69.古竜を圧倒する領民、を圧倒する魔族、を圧倒する神
領民強化キャンプを、コアのダンジョンで実施してる。
私は入り口にキャンプ椅子を置いて、ひなたぼっこもとい、監督役をやっていた……そのときだった。
「…………!」ぐいぐいっ。
「お、君は木ノ葉丸君」
野菜眷属の一人で、ちょっと前まで、影武者やってもらっていた子だ。
木ノ葉丸君が焦ったように、私の足を引っ張っている。
何か急ぎの用事があるから、こうして呼びに来たんだろう。
「いこう、案内してくれる?」
木ノ葉丸君が私の肩に乗って、びしっ、と村の向こうを指さす。
「リシアちゃん、後のことよろしくね。私ちょっと出てくるから」
「え? ミカお母様っ?」
私はマーリンを■から『呼びましたっ!? ミカ様っ!?』……呼ぼうとしたんだが、フェルマァが出てきた。
どんだけ出たがりなんだ……。
「乗っけて」
『御意!!!!!!!!』
フェルマァは私を乗せると、空を駆ける。
木ノ葉丸君に場所を教えて貰って、そこへ行くと……。
「なにあれ? デカい……竜?」
アベールの街の南側。
少し離れた場所に、デカい竜がいた。
そして、竜の足下には……。
「! リタ!」
リタをはじめとした、黄昏の竜たちが、倒れていた。
一人立っているのは、魔法使いにして、元吸血鬼のエルメスだけ。
そのエルメスもボロボロで、肩で息をしてる。
『くわははははは! 人間ごときが、この飛竜王さまにかなうわけないのだぁ……!』
~~~~~~
飛竜王
【種族】古竜
【レベル】500
~~~~~~
私にとっては雑魚。
しかし、黄昏の竜たちのレベルは、異世界ご飯を食べても300くらい。
勝てないのは道理だった。
飛竜王は飛竜をさらに大きくしたような見た目だ。
大きさは50メートルくらいある。
かなり、デカい。灰色の硬そうな鱗をしていた。
『我が蒼い炎に焼かれて死ぬが良い!』
飛竜王が口から蒼い炎を出す。
リタ達を狙っていいる。そうはさせるか。
「【完全削除】」
私はスマホのカメラで飛竜王を撮影する。
全知全能の派生スキル、完全削除。
カメラに写した物体(のデータ)を完全に削除する。
飛竜王の放った蒼い炎がぱっ……! と消滅した。
『なっ!? 我が最強最高火力の炎を、消しただと!? だれだぁ!?』
フェルマァが地上へと降りる。
『この御方をどなたと心得る! この世界に君臨せし最高の神! ナガノミカ様であらせるぞ! 頭が高い! 控えおろぉ!!』
時代劇ごっこやってる駄犬をよそに、私は倒れてるリタたちを見やる。
……彼女たちの肌が焼け焦げていた。
肉が炭化してる。
とにかく治療が最優先。
■から万物の素となる青龍の水をとりだし、彼女たちにかけた。
「遅くなってごめんね」
「あなた様が謝る必要はありません! 我らが……不甲斐ないばかりに……!」
リタたちが悔しそうにしてる。
一方、エルメスが敵をにらみつけながらいう。
「こっちは決して弱くなかった。ただ……相手が強すぎたわ。レベル500って……」
「そうだね。300程度の君たちじゃ、太刀打ちできなくても当然か」
エルメスが「はぁ……?」と首をかしげながら言う。
「何言ってるの……? 300程度って。あのねぇ。レベルは三桁いったら……」
と、そのときだった。
「「「ミカりん様ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」」」
どどどどど、とアベールの街から、私が鍛えて上げた50人の領民達が、鬼の形相でかけつけてきたのだ。
「皆……」
リシアちゃんはだぐ子にお姫様だっこされながら、飛んでいる(だぐ子は羽衣をまとうと空を飛べる)。
「皆さん! あれは敵です! 今こそ、お母様に鍛えて貰った力! 存分に振る舞うのです!」
「「「おー!」」」
まず……ウシカじいちゃんが前に出る。
「ふぅううん!」
じいちゃんは元々マッチョだったけど、さらに一回りでっかくなっていた。
その手には農業用のフォークが握られていた。
「一番槍はこのわしじゃあ! ふぅううううううんぬらば!」
ウシカじいちゃんが手に持っていたフォークを、思い切り飛竜王にぶん投げる。
『ふんっ。人間の農具ごときに、この飛竜王の硬い鱗を傷つけることなど絶対不可能……』
ザシュッ……!
『うげぁあああああああああああああああああ!』
「なんですってぇええええええええ!?」
飛竜王の右肩が、えぐれたのだ。
飛んでいた飛竜王は右肩を負傷して、地面に落ちる。
「ええええ!? こ、古竜の体に傷を付けた!? ど、どうなってるのよ!?」
エルメスが驚いてる。
でも、私にとっては何も驚くことはない。
「え、だって、ウシカじいちゃんのレベルも500だしさ」
「はぁアアアア!? ご、500ですって!?」
何そんなに驚いてるんだろう……(←レベル∞)?
「トカゲのやつが落ちたぞ! 皆、かかれぇい!」
ばっ! とじいちゃんばあちゃん、そして子ども達が、一斉に飛竜王に群がる。
「まずはアタシがいくよぉ!」
昔は掃除屋をやっていたらしい、お掃除ばあちゃんことスイーパばあちゃん。
その手には小太刀(伝説のアイテム)が、握られている。
「きょえええええええええええええい!」
ずばばっ!
「なっ!? ひ、飛竜王の巨大な翼を、ナイフ一振りで、両方そぎ落としたですってぇ!?」
「な、なんて速い動きでごじゃる! あれはまさに……暗殺者の動き!」
え、暗殺者……?
いやいや。スイーパばあちゃんはただのお掃除ばあちゃん……だって昔掃除屋だって言っていたし……。
「これでやつは飛んで逃げられないぞ! たたみかけるのじゃああ!」
「「「「うぉおおおおおお!」」」」
ウシカじいちゃんが先頭に立ち、鍛えられた領民達が、飛竜王をボコボコにしていた……。
「ちょっ、ミカ!?」
エルメスが立ち上がって、私の肩を掴んで揺らす。
「なにあれ!? ただの領民が、レベル500の飛竜王を圧倒してるんですけど!?」
「いやぁ、ちょっと強くしすぎちゃったらしくてさ」
「強くした……!? あんたなにしたの!?」
「その人の適性を見抜いて、伝説の武器を装備させて、英霊に戦闘指南してもらって、あとはダンジョンを周回させたくらいだけど……」
「ちょっとってレベルの強化じゃないわよぉおおお!」
あっという間に、領民達が飛竜王を討伐してしまった。
エルメスが膝をついていた。
「あ、アタシたち……Sランク冒険者でも歯が立たなかった、飛竜王を、あっという間に倒すなんて……」
どうやらプライドを傷つけてしまったようだ。
と、そのときだった。
「何を遊んでいるのだ、飛竜王」
空に、穴が空いたのだ。
あれは……転移門?
転移門から出てきたのは、小さな竜だ。
ぱっと見人間。二本足で立ってるし。どっちかって言うと、漫画とかで出てくるリザードマンに似てる……。
ずんっ! と肩に、何か重い物が乗ったように、領民達がその場に跪く。
「な、なんじゃあ」「このプレッシャーは!?」「トンデモナイ力の波動!」
プレッシャー?
力の波動?
全然感じませんが……?
「どうやら、貴様らが我のペットをいじめてくれたようだな」
「なっ!? あの恐ろしい飛竜王を、ペットですってぇ!?」
恐ろしい?
そうだったかな?
「その魔力量……あんた……ま、まさか……! 魔族!?」
エルメスが叫ぶと、領民のじいちゃんばあちゃんたちが、青い顔をする。
~~~~~~
魔族
→膨大な魔力量と、闘気操作技術を持った、上位種族。
おのおの固有の能力を持つ
~~~~~~
「バカな!? 魔族だと!?」
「魔族はカバンの悪魔によって、異次元に追放されたはずじゃ!?」
カバンの悪魔って何……?
「カバンの悪魔も神眼の大悪魔もいなくなった今! 人間界に再び攻め入る好機! その先兵として、飛竜王を送り込んだのだよ……!」
「「「なんだとぉお!?」」」
じいちゃんばあちゃんたちが驚愕してる。
あー……なんか話ついてけない。
とりあえず、あんまり人間に友好的じゃないかんじかな、この人……?
「ひいぃ!」「なんと恐ろしい!」「もうおしまいだぁ……!」
「あのー」
領民達が怯える一方で、私は魔族に近づく。
「ん? なんだ貴様……?」
『この領地の守護神です!』
がるるるるる! とフェルマァが魔族を威嚇する。
だが相手はまるで怯えてる様子がない。
レベル2000もある相手を見ても、だ。相当やるらしい。
「守護神? そこの女が?」
「ええまあ」
「どれ……鑑定してやろう。ふっ、どうせたいしたことなオロロロロロロロロロ!」
魔族が膝をついて、リバースしだしたのだ。
「ひいぃ! なんと恐ろしい! もうおしまいだぁ……!」
打って変わって、魔族がなんか怯えだしたんですが……。
「なんてデカい存在の力! ここ、こんなのかないっこないぃいいいい! ふぇええええええええん!」
……なんかさっきまで大物感出していた魔族が、急に子供みたいにびびり散らかしてる。
「すげえ!」「さすがミカ様!」「魔族を怯えさせてしまうなんて!」「デッドエンドの守護神じゃあ!」




