修学旅行 その③
修学旅行2日目。
午前中は奈良方面に向かう。
東大寺を見学した後、午後からは自由行動で京都のホテルまで戻ってくるという段取りだ。
当初の予定として奈良公園で鹿を愛でたあと、ひとりでのんびり電車で帰ってこようと思ってたんだけど……
昨日、藍川さんが言っていたこと、本当なのだろうか。
僕を騙してバカにしようとするとか、あまり想像できないんだけど
…やっぱり忘れたフリしてひとりで行動しようかな
『やっぱり忘れたフリしてひとりで行動しようかな』
「うわっ?!」
またマホだ!
イヤホンから聞こえてきた。僕の心を読んでいるのか?
『……なんて思ってないでしょうね?』
「お、おお思ってないよ!っていうか、ここ電車なんだから驚かさないでよ!」
何事だ、と白い目で見てくるクラスメイトや他の乗客たち。僕は何事もなかったかのように気配を無にした。
『ユッキーが勝手に驚いたんじゃん。迷惑と思うなら黙ってなさい』
何様なんだー!いつもいつも!
僕は怒鳴りたい気持ちをグッと抑える。
『藍川さんから自由行動のお誘い受けたんでしょ?良かったじゃん。まぁ、2人きりじゃないのが残念ではあるけど。どこに行くか女の子任せじゃダメよ?』
「本当にお誘いだったとしても僕なんか添え物だよ。空気は空気らしく黙っていればいいんだ」
僕は周りに聞こえないようなるべく声を押し殺して話した。
『面倒くさいなぁ。いいじゃん普通に楽しめば。ゲームの話でもしてりゃいいんだよ』
それって望月さん限定じゃないか!
ああ、どうしよう……昨日の話は気のせいだったってことにならないかな……
ヴヴヴッ
何だよ。マホのやつまだ何かあるんか?
と思ったら本物の方のスマホだった。
あ、藍川さん?!
【1時くらいに奈良公園で】
【よろしくね】
やっぱり気のせいじゃないじゃないかーい!
どどどどうしよう
初めてもらったクラスメイトからのLINE。
すごく嬉しいんだけど、ふ、複雑だ……
*
東大寺の大仏様をありがたく拝ませていただいて心を落ち着かせたあと、僕たちはクラスごとに集合していた。
さっき本堂で藍川さんを少しだけ見かけたけど、特に僕を気にかける様子もなかった。それは望月さんも同じで、いつも通りって感じだったけど、それがなぜか不安をより加速させていた。
目的はなんだ?
そもそも修学旅行にまで来てゲームの話なんかする?
ダメだ
頭の中がグルグルして考えがまとまらない。
「……っというわけだ。くれぐれも気をつけて、何かあればすぐに先生のケータイに連絡しろよ。じゃ、解散!」
はーい――
担任の合図でクラスメイトたちがゾロゾロと離散していく。
あ、わ、わわ
ぽっつーん……
あっという間にボッチの出来上がり
イヤホンからヒーヒー言いながら笑い転げているだろう声が聞こえてくる。ムカついた僕はイヤホンを外して歩き出した。
とりあえず昼食をとってから奈良公園にでも向かいますか。
せっかく奈良に来たんだ。
お昼はコンビニとかチェーン店のファミレスとかは避けたいな。
ポツリ、ポツリ……
雨だ。
天気予報では傘が必要とは言ってなかったはずなんだけど
僕の心情を写すかのように、弱い雨がパラパラと降り始めてしまった。
本格的な雨になる前に早くお店見つけなきゃ。
スマホで検索してみよう。
「う〜ん、迷うなぁ。美味しそうだけど、もっとリーズナブルなお店とか……」
「何ひとりでブツブツ言ってんのよ」
「ふぁっ?!」
か、佳奈ちゃん??!!
振り返ると、僕の幼馴染であり、友達を作れなくなった元凶、漆原 佳奈ちゃんが立っていた。
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