IN A BAR
馬車の御者台で、俺は馬を操り、王都までの道を行く。
まあ、今は途中の宿場町の酒場で一休み中なんだがな。
俺の名前はジェームズ・ドロワ。通称ホークアイと呼ばれる弓の名手だ。
親父の唯一、倒せなかった『VENGEANCE』を倒そうとしたのだが、これが見事に負けてしまった。
俺は次こそ勝つために、奴の近くにいることにしようと思った。それに、俺はヤツの強さにほれ込んでしまった。別に、女として好きになったというわけではなく、戦士としての敬意、と言うやつだ。
そんなこんなで転がり込んだわけだが、彼女らの敵であるヒュドラーの計画をつぶすため、王都の方に移住する、と言う話になった。その情報を渡したのは、俺本人なのだが。
そう言うわけで、女性に御者をやらすわけにもいかず、俺が御者をしているわけで。まあ、夜目も効くし、俺の視力は人間としては桁外れの性能を持っている。まあ、これは俺の血筋が大いにからんでいるわけだが。
女性ばかりで少し肩身が狭くて、おまけに話し相手で相棒のツァールまで、VENGEANCEの恋人のサクヤ嬢に奪われていて、話す相手もいない。
と言うわけで、少し、俺の昔話に付き合ってくれないか。酒代は驕るからよ。
俺の生まれた一族は、鷹の一族と呼ばれていてな。狩りを生活の糧とする一族だ。
とはいえ、凄腕の弓の腕も視力も、ほとんど一生田舎の生活の中で使われる。
それに不満を持つ村の若者は、時に傭兵として村のある森林や山を出ていく。俺の親父もそんな一人、ってわけだ。
親父は傭兵としていろいろと戦場を渡り歩き、いつしかホークアイと言う異名を持つまでになった。
百発百中。鷹の目のごとく、獲物を逃がさぬスナイパー。それが親父だった。
金をもらい、仕事をしていたが、金のほとんどは村に送られ、親父は金に興味なかったらしい。
飽くまで親父は狩人でしかなくて、名声も金も、問題ではなく、ただ強いものを狩る、という本能に従っているだけであった。
まあ、そんな親父も片目を失くしてからは、落ち着いたらしく、美人の奥さんをもらって、俺が誕生する、と言うわけだ。
生まれた俺を親父は厳しく育てた。
まだ赤ん坊の俺に弓を持たせて怪我をさせては、お袋に怒られていたようだ。
とはいえ、俺への指導を親父はやめなかった。親父曰く、俺は親父以上の狩人になれる器らしく、腐らせるにはもったいない、と言うことだった。
俺は特にやりたいこともなかったし、親父の言う狩人のロマン、というものに憧れていた。
哀しいことに、俺は狩人の息子、というわけだったのさ。
15のころには親父はもう教えることはない、と言った。そして、俺に言ったのさ。
「世界を見てこい」ってね。
俺も、いつまでも親元にいるつもりはなくてな。親父もお袋も、それは承知していた。
16の誕生日に、俺は生まれ育った家を出た。そして、俺を待っている獲物どもを探しに行ったのさ。
色々な相手を狩ってきた。
森の主や、山賊。それに、俺と同じような出自の狩人とかな。
だが、それを倒しても、俺の中の狩人は満足できなかった。
もっと、もっと強い奴を。そうやって、俺はさ迷い歩いた。
ある時、ヒュドラーとかいう組織の虐殺の現場を視ちまってなあ。そこでスカウトされたんだが、俺は別に殺しに快感を覚えているわけではないし、奴らの言うことをさっぱり理解できなかった。
俺は奴らを返り討ちにしてやった。それはいいんだが、俺も奴らに追われる身になった。
このころには俺も、ホークアイ、と言う異名をつけられていて、そこそこ有名になっていたからなあ。
それで、逃げる最中に聞いたわけだ。
「VENGEANCEだけでなく、ホークアイと言う厄介な敵まで」ってね。
それで思い出したわけだ。親父が唯一狩れなかった存在をね。
どうせなら、そいつを倒したい、と思ったんだな。俺はそうして、打倒VENGEANCEを目指すわけだ。
結果はまあ、知っての通り。
だが、あいつの強さ、ってのがなんなのか。俺にはわかる気がする。
あれの中には、強い念がある。『復讐』のな。
どれだけきれいごとを言っても、人には穢い面がある。
恐れ、憎しみ、怒り。それらがな。どんな善人も悪人も等しく、影を持つ。
あいつはそれを受け止めている。そして、それでも、人の善意を信じているんだろうな。
まあ、でも出会って少しの俺の言うことなんて、何の意味も説得力もないんだがな。
とはいえ、これからあいつがどんな道を進むのか、俺には興味がある。
あのヒュドラーとかいういけ好かない連中に対する恨みは相当あるらしいしな、楽しくなりそうだ。
さて、と。俺の話はこれで終わりだ。まあ、詰まらねえ話だったろ。
ま、ただで酒が飲めたんだから、別にいいだろう?
それじゃあ、話を聞いてくれてありがとよ。
ああ、あと。
ナイフを忍ばせるんだったら、もっとうまくやれよ。あと、殺気ダダ漏れ。
そんなんじゃあ、俺どころかVENGEANCEにも、刃は届かないぜ。
俺は優しいから殺さねえが、あいつはおっかねえからなあ。返り討ちだぜ、あんた。
それじゃあ、本当にサヨナラだ。二度と会うことはねえだろうが達者でな。




