表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊の多い料理店~この世の未練、飯テロ除霊で晴らします~  作者: 瘴気領域@漫画化してます


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/44

第5話 ダイエットアイドル 2/4

「オメェではありません! 私は新進気鋭の天才除霊師稲荷屋(いなりや)トウカですっ」

「お揚げさんが好きそうな名前だなあ」

「いなり寿司もきつねうどんも大好物です!」

「そ、そうか、そりゃあよかったな」


 軽口に真正面から返されて、リョウコはずっこけかけた。

 カウンターの常連たちは突如乱入してきた巫女服の少女に目を丸くしている。


「それでトウカちゃんよ。悪霊ってのはどういうことだい? 競馬のじいさんみたいにぶっ倒れた客なんていねえぞ」

「悪霊の正体はこれから見定めます! 祓い給え清め給え……破ァっ!」


 トウカが懐から大幣(おおぬさ)を抜き、常連たちの頭の上でばっさばっさと振り回す。

 すると常連たちの身体から黒い靄がわき上がり、空中に凝り固まって人型を成した。


『……メ……ダ……チャ……ダメ……』


 それはあちこちの縮尺が狂っていた。

 身長は大人ほどもあるのに、頭は握り拳ほどの大きさしかない。ひらひらと飾り布がやたらについた服をまとい、腰は蜂のようにくびれ、手足は小枝ほどの太さしかない。肌は干からび、しなやかさはなく、干からびきったミイラを思わせる異形が常連たちの頭上に姿を現していた。


「なんだこの出来の悪りぃ干物みてぇな野郎は……」

「今日はいきなり塩とかはやめてくださいね!」

「えっ、あ、ああ。ンなこたぁしねえって」


 トウカに釘を差され、リョウコは塩壺に突っ込んだ手を止めた。


『……ダメ……食ベチャ……ダメ……ダメ……ダメ……』


 常連たちの身体から白い靄が生まれ、悪霊の口に吸い込まれていく。


「ううっ……食欲がなくなってきた……」

「リョウコちゃん、俺やっぱ納豆キャンセルで……」

「お冷も飲みたくねえや……」


 常連たちがぐったりとカウンターに突っ伏す。

 みるみるうちに頬がこけ、目が虚ろになっていく。


「くっ、これはいけません! 悪霊がこの方たちの生気を奪ってます!」

「なんだとォ! こいつらはあっしの店の常連だぞ! なんてことしてくれてやがるんだ!」

「そうなのです! 悪霊は善良な一般人を害する許しがたい存在なのです!」

「昼から酒かっ食らうようなボンクラがいねぇと売上激減なんだよ!」

「あ、そっち」


 トウカは思わず大幣を落としそうになるが、慌てて持ち直す。


「ん? 待て、酒……酒か。よっしゃ、これでも喰らいやがれっ!」

「わー! なんでまた勝手にそんなことするんですか!?」


 トウカが焦ったのも無理はない。

 リョウコが常連の前に置いてあったコップ酒を手に取り悪霊に向かってぶちまけたからだ。清めの塩と同様、酒もまた儀式を通じたものでなければ退魔の力は宿らない。こういう素人除霊術はかえって悪霊を怒らせ、事態を悪化させてしまうことが多いのだ。


『……ダメ……オ酒……ダメ……ゼッタイ……』

「えっ、効いてる!?」


 ところが、トウカの予想に反し悪霊は怯んだ。

 怯えるように酒に濡れた常連たちから離れていく。


『……ダメ……未成年飲酒……スクープ……ダメ……』

「こ、この声はイスキちゃん……」


 悪霊が離れたことで多少生気が戻ったのか、常連のひとりが呻いた。

 それを聞いたトウカがばさっと大幣を振るって叫ぶ。


「悪霊の正体がわかりましたっ! これはきっと大森田(おおもりだ)イスキとOEC48のファンの思念が混合したもの! 何十万もの思念の複合体です!」

「ああン? あのダイエットマニアのヒョロガリ嬢ちゃんたちか?」


 リョウコの視線の先にはブロックノイズに侵された液晶画面の中で踊る少女たちの姿があった。


「なるほど、要するに腹ァ空かしてオバケになっちまったんだな。そういうことならあっしに任せてくんな! おう、トウカちゃんとやら。仕入れェ行ってくっから間をもたせててくんな!」

「えっ!? ちょっ!? どこ行くんですか!? いや逃げてくれるのはいいんですけど、できれば除霊師協会に通報を――」

「それじゃちょいと行ってくるぜ!」

「ほんっとに話聞かないなこの人!?」


 リョウコはエコバックをひっつかみ、赤髪を風にたなびかせて間木田軒を飛び出していった。


「ぬあー、もう! こっちも手が離せないし、一体どうすれば!?」


 一方、トウカは大幣に霊力込めてばっさばっさと振り回し、悪霊の侵食をなんとか押し留めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ