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沢詩 観月

 俺は桜咲さんの事を思い出していた。


「あの日」というのは俺が記憶にない2月14日のことだろうか。

 もしそうなら、その返事というのはもしかして……告白?


 ――……ないな。ない、ない、ない。


 ありえない可能性を俺の中から打ち消す。

 バカバカしい、自意識過剰にもほどがある。


 授業の準備を終えるとほかの先生たちはすでに帰宅しているようだった。

 クラス名簿を開き生徒たちの名前を読んでいく、俺がこれから1年過ごしていく生徒たちだ。


「もう一度、教室へ行ってみるか」


 改めて教室が見たくなる。

 まだ守衛の人が回っていないため、教室には鍵がかけられていないはずだ。

 2年1組の扉を開けると――


「ひゃあ!」

「うお!」


 まさか人がいるとは思わなかった。

 今日は部活も休みで生徒はすでに帰宅していると思っていた。

 特にこの茶髪生徒が補修以外で残っているのは珍しい。いつもは家もしくはショッピングモールに直行なはずだ。


「み、沢詩たくし

「あぁ、歩ちゃん」

「こら、教師をちゃん付けで呼ぶな。先生と呼べって、いつも言ってるだろ」

「ええー、いいじゃーんアタシ達の仲なんだしぃ」


 教師に友達感覚で話しかけてくるのは彼女らしいと言えばらしいだろう。まあさすがにTPOは弁えているが。


「別に特別な仲じゃないだろ」

「ええ~!? 毎晩同じ屋根の下で過ごしているのに?」

「それはお前の家が俺の部屋の下にあるからだろ!」


 人に聞かれたらとんでもない誤解を受けるだろう。

 ほんとにそういうことを言うのはやめてくれんかね。


 彼女の母親が借りているアパート――三日月荘の大家さんだったりする。

 大学に通っていた当時、小学生だった彼女の勉強をみさせてもらいバイトということで家庭教師をさせてもらっていた。高校受験を控えた3年のときに引き受けていた。


 その時から彼女の中で俺は“歩ちゃん”なのだろう。家庭教師の時は一度も先生とは呼んでくれなかった。

 ちなみに彼女の母親である大家さんが俺の事を歩ちゃんと呼び始めた。


 何気にこのギャルがこの高校の中では一番知っている生徒だろう。

 さっきもうっかり名前で呼びかけた。


「で、なんで残ってんだ」

「歩ちゃん待ってたんだよ」

「俺を?」


 いったい何の用だ。


「俺がここに来る保障などどこにもないのに?」

「真面目だから明日から決意を固めるためにここに来るって信じてたし」


 俺ってそんな分かりやすい性格しているか?


「まあいいや、今日は遊びに行かなかったのか。もしかしてハブられている? いじめの相談か?」


 かわいそうにと真摯に向き合うが沢詩たくしはジト~っとした目を向けている。それを見てからかうのをやめた。


「悪かった悪かった。で何の用だ沢詩たくしさん」

「むぅ先生に苗字で“さん“呼ばれると距離を置かれている感じ」

「実際、距離置いてるからな」


 アパートにいる時は名前で呼んでいる。同じ苗字が2人以上いれば混乱するから。それ以上の意味合いはない。


「2人のときくらい名前で呼んでくれてもいいのにぃ」

「ダメ」


 むしろ2人っきりの時のほうが危ない。さらに、それを他人に聞かれたらまずいだろう。


「あ、それと変な質問するんじゃない!」


 今更ながら昼間の対面式の時にされたことを思い出した。


「ええ~先生の恋愛話題みんな聞きたがってたじゃんか~」

「で、実際の用事は?」

「………返事、聞かせてほしいかなぁ」

「……」


 まて、まて、まて、観月もか?


 ――いや、だって観月だぞ。いつも俺をからかって、面白がっている子だ。いろいろ手を焼かせられているけど、俺の大切な教え子の1人で。



「もう一度アタシの家庭教師やってほしいって話。入院中に聞いたと思うけど?」

「は?」


 そんなこと言われたか?

 あ、もしかしたら意識が戻ってから数日以内の事か。

 一応、意識はあったけど、寝ぼけていたみたいに記憶はおぼろげだ。意識が戻ったときに泣きついてきたことは覚えてるんだけどな~。


「……ねえダメ? 前、みたいにさ」


 首をかしげて可愛く尋ねてくるが。


「ダメに決まってるだろう」

「ちぇ~」


 さすがに一部の生徒を特別扱いするわけにはいかない。

 成績は下から数えた方が早いのを自覚して、勉強しようっていう意識は高く買ってやれるけどね。


「一部の生徒になれなれしくするわけにはいかないからね」

「……今じゃあ、みんなの高城先生だもんね~」


 なんか言い方に棘がありませんかね観月さん?

 俺との話を終えるとジャラジャラとデコレーションしてある鞄を担いで教室から出ようとする。


「気を付けて帰れよ。特に車な!」


 事故にあった俺が言うから間違いない。


「ん。歩ちゃん……これからもよろしくね?」

「先生とよべ」


 ひらひら~と手を振り教室を後にする。


 授業の準備を終えて車に乗り込んだ。家で夕飯の準備をしようと思っていると、我が家の冷蔵庫事情を思い出した。そういえば冷蔵庫に何もないんだった。


 さすがに毎日コンビニや外食というわけにはいかない、というより嫌だ。


 これでも一人暮らしは5年以上経験しているから自炊はできる。朝は作るのは面倒なだけだ。

 そのまま車を走らせ最寄りのスーパーへと進路を変更した。



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