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私は屋敷に帰った。帰ってきた私の右腕が力なくだらりとしているのを見て、サクヤは血相を変える。

ローザはあくまで冷静に私の腕の様子を見る。

「また、ずいぶんと酷い怪我をしたものね。しばらくまた安静よ?」

そう言って、ローザは私の目を覗き込む。

「何かあったのね」

「まあ、ね」

私は迷った。どういえばいいのかを。

だが、ローザは何も聞かなかった。

「いい辛いなら、別に無理に言わなくてもいいわ。・・・・・・・・・・お帰りなさい、ヴェンティ」

「・・・・・・・・・・・ただいま」

過去は過去でしかない。大切なのは、今、この時。そして、私が何でありたいか、ということなのだ。

サクヤが持ってきた医療箱をローザは受け取ると、私の腕を本格的に診始める。






「まったく、怪我ばかりして。少しは心配するこちらの気も察してください」

「まあまあ、そう言ってやるな。ヴェンティだって、好きで怪我してるんじゃないしな」

「それは、そうですけど」

サクヤが少し気まずそうにする。

「ごめん、サクヤ。心配してくれてありがとう」

私は少し笑って言うと、彼女は少し顔を赤くする。

「ベ、別に、私はそんなんじゃ・・・・・・・・・・」

そう言ってそそくさとどこかへと行く。

「まったく、素直じゃないなあ」

ローザがクスクスと笑う。ローザは指を口に当てると、ピュイと口笛を吹く。すると、開けっ放しになった扉からサレナが入ってくる。どうやら、治療のために外で待たせていたらしい。すぐに私に駆け寄ってくると、私にじゃれ付いてくる。

「ま、しばらくはサレナと遊んであげなさい。この前の怪我の時も、ほとんど休みらしい休みはしなかったろう?戦士にも休息は必要だ」

手をひらひらと振って、ローザは部屋から出ていく。

「そう言う自分は、ちゃんと休んでいるのか?」

私は小さくつぶやいた。私の声が、彼女に届きはしないだろうが。





夜の空を見上げた。満天の星空、というわけではないが、闇夜に浮かぶ星々の光は、言葉にできない何かを感じさせてくれる。

かつて、同じ空を見た仲間たち。幼き日の友人。一人はヒュドラーそのものになった。それ以外の者たちは、皆死んでしまった。

私は、生きている。生きて、生き続けよう。死んでいった彼らの分まで。

「ヴェンティ」

「サクヤ」

屋敷の前で寝そべる私のところにサクヤが来る。薄いネグリジェ姿だった。

私は横で転がるサレナの頭を撫でながら、半身を起す。

「どうかした?」

「いいえ、なんとなく、ね」

そう言って、サクヤは私の隣に腰を下ろす。

「綺麗ね」

「そうだね」

彼女の言葉に、私は同意の言葉を返す。沈黙が訪れる。だが、沈黙は不快ではなかった。

言葉はなくても、伝えられるものはある。

胸元のペンダントを見る。銀細工の竜と薔薇は、静かに光を湛えている。

「ああそうだ、サクヤ」

しばらくの沈黙を私は破る。

「なに、ヴェンティ」

「君の誕生日っていつ?」

私は彼女の美しい黒髪を左手で弄って聞く。くすぐったそうに顔を歪めた彼女は私を見た。

「・・・・・・・・・どうして聞くの?」

「お返し」

そう言って、ペンダントを指す。

「別にいいのに」

「私がしたいからするんだよ。だめ?」

「だめじゃ、ないけど」

そう言って、彼女はプイ、と顔をそむける。その様子がおかしくて、私は笑う。

「・・・・・・・・・・期待してる」

ポツリと誕生日を言って、彼女はそう言った。

「まかせて」

私はそう返した。

そうして、また沈黙が訪れる。二人で、空の光たちを見上げる。

いつか、離れていた手がくっついた。ひんやりとした、でも暖かい彼女の手。



独りじゃない。私は独りじゃない。

その手のぬくもりを感じながら、私は微睡みに落ちていく。

安心して眠れる。昔なら、寝るときとて、油断はできなかった。

「おやすみ、サクヤ」

また、明日・・・・・・・・・・・・・。

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