93.代弁の神、NEW武器で魔族撃破
焼き肉パーティをして、皆お腹いっぱいになった。
そのときだった。
ビシッ……!
と上空に転移門が出現した。
「おほほほ! マロは【ノゾミ・糸色】! ミコト・糸色の兄でおじゃるっ!」
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ノゾミ・糸色
【種族】魔族(公爵級)
【レベル】6000
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今度は糸色一族が報復に来たよ。
キエリュウのときと一緒で、ノゾミ・糸色は、ミコトの色違いみたいな、犬の魔族だ。
顔が柴犬だった。
麻呂眉してた。
魔族が現れたことで、女神像が発動する。
ごごごごご! と魔族が大きくなる。
「無駄でおじゃる! のびよ! 柄杓!」
ノゾミの持ってる柄杓が伸びる。
それは女神像をグルグルと締め付けると、そのままばきっ! とへし折った。
「おほほほ! どうじゃあ! まろの能力【如意棒】の威力はっ!」
なんというか、ツッコミがいのある敵がやってきた。
でも魔族撃退装置である、女神像を壊すくらいには、強いようだ。
「ミカ神どの。ここは……アタシがいく」
ルシエルが私の前に立つ。
「アタシは、最高神よりマーテオを任されたんだ。ここの守りはアタシの仕事! 見てて、ミカ神どの! アタシが……見事守ってみせる!」
と、そのときだった。
パァアア……! と空から一筋の光が降りてくる。
そして……ルシエルの目の前に、巨大な【武器】が現れた。
「こ、これは……!?」
ルシエルはその武器を見て、目をむく。
「どうやら眷属器が与えられたようですね!」
モリガンがしたり顔で説明する。
もうすっかり君解説係よな。
眷属器。
眷属神に与えられる、特別な武器のことだ。
リシアちゃんの全知全能の書、どら子の全知全能の爪と同じ。
「でもルシエルは眷属神じゃあないよ? なんで眷属器が与えられてるの?」
「最高神が寵愛を与えたときにも、眷属器は下級神に下賜されるのです」
はえー……そうなんだ。
神のことは何も知らないし、調べる気にもならない(興味ないので)から、モリガンから教えてもらえて助かった。
「ああ……! わたくし、ミカのためになることを……してる! ミカが喜んでいるのを全身で感じますぅうう!」
……変態はおいといて。
で、ルシエルに与えられた眷属器……。
「その名もズバリ!【全知全能の剣】! です!」
全知全能の剣……か。かっこいい名前だ。
……しかしである。
「ちょっとぉ! ミカ神どのぉ!?」
ルシエルが、全知全能の剣を掴んで叫ぶ。
「これ! どう見ても【ハリセン】なんですけどぉおおおおおおおおお!?」
彼女が握ってる全知全能の剣……。
それは、紛れもなく、巨大なハリセンだった。
真っ白で大きな紙を折りたたんで作られた、ハリセン。
それが全知全能の剣。
「ふざけてるのでおじゃるか貴様!?」
と、ノゾミにツッコまれる始末。
代弁の神ルシエルは黙っていられなかったようで、びきっ、と額に血管が浮かぶ。
「ふざけてるのはてめえだろうが!」
ばしゅっ! と、早速神スキル、禊ぎ祓いが発動する。
相手を弱体化させるスキルだ。
「それはミコトから、遺言で聞いてるのでおじゃる!」
遺言なんて残してたんだあいつ……。
「短期決戦でいくでおじゃる! 伸びろ! 柄杓ぅ!」
ノゾミが能力【如意棒】を発動させる。
ぎゅんっ! と高速で柄杓が伸び、ルシエルに襲いかかる。
ルシエルは「ええい、こうなりゃやけだ! やってやる……!」とハリセン……もとい、全知全能の剣を握る。
「能力名が如意棒なのに! 伸びてるのが柄杓なんて! 紛らわしいんだよっ!」
ばしぃいん! とルシエルがハリセンで、柄杓を叩く。
パキィイン!
「ま、マロの柄杓が元の長さに戻った!? これは……能力が解除されてる!?」
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全知全能の剣
→代弁の神ルシエルの眷属器。
人以外にも、【禊ぎ祓い】を使用可能
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禊ぎ祓いは、ルシエルの神固有スキル。
相手を弱体化させ、味方を強化する。
「今までルシエルは、人に対してのみスキルが発動できた。しかし全知全能の剣を装備すると、武器や能力に対して弱体化させられるようですね」
武器や能力の弱体化。
能力の場合だと、弱体化しすぎた結果、ああいうふうに能力キャンセルができるようだ。
「す、すごい……! 見た目はアレだけど、とんでもない武器だ……! ありがとう、ミカ神どの!」
ルシエルから感謝されてしまった。
なんか申し訳ない……。
もうちょっとさぁ、かっこいい武器をさ、与えてやって欲しかったよ。
眷属器の選定基準知らないけどさっ。
「くそぉお! これは何かの間違いだ……! 死ねぇええええええええ!」
柄杓が伸び、それは無数に分裂し、ルシエルに襲いかかる。
ルシエルはハリセンを構えて、振る。
「語尾忘れてるぞおまえ! キャラ作りが雑なんだよ……!」
ばしぃい! とルシエルがツッコみ、もとい、禊ぎ祓いをする。
結果、能力がキャンセルされる。
「おまえたち! アタシに続け!」
ルシエルが味方に向かってそう叫ぶ。
禊ぎ祓いが味方に発動し、ハーフエルフたちの体に、闘気がまとう。
「なっ!? は、ハーフエルフごときが、闘気を使えるだと!? ありえん!」
だっ! とルシエルが先陣切ってツッコみ、全知全能の剣を翻す。
「だからキャラ付けが雑なんだよぉ!」
ばしいん! とルシエルが直接、ノゾミに対して禊ぎ祓いする。
しゅうう……とノゾミの体にまとっていた、闘気がキャンセルされた。
それどころか、レベルもかなり下がっている。
「代弁の神ルシエルにつづけ!」「代弁の神が道を切り開いたぞ!」「代弁の努力を無駄にするなぁ……!」
代弁を連呼するハーフエルフ達。
「だ、大便の神だとぉ!? なんと不浄な……!」
びきぃい! とルシエルの額に血管が浮かぶ。
「文句言うなら、紛らわしい名前を付けた、そこの最高神に言えやぁああああああああああああああ!」
ばしぃいいいん! と全知全能の剣が再び翻る。
うん……ごめん。私じゃあないんだ、名前付けたの……。
紛らわしいよね、ごめんね……。
「ノゾミがあんなに小さくなった……!」
「あれならおれたちでも勝てるぞ……!」
ハーフエルフたちが杖(※ナイフ)を取り出し、切っ先をノゾミに向ける。
「「「魔殺呪文!」」」
「相変わらずだっさい名前の魔法……!」
ルシエルが禊ぎ祓いすることで、ハーフエルフたちの魔法が最大限、強化される。
放たれる、無数の魔族を殺す魔法。
ドドドドドドドドド……!
神の力で強化された魔法は、ノゾミの体を穴だらけにする。
「ば、かな……たかが……はーふえるふ……ごときに……まぞく……しかも、公爵級が、まける……なんて……」
ボロボロ……とノゾミの体が崩れていく。
「すまぬ……ミコト……おぬしとの……やくそく……まもれそうに……ない。そう……あの日、まろたちは約束を……」
「いや、雑魚敵の回想とか、どーでもいいから」
ルシエルが禊ぎ祓いをいれると、完全にノゾミは消滅した。
あーあ……。
「惨い……!」「ひゃっほー! おれらのリーダーはさすがだぜ!」「敵に情けなんてかけなくていいよなぁ!?」
モブエール達が歓声を上げてる。
うん、よしよし。
「これで、安心してマーテオを任せられるね」
もし魔族が出てきても、代弁の神ルシエルがいれば、ハーフエルフたちと対処してくれるだろう。
「さすがですね、ミカ……!」
……モリガンがまたさすってきた。
「公爵級魔族を倒せるほどに、部下を強化してみせるなんて! やっぱりミカはすごいですっ!」
私は黙っといた。
なぜって?
全知全能の剣を持った代弁の神が、モリガンの頭をはたく。
「こんなとこで油売ってないで、さっさと天界に帰れ! 仕事どうした仕事!?」
「う、うう~……ミカぁ……すみません……かえりますぅう……」
どうやら仕事に帰る時間なのに、残っていたようだ。
モリガンはしぶしぶと、天界へと帰っていく。
私はルシエルの肩に、ぽん……と手を置いた。
「ありがとう、これからも、よろしくね代弁の神」
ぐっ、と親指を立てる。
ルシエルは「できれば称号変えて欲しいんだけど……」とクレームを入れるのだった。
やっぱり、代弁の神だと、紛らわしいもんね……ごめん……。
ちなみに、《眷属になろう》で称号を変えようとしたら、却下された。解せぬ。




