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58.リシアを養子にして、眷属神へ進化させる



 薬草と水の確保ができた。

 これでいつ錬金術師が来ても大丈夫。


「ん~疲れたぁ。リシアちゃん、ちょっと帰って休んでもいい?」


 ちら、と私はリシアちゃんを見やる。


「……帰って、しまわれるんですね」


 リシアちゃんが俯きながらつぶやく。


「うん。あー……デッドエンドの、あの小屋にね」


 山に帰るなんて言ったら、私が神だってバレてしまう。

 

「何か用事があったらすぐ言ってね。じゃ……」


 私がきびすを返し、デッドエンドの小屋に帰ろうとする。

 いったん影武者の木ノ葉丸くんとバトンタッチして……。


「まってくださいっ!」


 きゅっ、とリシアちゃんが私の腕にしがみつく。


「? どうしたの?」

「とても身勝手なお願いで、大変……恐縮なのですが……帰らないで、ほしい、です。ずっと……側にいてほしいです」


「えっと……?」

「……あの、これは、わたしの、その……勝手な妄想なのですが、普段のミカりん様は、もしかして」


 ! この子まさか……。

 私はリシアちゃんの口に手を置く。


「ちょっと、二人きりでお話ししよっか」

「…………」こくこく。


 ややあって。

 私はデッドエンドの小屋へとやってきた。


 音を遮断する魔法をかけ、小屋の鍵をしっかりとロックする。


「リシアちゃんの考えを聞かせて」


 ベッドに腰掛ける私。

 一方で、リシアちゃんが私の隣に座る。

 ぴったりとくっついてきた。 

 そして、考えを述べる。


「……普段のミカりん様は、もしかして……使い魔か何かで、今目の前にいるミカりん様とは、別の方なのではないでしょうか?」


「…………」

「そして、本体? であるミカりん様は、普段別の場所にいるのではないかって……すみません、変なこと言ってしまって」


 ……驚いた。

 この子、影武者と、本体(※私)を見分けていたようだ。


「そう思う根拠は?」

「……こっちのミカりん様のほうが、特別に、優しいから、です」


 曰く、影武者(木ノ葉丸君)は、事務的な対応しかしてくれないそうだ。

 依頼を受け、こなし、それでおしまい。


 こういう風に、二人きりで話したり、甘えさせてくれたりしないと。

 

 まだリシアちゃんの言ったことは、憶測の域を出ていない。

 物的証拠があるわけではない。だから、ここでとぼけるって選択肢もある。


 ……私が神ってことを、あんまり多くの人には教えたくない。

 情報が漏洩し、神である私の力を利用しようとする、悪い輩が来るかもしれない。


 ……でもなぁ。


「このことは、絶対に言いませんっ!」


 リシアちゃんが私に詰め寄って言う。


「ミカりん様が何かを隠してるってことは、絶対に誰にも言いません! 信じられないのでしたら……奴隷にしてくださってもかまいません!」


 奴隷って。確かに、奴隷になれば、主人に絶対服従。


 秘密を口外することはなくなるだろう。

 ……うん。


「こらっ」


 私はリシアちゃんの額を突く。


「あう……」

「奴隷になるなんて、軽々しく口にしないの」


「でも……ミカりん様の秘密を知ってしまった以上、奴隷になるしか……秘密を完璧に守れません」

「だとしても、君を奴隷になんてできないよ」


「どうしてですか?」

「簡単だよ。私、リシアちゃんのこと、好きだもん」


 親が死んで、五歳で領主にならないといけなかった。

 必死になって、領地と領民を守ろうとしていた。


 そんな頑張り屋さんで、真面目なリシアちゃんのことを、私はいたく気に入っていたのだ。


「そんな風にいってくださって……うれしいです……」


 ぐすぐす、とリシアちゃんが鼻をすする。


 さて、どうしよう。

 心情的に、私はこの子を奴隷にはできない。


 また、人間を眷属にすることは、できない。

 前に聞いたのだ、人間は最高神が生み出した被造物だから、上級神わたしでは人間を眷属にできないって。


 ならば、どうするか?


「リシアちゃん。提案があるんだけど……私の娘にならない?」

「ミカりん様の……娘?」


「うん。つまり、養子縁組を結ばないかって提案」


 この世界でも養子という制度は存在する。

 書類をお国に提出すれば、いい。


「確かに他人は信用できない。でも家族……身内になるなら、信用できる。どうかな……って、リシアちゃん!?」


 彼女は目から大量の涙を流していたっ。


「どうしたのっ? そんなにいやだった?」

「違うんです……とても、とても……うれしくって……」


「うれしい?」

「わたし……お母さんとお父さん、死んじゃって……ひとりぼっちで……すごくさみしかったんです……」


 ……この子はまだ五歳、親に甘えたい時期に決まっている。


 でもリシアちゃんには親がいない。

 甘えたくても、その相手がいない。

 それで腐るのではなくて、頑張って領主やってるんだから、たいしたもんだよ。


 今まで、本当に頑張ってきたよ、この子は。

 ……うん、よし!


「これからは、私があなたのお母さんになる! だから……いっぱい甘えていいんだよっ」

「! み、ミカりん様……」


「そんな他人行儀じゃあなくていいんだよ」

「じゃ、じゃあ……み、ミカお母様……」


 お母様……か。

 うん、いいかも。


「じゃあ、養子縁組の書類作るから、サインしてくれる?」

「はいっ!」


 スマホの、文書作成アプリ(神アプリではない)を立ち上げる。

 全知全能インターネットで、養子縁組の書類の書式を調べて、打ち込む。


 あとは家に帰ったら、それを印刷して、国に提出すればいい。


「じゃ、リシアちゃん。サイン……あー……どうしよう。私の言うとおり、このボタン押してくれる?」

「はいっ」


 私が指示して、リシアちゃんが自分の名前をスマホに打ち込む。

 打ち込み終わった……そのときだった。


 ゴオォオオオオオオオオ!


「ミカお母様っ。どうしましょうっ、体がなんだか光ってます! それに……力があふれて……ああっ!」


 リシアちゃんの体が七色に光り輝く。

 すぐに光は収まる。


 そして……目の前に一冊の本が出現し、リシアちゃんの手に収まった。


「なに、その本……? そもそも、何が起きたの……?」


 ぴょこっ、と影武者の木ノ葉丸君がやってくる。

 どうやら異常を感じ取って、隠れていたベッドの下から出てきたようだ。


「わ! ミカお母様っ。顔が葉っぱの、小さなお人形がいますっ」

「え? リシアちゃん……この子が見えるの?」


 木ノ葉丸君は、野菜眷属の一人。

 低位眷属を、一般人は見ることができないはず……。


 ま、まさか……


~~~~~~

リシア・D・C・ナガノ

【種族】ナガノミカの眷属神

【レベル】9999

【眷属器】全知全能の書(ミネルヴァ)

~~~~~~


 リシアちゃんのステータスを、全知全能インターネットを使って閲覧した。


 け、眷属神っ!

 どういうことっ?


~~~~~~

眷属神

→主となる神に付属し、仕える、小神のこと。

~~~~~~


 眷属神ってつまり、眷属でもあり、神でも

 あるってことで……。

 

 私、リシアちゃんを神に進化させたってこと!?


 なんで、どうやって……?


~~~~~~

リシアが眷属神となった理由

→現人神・ナガノミカの子となったことで、神の力が子に付与された

~~~~~~


 なんてことだ、リシアちゃんを単に養子にしただけで……こんなとんでもないことになってしまうなんて……。


「どうしたのですか、ミカお母様?」

「えっと……ね。リシアちゃん。君ね……神様になっちゃったみたい」


「は……?」


 私は軽く事情を説明。

 実は神であること、そして、神の子(養子)となったことで、リシアちゃんもまた神になったと。


「ごめんっ。勝手に神にしちゃって……! すぐ戻す方法を……」


 するとリシアちゃんは首をぶんぶんと横に振る。


「戻さないでくださいっ」

「え、いいの?」


「はい。これはつまり……ミカお母様の、子どもになれたっていう、証じゃあないですか」

「え、あ、うーん……そういうこと、なのかな?」


「はい。わたしは、うれしいです。ミカお母様の娘になれたこと、ちゃんとその証も、こうして手には入って……とても、うれしいんですっ!」


 まあ、本人が良いって言うなら、いいかっ。

 これで隠し事もなくなったしね!


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