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ホークアイの繰り出す蹴りをかわす私。合間合間に弓を構えて矢を放つホークアイ。

私は咄嗟に弓をずらし、狙いを外させる。

そんな私を弓で殴打し、ホークアイが距離を取ろうとする。

させるものか、と私は手裏剣を放つ。ホークアイは弓でそれを防ぎ、振り向きざま三本の矢を同時に放つ。

両手の武器を弾き、もう一本の矢が正確に私の頭部に迫る。

避けられない!私は覚悟を決める。

「ウソだろ」

ホークアイが呆然とつぶやく。自分でやっといて私もそう思う。

私は矢じりを口で受け止めていたからだ。唇が擦り切れて、血の味が口中に広がっている。だが、生きている。

「人間かよ」

ホークアイは呟いて弓を構える。

「次こそ、当てる」

「次はないわ」

私は跳びかかる。そろそろ、このワルツも終わらせよう。

私は全身に隠し持った武器を一つを残してすべて捨てる。子の一撃に、全てを賭ける。

ホークアイは私のその覚悟を感じ取ったのか、急いで弓矢を構え、狙いを絞る。

彼も、最後の一撃を放とうとしていた。

私は懐から取り出した一本のナイフを構える。

「あああああああああああああああああ」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお」

矢が私に向かって放たれる。至近距離の一撃を、私は恐れずに進む。矢はわずかに私の首をそれて虚空に消える。ホークアイの目が驚愕に見開かれる。

私のナイフが、彼の目の前で静止する。


「チェックメイト」

そう言うと、ホークアイは静かに笑いだす。そして、新たに番えていた矢を手放し、弓を地に落とす。そして、どかりと地に尻をつく。

「まさか、最後の最後でしくじるとはね・・・・・・・俺もまだまだだね」

「そう悲観したものでもないわ」

私はそう言い、全身の傷を見せるように立つ。

「ここまで手こずらせたのだから」

「とはいえ、また、負けちまった」

ナイフを下ろし、腰を抜かしたホークアイに手を貸し、私は彼を立ち上がらせる。

「さて、それじゃあ約束のあんたの親父のことだが、はっきりしたことは俺も知らんのだよ」

そう前置きして、ホークアイは言う。

「俺も独自の情報網があってな、それでたまたま拾った程度でな」

「構わないわ」

私はそう言う。

「もとよりその覚悟よ」

そう簡単に、アンドラスは尻尾を出さないことは。

「・・・・・・・・・実はな、この国の王都で、近々パレードがあってな」

「・・・・・・・・・パレード?」

私はそれは初耳であった。

「ああ、その場にアンドラスたちが来るそうだ」

「なぜ?」

「そこで王子が出るらしいんだよ。永く表舞台に出てこなかった第一王子が。それで、その第一王子がまた噂によると、ずいぶんな正義感らしくてな、ヒュドラーについてもいろいろ探っているらしい」

「暗殺、ということね」

「ああ、現国王に対する警告も兼ねての、な。幸い今の王にはまだまだ王子たちがいる。厄介な第一王子を始末して、この国の王も支配できる。奴らにすれば、一挙両得、ってわけさ」

「・・・・・・・・アンドラス」

私は憤りを隠さずに、敵の名を言った。まだ、死を量産しなければ気が済まないのか。

「それで、あんたはどうする?」

「真実だろうとどうだろうと、奴らの影があるなら、私は行く」

それが、私の復讐だから。

「そうか、なるほど。あんたはやっぱり『VENGEANCE』なんだな」

そう言うと、ホークアイは私を見て笑う。

「気に入った。俺はお前の復讐を見届けてやろう」

「は?」

私は間抜けな声を出して、ホークアイを見る。彼は先ほどまで殺し合っていたとは思えぬ、あっけからんとした顔で私を見る。

「なぁに、別にお前を倒すことは諦めてはいないさ。だが、お前に勝つために近くでお前を見て、そのついでにお前の敵の一人二人もらうってわけだ。どうだ?」

ホークアイが笑ってウィンクした。私は呆れていった。

「あなた、馬鹿?」

「ははは、そうかもな」

ニヤリと笑うホークアイは、その右手を私に差し出す。

「ジェームズ・ドロワだ」

それは彼の本名なのだろう。彼は不敵な笑みを浮かべて私を見る。そんな青年の肩に、天空から鷹が舞い降りた。

「・・・・・・・・・ヴェンティよ」

「よろしく」

私が差し出した手を、ジェームズが握る。彼の手には、弓の修練でできた肉刺の跡が多くあった。

「ちなみにこいつは俺の相棒のツァールだ」

ツァール、と呼ばれたたかが静かに私を見る。

「ところで、あの犬っころ、どこに行った?」

あんたの犬だろ、とジェームズが言う。

私は今の今まで、サレナのことをすっかり忘れていた。


その後、少し不貞腐れたサレナを見つけ、私はジェームズを連れて屋敷へと戻った。





翌日。

屋敷の中に、サクヤの叫び声が響いた。

私がサクヤの叫びを聞き、食堂に行くと、そこには頬を赤くしたジェームズと、震えるサクヤがいた。寝間着姿の彼女は恥ずかしそうに私を見ると、言った。

「この人、誰!?」

気が動転して、私に抱きつく彼女。ジェームズは打たれた頬を撫でる。

「すごい歓迎だなぁ」

「この間見たでしょ、あの弓使いよ」

「それがどうして、ここにいるの!?」

「ちょっと、いろいろとね」

苦笑して私が言うと、ジェームズもうんうんと頷く。

「いろいろって何?まさか、浮気・・・・・・・・・?!」

「ちょ、サクヤ・・・・・・・・?」

何を言い出すんだ、この娘は、と思い、弁解するためにジェームズを見るが、ジェームズは私とサクヤを見ると、うんうんと頷く。

「ああ、そう言う関係なのか。・・・・・・・・・ああ、うん。安心して。口説かないから」

「いやいや」

その反応はおかしいだろ、と思う私をしり目に、ジェームズは食堂から自分の分の食糧を取り、出ていこうとする。

「昨夜は俺のようで時間つぶさせたからなぁ、邪魔者は去るよ」

そう言い、扉を閉める際、ちらりとこちらを見る。

「・・・・・・・・ごゆっくり」

そうニヤリと笑い、ジェームズは去った。私は近場にあった串を投げつけるが、その頃には扉は閉まっていた。

「ねぇ、昨日の夜、なにしたのよ!」

サクヤが何か怒って私に詰め寄る。

「・・・・・・・・・・ホークアイ・・・・・・・・・・」

私は彼を恨めしく思い、サクヤの誤解と機嫌を取るために、笑顔を浮かべて話しかける。

・・・・・・・・どうやら、長丁場になりそうだ。

げんなりと私は口を開く。




遠くで、陽気な口笛と鷹の鳴き声が聞こえた。




それから数日後。

ローザが久々に屋敷に帰ってきた。

ローザは私と新たな住人のジェームズを見ると、手招きをする。

私とジェームズは顔を見合わせ、静かに後に続く。

サクヤに部屋で待ってて、と伝えると、彼女はサレナとツァールを連れて行った。

ホークアイの相棒も、サクヤに今では懐柔されていた。

「彼女、すげえな。ツァールをもう手なずけてる」

ジェームスは感心したように言う。

「あなた、二代目ホークアイね?」

ローザが歩きながら聞くと、彼は頷く。

「お目にかかれて光栄です、マダム・ヴェンジェンス。ジェームズ・ドロワです」

「お父様はお元気かしら?」

ローザはジェームズに聞く。

「ええ、あなたに奪われた右目以外は」

「それは悪いことをしたわ」

悪びれもせずに、ローザは言う。

「あなたのお父様、だいぶしつこい人で何度もリベンジを受けたの」

「おや、初耳です」

そう言ってジェームズは笑う。負けず嫌いの父らしい、と。

私は少し、その姿を羨ましく思う。少なくとも、彼には理解しあえる父親がいるのだから。

私は、アンドラスと分かり合えるとは、思えない。

「それで、なぜあなたがここに?」

「いやぁ、父のリベンジに、と彼女に」

そう言い私を指さす。

「挑戦したんですがね、負けまして」

「そう」

そっけなく返すローザだが、どこか嬉しそうな目で私を見る。

「よくやったわ、ヴェンティ」

「いやはやまったく。彼女には驚かされましたよ。ガキみたいななりで獣みたいで」

そう言って私を見る。

「で、どうしてここにいるのか、と言う答えをまだもらってないけれども?」

「なに、ここにいれば自分も狩人として一皮むけるかな、と」

不敵に笑うジェームズ。猛禽類のような雰囲気と目でローザに笑いかける。

それを見て、ローザはため息をつく。

「どうやら、お父様以上の執念を持っているようね」

「親子ですからねえ」

そう言ってジェームズは肩を竦める。




「なるほどね、王都で」

ジェームズの話を聞いて、ローザはそう呟き、脚を組む。ドレスから零れるように出る太腿につい、ジェームズの目が向く。それを見てローザが微笑むと、ばつが悪そうに顔をそらすジェームズ。

若い女性たちを魅了した狩人も、歴戦の復讐者にはたじたじのようだ。

「まぁ、私の集めた情報でも連中が王都方面に甲としている、と言うのは掴んでいるけれど。きな臭いわね」

ローザはそう言い、腕を組む。

「王都、か。遠いわね」

「そうだね」

ここから王都は一週間はかからないまでも、かなりの距離がある。

ラウシルンから馬車で乗り、何個かの街を経由する必要がある。金は大丈夫だろうが。

「・・・・・・・・・・・」

ローザは思案すると、立ち上がる。

「王都に行くわよ」

「私たちで?」

私が問うと、ローザは首を振る。

「いいえ、全員よ。屋敷もみんなね」

「え?」

私とジェームズが驚く。

「ここを放棄すんのかい?」

「いいえ、ここは信用できるものに管理してもらう」

そう言うと、ローザは私を見る。

「アンドラスの動きを掴むのは難しい。今回はかなり信憑性がある情報とみていい。一気に、奴らの尻尾を掴めるかもしれない。これくらいしなければな」

ローザはそう言う。そうだ、彼女もヒュドラーに奪われた人間なのだ。私と同じかそれ以上の怨みを持っている。気持ちは一緒なのだ。

「そうだね」

「面白くなってきたな」

ジェームズが笑う。

「アイリーンにも声をかけるとしましょう。・・・・・・・仲間外れにすると、あの娘、すねるから」

そう言い、ローザは文をしたため始める。

アイリーンって誰だ、というジェームズを放り、私はサクヤのもとに向かう。




「王都に?」

「ええ、仕事の関係で」

「私たち全員?」

「そう」

突然の知らせにサクヤは驚く。

「王都かぁ」

サクヤはそう呟き、うっとりとする。

「王都なら、さぞや珍しいものもあるでしょうね」

「そうだね」

そう言えば、そろそろ彼女の誕生日だったな、と私はふと思い出す。

「王都に行ったら、好きなもの一つ買ってあげるよ」

「もしかして」

「そ、誕生日プレゼント」

そう言うと、サクヤが私に抱きつく。

「ヴェンティ、ありがとう!!」

「いや、前のお返しだよ」

そう言う私を、彼女はふざけて寝台に押し倒す。私の身体をくすぐる彼女が私に馬乗りになり、両手で私の頬を触る。

「ヴェンティ」

「・・・・・・・・・・なに?」

「好きだよ」

「・・・・・・・・・・私も」

そして、彼女が目を閉じて唇を近づける。私もそれに答えるように顔を近づけた時。

突然、私たちの部屋の扉が開かれる。

「おーい、ツァールいるか・・・・・・・・・・・って、あ」

私とサクヤは侵入者を見る。冷や汗を流すジェームズがこちらを見て固まっている。

「お邪魔だった、みたいな・・・・・・・・・・・・・」

「出ていけ!!」

私は枕元から手裏剣を抜き出すと投げつける。ジェームズが慌てて回避すると、扉を閉めて、どたどたと走り去る。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

沈黙する私たち。朱い顔で互いの顔を見つめる。

「・・・・・・・・・・続き、する?」

「・・・・・・・・・・・」

私が聞くと、こくりと彼女は頷く。

私は彼女の身体を掴むと、自分の身体と位置を変える。そして、彼女にのしかかり、その唇を貪る。





数日後。

ローザが買った大きな荷馬車に荷物を詰め込み、私たちは王都に向けて出発する。

「少しさみしいね」

サクヤが言う。

「しばらくしたらまた戻るんだ。これで終わりじゃないよ」

私はそう言って、サクヤを慰める。そうだね、と彼女は頷く。

思えば、この屋敷には多くの思い出がある。これまでの人生の中でもかけがいのない思い出たちが。

決着をつけたら、再びここで笑って過ごそう。

私はそう思うと、馬車の中に乗り込む。サクヤに手を貸し、彼女とサレナを乗り込ませる。

アイリーンとローザが乗り込むと、御者台にいるジェームズが馬を走らせる。彼の上空でツァールが鳴いた。

いざ、王都へ。


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