普段の学校
いつの間にか50万字を突破して60万字となっておりました。
これからもよろしくお願いします。
文化祭が終わった次の日は泥のように眠った。
それこそ、歩波から昼頃に送られてきた連絡にも気が付かず、夕方電話で怒鳴られるまで寝続けていたのだ。渉もいるということで家族みんなでの食事をすることもすっかりと忘れていた。
黒沢家にお邪魔して家族そろって成恵さんの食事に舌鼓を打つと、渉は仕事ということでその日の最終電車で次のロケがあると事へと向かった。
酒も飲んでいたのでその日は黒沢家に泊めてもらい、俺は歩波と一緒に家を出ることになった。
「あー、今日から普通の学校かー」
歩波は気怠そうに俺の顔を見る。
学校があるのは教師である俺の所為じゃないぞ。
「今日を振替休日にしてくれてもいいのに」
歩波の気持ちもわかる。俺も学生だったら同じことを思っていただろう。
俺と歩波はバスの時間が迫ってくると、慌ただしく玄関までかけていく。
「行ってらっしゃい」
「「行ってきます」」
成恵さんの声に返事をしてバス停まで駆けていく。
マンションの外に出ると、マンションの住人がこれから仕事や学校に向かうのかバス停の前に並んでいた。
中には静蘭の学生もいる。
俺はその所為との背格好に見覚えがあり、肩を叩いた。
「おはよ、神林」
「え……ええっ!! コーチ!? 何でここに!?」
驚いた声を挙げるサッカー部の神林。
その声に反応してバスを待つ人たちの視線が俺たちに集まる。
神林は部活の影響もあってか俺のことを先生と呼ばずコーチと呼ぶことが定着してきた。さすがに授業中は訂正させているが今はいいだろう。
「今日はこいつの家に泊まったからな」
「おはよー、遥ちゃん」
「あ、歩波先輩、おはようございます。そういうことですか」
神林は歩波の顔を見て、俺と歩波の関係を思い出して納得する。
神林と歩波は同じマンションで通学一緒になることも多いからか、仲がいいようだ。また、透のことでも話が合うようで、以前フットサルに歩波が姿を見せたのは驚いた。
ほどなくしてバスが来るとそれに乗り込む。
バスの中は一部サラリーマンもいるが静蘭の学生がほとんどだった。このバスは静蘭学園を折り返しにして駅に戻る半ば静蘭学生専用といってもいいのだろう。
「あ! 高城先生! なんでいるの!?」
「え? 嘘?」
俺が乗り込んできたことに生徒たちが驚き、姿勢を正す生徒までいた。
べつに人様の迷惑になっていなければ注意することもないのだが、生徒だけの空間に教師がいるとやはり気まずいのだろうか。確かにバス通勤なんてするのは初めてだ。
バスの一番後ろが空いているのを確認すると俺はそこに座る。
隣には歩波が座り、神林はいつも友達と座っている席があるのか迷うことなく前方の席に2人で座った。
生徒たちは最初の内は俺の方をチラチラと様子を窺っているが、次のバス停に着く頃にはいつもの調子で話し始める。
聞き耳を立てているとやはり一昨日の文化祭についての話題が多かった。
どれも楽しかったなどと嬉しいなどという良好な反応ばかりで、やってよかったと思えた。
しばらくすると、バスは商店街近くのバス停に停まる。
ここまで来るにあたって幾度かバスが停車し、乗客も増えてきた。吊り革につかまり立っている乗客も見かけるようになる。
商店街ということであれば見知った生徒も乗り込んでくる。
窓の外から文庫本を片手に並んでいる女生徒見つけた。
「あ、桜咲先輩じゃん」
「やっぱ可愛いよなー」
「あの先輩がいるから静蘭に来てよかった。でも……」
「「「好きな人いるんだよなー……」」」
朝から、男子たちのテンションがタダ下がりだった。
告白する前にフラれたみたいなものだろうか。
「どんなクソ野郎だろうな」
「死ねばいいのに」
知らない相手に呪詛をはく。
並んでいた涼香がバスの中に乗り込むと誰かを探し始める。歩波が手を振って涼香にここに居ることをアピールするところを見ると、どうやら探しているのは歩波のようだった。涼香も歩波を見つけると、その隣にいる俺を見てハッとなる。やっぱり、俺がいるのは意外だったみたいだ。
「なんで、高城先生が?」
「昨日、泊ったんだよ」
「あ、そういえば、一昨日に家族で食事をするって言ってたね。あ、遅くなりましたが、おはようございます」
「おはよう」
挨拶をすると涼香は歩波の隣に座る。
「黒沢先輩もやっぱ綺麗だよな」
「他人に言えないバイトをしてるって話だぜ」
「なんだ、他人に言えないバイトって……まさか……」
「間違いなくお前の考えている如何わしいものじゃないぞ」
「ば、馬鹿野郎。そんなこと考えてないぞ」
だったらその顔をどうにかしろ、鼻血まで垂らしやがって。
まだ、学園には声優の仕事をしていることは広まってはいない。だが、一部気が付いている子もいるようだった。
「いつも歩波と一緒になることが多いの?」
「そうですね。たまに歩波さんがいないときもありますけれど」
「こいつ、始業ギリギリに来ることもあるからな」
大方、仕事で疲れて寝過ごしたのだろうな。
だが、立場上厳しい目で見ないといけない。
バスの中で3人で話をしているとあっという間に学園にまでたどり着いた。
「じゃ、私たちは先に教室に行ってくるから」
「今日もよろしくお願いします」
歩波たちとは校門で別れると俺は職員玄関へと向かった。
「あれ? 高城先生?」
「おはようございます。水沢先生」
職員玄関前で水沢先生に声をかけられる。季節も冬に近づいてきたためかちょっと厚めの服を着ている。
「今日は車ではないんですか?」
「昨日、歩波の家に泊まらせてもらって、一緒に来たんです」
「へー、仲がよろしいですね」
「そうですかね?」
職員玄関で靴を履き替えると職員室へと入る。
他の先生方もすでに出勤しており、挨拶をしながら自分のデスクに着いた。
朝の書類を確認していると江上先生が俺の元へとやってきた、その後ろには小杉先生の姿もある。
「高城先生、ちょっとお時間よろしいですか?」
「ええ」
「では、小杉先生」
「こ、ここでですか?」
小杉先生は驚いたように江上先生をみる。
「何か問題でも?」
「ひ、人の目が……」
小杉先生はちらりと視線だけを水沢先生へ向ける。
水沢先生は俺に何かあったのかと視線で尋ねるが、俺は首をかしげて答えるしかなかった。
「関係ありませんよね?」
にっこりと笑う江上先生は目がちっとも笑ってなかった。正直、怖い。
観念したのか、小杉先生が俺の前に立つ。
「ぶ、文化祭ではめ、迷惑をかけたな。すまなかった……」
謝ってもらっても許せるわけがない。
しかも、頭も下げず上から目線で「仕方がないから謝ってやろう」という内心がみてとれる。
責任を放棄して七宮に仕事を押し付けまでしたんだ、もうちょっとお咎めがあってほしい。
「小杉先生、頭くらいは下げましょう。謝罪の念がちっとも伝わってきません」
「ぐ……」
悔しそうに呻くが、今の江上先生に逆らえるわけもなく、頭を軽く下げると――
「そうじゃないでしょう!!」
江上先生が怒鳴りながら小杉先生の頭を押さえつけ、深々と頭を下げさせた。最敬礼よりも深い。普段温厚な江上先生の突然の行動に職員室の先生たちも驚く。
「ぐうぅうう……す、すいませんでした……」
なんというか、こんな人目のつく場所で謝罪させらるのはちょっとかわいそうな気もしてきた。下げている頭からは少し毛薄くなったような気がするのだが、今は触れないでおこう。もしかしたらこれを見られたくなかったのかもしれないし。
「た、体調不良なら仕方がないですよ」
「いえ、一昨日は快●CLUBにいたとバイトをしていた卒業生から連絡をいただきました」
あ、前言撤回。もうちょっと反省してもらおうか。
「教育実習生の七宮先生を呼び出したことといい、責任を放棄するなどとあってはならないことですよ」
「す、すいません……」
「謝るのは私ではありません。高城先生と七宮先生にです。それに、七宮先生の連絡先をどうして知っていたんですか?」
「あ、何度か七宮先生を食事に誘っていたみたいです。きっとその時に交換したんだと思います。それだけじゃなく、自分の校務も七宮先生にさせてました」
「なっ!!」
小杉先生に隠れて小さく舌を出す。
小杉先生が「なぜそれを言うんだ!」と目が語ってくるが知らん。江上先生の笑みがますます濃くなる。江上先生って怒るとこうなるんだ。
「……そのことも含めて教頭、校長、理事長にも報告させてもらいますので。高城先生、お時間いただきありがとうございました」
江上先生は小杉先生とは違う笑みを俺に見せると去っていく。
「ま、待ってください! それだけは!」
小杉先生は慌てて江上先生を追いかける。
それにしても理事長にまで報告か、妥当なところだろうな。いったいどんな処分が下されるのやら。
「久しぶりにみたなぁ。顔だけ菩薩の江上先生」
座間先生が愉快そうに笑う。
そんな座間先生を結崎先生が軽く叩く。
「仏のような顔して頭ン中はブチ切れてんだよぉ。昔、ここらで有名だった暴走族の総長を一晩で改心させたこともあるらしいぃ」
なんだその武勇伝、今度聞かせてもらおう。
「特に今回のは目に余るからね。もしかしたら小杉先生、来年いないかもしれないわね」
心なしか結崎先生はすっきりしたような顔をしている。この前結婚のことでいろいろ言われてたからな、根に持ってたんだろう。
まぁ、俺もちょっと胸がすいたような思いだ。あの人にはいい薬だろう。薬になるかは小杉先生次第だけど。
その後、江上先生だけが職員室に戻ってきて朝礼が始まった。
職員室での朝礼が終わると俺と水沢先生は1組の教室へと向かう。
あれだけにぎやかだった文化祭の名残はすっかりと無くなっていた。
教室の扉を開けると俺たちが来るまで駄弁っていた生徒たちは慌てて自分の席に戻る。夕葵さんの挨拶で朝のSHRが始まる。
「一昨日の文化祭はお疲れさまでした。昨日は十分休めたとおもうからあ、今日からまた切り替えていこう」
「昨日、夕方まで爆睡していた人が言うと説得力がありますねー」
歩波の一言で生徒たちがくすくす笑いだす、話の腰を折りやがって。
文化祭とは違うが賑やかいつもの日常に戻ってきた。
午前の授業が終わり、食堂で昼食を摂っていると――
「はい、何食べる」
「同じのがいいかなー」
「今度の休みは……一緒にでかけないか?」
「……うん」
――文化祭カップルか。
視界に入ったカップル以外にもいちゃついている生徒たちが複数いる。初々しさの残るカップルが多くいるせいか食堂内の空気が妙に甘ったるい。
「けっ! どうせ、クリスマス過ぎたら別れるんだよ」
「所詮はバレンタインデーまでの命だ」
「爆ぜればいいのに……」
俺のクラスの相沢、相馬、斉藤が食券の列に並びながらそんなことを言っているのが聞こえてくる。当然ながらうちのクラスの男子で彼女ができたという話は聞いたことがない。
もうじき年末か……。
特に用事があるわけではないが、黒沢家がこっちに引っ越してきたこともあって帰郷はしなくてもいい。あ、でも年始の墓参りだけは行きたいな。
俺は年末までの予定を頭の中で整理していく。
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