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パッチワークソウル 第一部  作者: 津蔵坂あけび
Chapter 3. そして俺は恋を知る。
28/53

禁制魔法⑥

 

<main side>


 突如として現れたとんがり帽子の魔女。

 肩に蓑を羽織り、顔の左半分を老木でできた仮面で覆っている。強烈な外見と、その口から発せられる、嫌味たらしくねっとりとした声。一瞬で見る者にこう知覚させる。


 こいつは、ヤバい。


 美月の第一印象も凄まじいものだったが、これはわけが違う。美月から感じたオーラは、こちらをひきつけるもの。この魔女から感じるのは、毒を持つものが、周りにそれを示す警戒色のようなもの。

 関わらない方が身のためだ。一瞬みてそうとわかる相手に喧嘩を売られてしまった。しかも、ばつの悪いことに美月は正常に戦える状態とは言い難い。――虚ろな目をしている。心ここにあらずといった状態だ。


「なんじゃ? せっかく息巻いて老体引きずって来たというのに。お前がそんな状態では楽しめんのう」


 そんな美月の様子を見て、とんがり帽子の魔女、簀巻は口を歪める。そして、俺の方を睨み付けて、右手で掴みかかって来た。素手とは言っても、右手には紫色のオーラが纏われている。禍々しい魔力に全身の毛が逆立つ。

 それが届く一歩手前。美月は正気を取り戻し、三日月刀を簀巻に向けて振り下ろした。

 なんと簀巻は、それをまんまと喰らい、背中から真っ二つに切り裂かれたのだ。――だが、様子がおかしい。簀巻の避けた身体から血は出ない。傷口には禍々しい紫色のオーラがゆらゆらと、煙が漏れるように出ている。半身の間に目を見開く美月の顔が見える。


「おまえは、こいつを守る騎士ナイトというわけか。こいつの危機がお前を突き動かす原動力」


 あろうことか、真っ二つになった身体のままで肩を揺らしてけたけたと笑う。別れた半身は、互いに別れて、美月の周りを円を描くようにして一周し、美月の背後で合体した。彼女の身体はまるで粘土のように離れてくっついたのだ。


「――なぜに、お前はこいつに執着する? ただの冴えないガキじゃぞ」


 一度離れたというのに、何事もなかったかのように。接合面はひとつのほころびさえ見せない。

 不敵に笑う彼女。彼女を睨む美月。


 彼女は口角を引きつらせて笑うと、両の手をぱちりと叩き合わせて、結んで開いて。彼女の指と指をつなぐ紫色の雷撃の走る糸。五本の糸でできた御簾越しに、舌なめずりと嘲笑。ばちりばちりとほとばしる火花。


 釣られた美月は斬りかかるも、空を斬る。かと思ったそのとき、美月の三日月刀が刃先が何かに引きよせられて空中を舞う。雷撃の糸に絡めとられたのだ。美月の視線が上空に向けられたその隙に、背中に膝を食い込ませ突き飛ばす。

 彼女は電光石火のようなスピードで、美月の背後に回り込んだのだ。

 おまけに、落ちて来た三日月刀を奪い、その刃先を美月に向ける。


 口を歪める美月。かなり相手が悪いと見える。両手も俺を庇ったときの傷が塞がっていない。

 だが、美月はすぐに三日月刀を奪い返すことができた。

 

「魔力の結晶たる魔具を奪ったところで、すぐにお前の手に戻る。じゃが、その瞬間、お前は眼前の敵に集中する――」


 その瞬間、俺は目を見開いた。

 美月の背後にもうひとり、鏡に映したようにとんがり帽子の魔女がいたからだ。


「つまりは背後が、おろそかになるということじゃっ!」


 背後からもうひとりの彼女が、美月の背中を蹴り飛ばす。吹き飛んだ美月の身体に、踵落としが喰らわされて美月はリノリウムの床に叩きつけられる。美月は下腹部からくの字に折れ曲がって、紅い血を口から噴き上げた。


 あの美月が、あしらわれている。

 俺の四肢は、恐怖という名の釘によって、床に打ち付けらて。俺の身体は無様に張りつけ状態だ。

 動かない。いや、俺は動いたところで、あんな化け物に勝てるのか。


「もう、終わりかえ?」


 嘲笑を浮かべ、美月を見下ろす。

 とどめの一撃は、あの雷撃の糸。だらりと垂れさがるかと思いきや、意志を持ったように美月の首に絡みついて、ろくろから出来上がった器を切り離すがごとく締め上げようとする。

 しかし、その糸の輪っかは空を斬って、ただの団子結びになってしまった。彼女はひん剥いたような笑みを漏らし、廊下の奥を見やる。

 いつの間にか輪っかをくぐり抜けた美月が、そこに立っていた。

 

「結界魔法の応用形で空間を歪めたか。いや、時空間ごと操作したように思える。――いい。いいぞ、お前」


 出し抜かれたことに悔しがる様子もなく、彼女は肩を揺すってけたけたと笑う。鼻孔を広げて大きく息を吸い込み、恍惚の表情を見せる。


「お前からは、鏡花の匂いがする。ぷんぷんとなあ」


 また、母親の名前が出た。


すさぶと契りをかわした指輪に、鏡花の魂のひとかけら。鏡花は自らの魂を引きちぎって分けたのじゃ。――パッチワークソウル。随分とこすい魔法を使ったものじゃ。自らの死を偽り、神の裁きを逃れるためか?」


「……ち、違うっ!」

「じゃが残念じゃ。毒姫よ、とっくにこの世界に毒は舞い降りたぞっ」


 俺の母親が魂を引きちぎって、分けた?

 毒? 毒姫? 彼女は美月について、かなり俺の知らないことを知っている。


「……ど、毒……。そんなバカ……な……」


 美月は、簀巻の発した言葉にまた、瞳を遠のかせて、その場に膝を折った。彼女はかつんかつんと靴音を鳴らし、蹲る美月の顎を掴み上げる。


「――お前、やはり……」

 

 成すがままの美月の頭部を鷲掴みにして、床に押さえつけて左手で背中から貫通させた。美月の背中にはぼっかと黒い穴が開いている。ちょうど簀巻が出て来た黒い沼ににているそれは、空間が歪んでいることの表れか。

 美月の身体は苦悶に震えていた。


 俺が街田にされたことと同じもの。

 街田が俺の心臓を抜き取って、鏡花を欲したのと同じように。美月の中にも何かが……。待て、じゃあ美月は俺の目の前で殺されるのか。


 俺の身体は、それを恐れるまでに動いていた。

 勝算なんてない。何しろ、美月を玩具のごとく弄んでいた相手だ。もしかしたら、自分は死んでしまうかもしれない。

 それでも、俺の身体は無謀にも簀巻の背中に向けて体当たりした。

 そして、信じられないことに、それは当たったのだ。


 簀巻の身体は、その見てくれに相応しく、高校生の男の子が小学生の女の子に体当たりしたのと同じくらい。つまりは体格差に相応しいくらいの吹っ飛びようを見せた。

 少し拍子抜けだ。今までの彼女からは、人間とは思えない力を感じていたのに。途端にしおらしい態度を見せる彼女に当惑するあまり、俺は冷静さを欠いていた。

 後頭部の首の付け根。延髄の辺りに衝撃が走る。視界がぐらついて、四肢に力が入らなくなりその場に倒れ込むとともに、激しい息苦しさに襲われる。


 そう、相手をひとりと思ったのが間違いだった。

 こいつは、魔法を使って自分の分身を生み出している。片方をおとりにするなんて、定石の戦術だったのだろう。

 俺は息苦しさ、吐き気、眩暈に襲われている。

 歪んだ世界の中で、彼女が邪な笑みを浮かべていた。


「お前ごときが、妾を倒せると思うたかえ?」


 彼女の手が眼前に突き出されたかと思うと、俺の身体は浮き上がって、教室の窓をぶち破り、机を何個か倒して板張りの床に転がる。全身に鈍い痛みが走り、鼓動とともに疼くのを感じる。窓のすりガラスの破片がいくつも身体を突き刺し、傷口からはどくどくと血が溢れている。


 彼女は割れた窓を飛び越えて、教室の中へと入って来た。

 足は床についておらず、浮いている。破片がいくら散らばっていようが、へっちゃらというわけだ。

 

「もったいないのう。お前も鏡花の魂の一部を宿していながら。どうしてこうも差がついたのか。お前には、抵抗するための魔力は宿されていない。まあ、でもその騎士ナイトもどうも欠陥品みたいじゃったな。――過去をほじくっただけで、ボロが出まくりじゃ。やわな心では、何にも守れんぞ」


 ふわふわと浮きながらこちらに近づいて、汚らしい音を鳴らして舌なめずり。彼女の手から紫色の禍々しい光が溢れ出し、それは刃渡りが人の背丈もあろうかという大鉈となった。刃先は地面にこすりつけられていて、彼女が近づくたびにぎぎぎぎ、ぎぎぎぎと鈍い音を立てる。


 ぎぎぎぎ、ぎぎぎぎ。彼女がけたけたと笑いながら近づいて来る。


「妾のように、図太くなければなあっ!」


 大きく振りかぶって、反り返る刀身を振り下ろそうとしたそのとき、彼女の背後から閃光が瞬いた。衝撃波が彼女の身体を突き飛ばす。窓どころか、教室と廊下を仕切る壁そのものが吹き飛んでいた。

 

「何が愛する唯よ。あなた、結局……、自分のことばっかりじゃない……」


 美月の声が粉塵の煙の中から聞こえる。

 だけど、声色が違う。


「あなたの気持ちよりも、あたしの気持ちが強いとか、そんなことは言わない。ただ、少しの間だけ、あたしに身体を返して。あたしにだって木枯くんを守る権利くらいあるはずよ」


 そこにいたのは、あのときと同じ。

 銀色の髪の、もうひとりの美月。


「あたしだって、木枯くんのことが好きなんだものっ!」


<おまけSSその55>


今回のNGテイク。まずはOKバージョン。


 突如として現れたとんがり帽子の魔女。

 肩に蓑を羽織り、顔の左半分を老木でできた仮面で覆っている。強烈な外見と、その口から発せられる、嫌味たらしくねっとりとした声。一瞬で見る者にこう知覚させる。


 こいつは、ヤバい。


 美月の第一印象も凄まじいものだったが、これはわけが違う。美月から感じたオーラは、こちらをひきつけるもの。この魔女から感じるのは、毒を持つものが、周りにそれを示す警戒色のようなもの。

 関わらない方が身のためだ。一瞬みてそうとわかる相手に喧嘩を売られてしまった。しかも、ばつの悪いことに美月は正常に戦える状態とは言い難い。――虚ろな目をしている。心ここにあらずといった状態だ。


「なんじゃ? せっかく息巻いて老体引きずって来たというのに。お前がそんな状態では楽しめんのう」



続いてNGバージョン。



 突如として現れたとんがり帽子の魔女。

 肩に蓑を羽織り、顔の左半分を老木でできた仮面で覆っている。強烈な外見と、その口から発せられる、嫌味たらしくねっとりとした声。一瞬で見る者にこう知覚させる。


 こいつは、ヤバい。


 美月の第一印象も凄まじいものだったが、これはわけが違う。美月から感じたオーラは、こちらをひきつけるもの。この魔女から感じるのは、毒を持つものが、周りにそれを示す警戒色のようなもの。

 関わらない方が身のためだ。一瞬みてそうとわかる相手に喧嘩を売られてしまった。しかも、ばつの悪いことに美月は正常に戦える状態とは言い難い。――虚ろな目をしている。心ここにあらずといった状態だ。


「なんじゃ? せっかく息巻いて老体引きずって来たというのに。お前がそんな状態では楽しめ……」


 ここでなぜか、とんがり帽子の魔女は血相が変わった。


「……あの……。帰って良いかのう?」

「ほえ?」

「いや、家の電気消してきたかなと思って……」

「どうでもいいわっ!!」


<おまけSSその56>


今回のNGテイク。まずはOKバージョン。



今回のNGテイク。まずはOKバージョン。


 突如として現れたとんがり帽子の魔女。

 肩に蓑を羽織り、顔の左半分を老木でできた仮面で覆っている。強烈な外見と、その口から発せられる、嫌味たらしくねっとりとした声。一瞬で見る者にこう知覚させる。


 こいつは、ヤバい。


 美月の第一印象も凄まじいものだったが、これはわけが違う。美月から感じたオーラは、こちらをひきつけるもの。この魔女から感じるのは、毒を持つものが、周りにそれを示す警戒色のようなもの。

 関わらない方が身のためだ。一瞬みてそうとわかる相手に喧嘩を売られてしまった。しかも、ばつの悪いことに美月は正常に戦える状態とは言い難い。――虚ろな目をしている。心ここにあらずといった状態だ。


「なんじゃ? せっかく息巻いて老体引きずって来たというのに。お前がそんな状態では楽しめんのう」



続いてNGバージョン。



 突如として現れたとんがり帽子の魔女。

 肩に蓑を羽織り、顔の左半分を老木でできた仮面で覆っている。強烈な外見と、その口から発せられる、嫌味たらしくねっとりとした声。一瞬で見る者にこう知覚させる。


 こいつは、ヤバい。


 美月の第一印象も凄まじいものだったが、これはわけが違う。美月から感じたオーラは、こちらをひきつけるもの。この魔女から感じるのは、毒を持つものが、周りにそれを示す警戒色のようなもの。

 関わらない方が身のためだ。一瞬みてそうとわかる相手に喧嘩を売られてしまった。しかも、ばつの悪いことに美月は正常に戦える状態とは言い難い。――虚ろな目をしている。心ここにあらずといった状態だ。


「なんじゃ? せっかく息巻いて老体引きずって来たというのに。お前がそんな状態では楽しめ……」


 ここでなぜか、とんがり帽子の魔女は血相が変わった。


「……あの、すまんが……。帰って良いかのう?」

「え、、また?」

「いや、今日行きつけのスーパーで納豆が安売りしてるのを思い出して……」

「いや、諦めろよっ!!」



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