを自覚している。同時に、自分が死ねば、父親が解放されることも知っている。しかし、この境遇が彼女の中で最大のジレンマを産んでおり、父親とともに生きる手段を探すために生きることすら、父親の命を削っているという自己矛盾を抱えている。その行き着く先は、自分以外の人間への際限なき嫉妬へと姿を変え、ことあるごとに周囲に敵意を差し向ける。

 父親の命がもう永くないことを悟り、簀巻を頼るも、彼女に利用されているだけだということにも気づいている。

 本作の登場人物の中でも最も重たいバックグラウンドを持つキャラクターのひとり。

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