53.窮奇《きゅうき》を救出する
けが人の元へとやってきた。
帝都カーターの外壁の外に、救護テントが張ってあった。
床には大勢のけが人達が寝かされていた。
「いでえ……いでえよぉ……」
「げほげほ! 肺が苦しい……」
けがの種類は大きく二種類。
手足などの、四肢を失ってる人。
そして咳き込んでいる人。
「ポーションを配ろう。リシアちゃん、エルメス、手伝って」
■から大量のポーションの入った樽を取り出す。
コップでポーションを掬って、近くのけが人の側に座る。
「ちょっとしみるよ。我慢してね」
けが人の傷口(右腕を失ってる)に、ぱしゃっ、とポーションをかける。
「う、腕が生えたぁあああああああ!?」
ポーションは問題なく効いてそうだ。
「怪我が治った人はポーションを配るの手伝って! 人手がたりないんだっ」
「「「は、はい……!」」」
ポーションって、こういう風に治癒魔法が使えなくても、人が治せるから便利だ。
で、治しながら、ふと、私は違和感を覚える。
「なんかさ、変じゃあない?」
「変? 何がよ、ミカ?」
四肢欠損は、まあわかる。敵の攻撃が当たって腕とかが吹っ飛んだって。
「咳き込んでる人たちってさ、窮奇関係あるの?」
すると近くにいた、おじいさん兵士がこんなことを言う。
「窮奇は、病を処方する悪神と呼ばれております」
「病を処方する……?」
「窮奇がいるところには、必ず大きな流行病が発生しておりました。そこから、窮奇が病を流行らせているのだろうと」
なるほど……。
「病を処方って……具体的にどうやってるんだろう?」
「窮奇は鋭い針を持っております。それでぷすっと」
なんかしっくりこない……。
とまあ、考え事しながらも、無事、けが人&病人の治療は終わった。
「「「「ありがとうございました!」」」」
兵士達が私たちに頭を下げる。
さっきのおじいちゃん兵士が前に出てくる。
「お聞きかせ願いたい。あんな素晴らしいポーション、いったいどこで仕入れたのですか?」
リシアちゃんは帝国の商人を、自分の領地に招こうとしてる。
何か、領地にうま味がないと、商人は動かないだろう。
全知全能先生、出番です。
カンペを用意しながら、私は言う。
「デッドエンドでは綺麗な空気と水のおかげか、上質な薬草が取れます。この薬草はポーションの効能を底上げする、とのこと」
「「「なるほど……!」」」
カンペ(全知全能)の情報をただ読み上げただけなのだが。
「おれ、たくさん買っておこ!」
「おれもだ!」
よし、これでデッドエンドの薬草の噂が、帝国にも広がるだろう。
「……ねえ、ミカ」
こそっ、とエルメスが耳打ちしてくる。
「あのポーションって、あんたが作ったから、性能が凄いんじゃあないの?」
「いや、そんなことないみたいだよ」
全知全能の情報によると……。
本当に、デッドエンドの土地は、良質な薬草と、ポーションに適した清らかな水が取れるそうだ。
~~~~~~
デッドエンドの薬草と水が良質な理由
→現人神が、近くに住んでいるから。
ミカが周囲の空気と水を無自覚に浄化、その結果、麓の薬草と湧き水を良質なものに変えている。
~~~~~~
「結局あんたが凄いんじゃあないのよっ!」
いやーどうやら私、空気清浄機と浄水装置みたいだった……。
「それより……窮奇よね。どうにかしないと」
ほっとくと、また同じ風に、怪我や病気で苦しむ人が出てきてしまう。
私は全知全能で窮奇の場所を調べる。
……って、すぐ近くまで来てる?
「皆はテントの中で待機。エルメス、いくよ」
私とエルメスはテントの外に出る。
目の前に広がる草原。
そして、少し離れたところに森があって、その入り口に……一匹の獣が居た。
「ウォーーーーーーーーーーーーン!」
犬みたいな泣き声が草原に響き渡る。
窮奇を、まずはよく観察してみる。
一見すると、モップのように見えた。
白っぽい毛皮に覆われた、大きな体。
でもよく見ると毛皮っていうよりは、ヤマアラシみたいな、毛針? が全身から出ている。
顔も毛針で覆われてる。
でも、側頭部からは角が生えており、牛っぽさはある。
「ウォーーーーーーーン!」
ぶわっ、と毛針が逆立つ。
そして……バシュッ……! と無数の毛針がこっちに飛んできたのだ。
「そんなの食らうかっての! 結界魔法!」
エルメスが広範囲に結界を展開。
するっ……!
「な!? け、結界をすり抜けた来た!?」
無数の毛針が私たちに襲いかかる。
私はエルメスを押し倒し、覆い被さる。
ざくっ!
「み、ミカ!? あ、あたしを庇って……どうしよう……大けがを負わせちゃった……ごめん」
「平気だよ」
「ええええ!?」
私はエルメスからどく。
背中に針は一本も刺さっていない。足下、そして地面に針が突き刺さってる。
「何で無事なの!?」
「まあレベル∞ですので私」
どんな攻撃も効かないのである。
「す、すげえ!」
「おれらの手足を簡単に吹き飛ばす毛針を受けて無傷なんて!」
兵士達がテントから顔をのぞかせている。
窮奇は私たちだけを狙ったみたいだ。
テントの中の連中には、針が当たっていない……?
私は一本毛針を手に取る。
スマホでパシャリ。
「派生技能【ハッキング】」
全知全能を使って解析を行った。
やっぱり。
「わかった。窮奇は、悪い子じゃないみたい」
「なっ?! 何言ってるのよ!? あいつのせいでけが人と病人が出てるのよ!?」
私は針をエルメスに見せる。
「これ、ささると相手を肺病にする呪いがこめられてるの」
「呪い! じゃあ、やっぱり窮奇には、病を処方する力が」
「ないよ」
「はぁ!?」
「窮奇はただ針を飛ばしてるだけ。その針に、呪いが付与されてるってだけ」
「だから窮奇が呪いをかけて……あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
私はらちがあかなかったので、すたすたと窮奇に近づく。
「ウォオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」
窮奇からブワッ、と風が吹く。
無数の針がその風に乗って襲いかかる。
けど効かない。私はレベル∞だから。
やがて、窮奇の側までやってきた。
そして、言う。
「あなた……呪われてるわ」
■から聖灰を取り出す。
朱雀の炎を使って作られた、聖なる灰は、邪悪を払う力を持つ。
聖灰を窮奇に向かってぶっかける。
『ギヤァアアアアアアアアアア!!』
窮奇の体から黒いもやのようなものが出てきた。
やがてそれは人の形をとる。ボロ布をまとった骸骨のように見えた。
「! エルダーリッチーだわ!」
~~~~~~
・エルダーリッチー
→邪悪なる魔法使いが死後呪いに転じた姿。強力な呪いを使う
~~~~~~
「あのリッチーに窮奇がとりつかれていただけ。むしろ、窮奇はリッチーを追い払おうとしてくれてたのよ」
窮奇が病気を広めたって、伝承には書いてあったようだけど、私の解釈は違う。
窮奇がいたから病が流行ったんじゃあなくて、病が流行ってるところに窮奇がいって、治そうとしたのである。
「その毛針と風で、邪悪を倒そうとしてくれてたのよ」
「なるほど……そのうちに、逆に窮奇が呪われてしまったと」
『ふはは! よくぞ見抜いたな魔女よ!』
リッチーがしゃべり出す。
『このリッチー様の華麗なる策略を見破るとは、高位の魔女とみた! どれ、手合わせ願おう』
「【ターンアンデッド】」
死霊モンスターをあの世送りにする光魔法を使う。
『ふんぎゃぁああああああああああああああああああああ!』
リッチーは私の魔法で一発昇天した。
よわっ。
「す、すごい……エルダーリッチーを一撃で倒しちゃうなんて……」
「何驚いてるの? あんなの雑魚でしょ?」
「いや雑魚じゃあないから! SSランクの魔物だから!」
「討伐ランクとかよくわからないんだよねー」
レベルで言って欲しい。
「ウォーン……」
すりすり、と窮奇が私に頬ずりしてくる。
ちょっと湿った、ぞうきんみたいな肌触りと匂いがした。
「お風呂入ったほうがいいよ、君。うちくる?」
「ウォン!」
すりすりすり、と窮奇が頬ずりしていた。くるっぽいな。
私は帝国兵たちのもとへ行く。
で、事情を説明。
針を飛ばしていたのも、あのリッチーを倒そうとしていたから。
まあ、誤射で人を傷つけてしまっていたのは、良くないと思うけど。
「悪気はなかったみたいだし、許してあげてほしいな」
すると兵士達は私に跪く。
「命の恩人がそうおっしゃるなら!」
よかった許してもらえて。
「あの四凶が一角、窮奇を従えてしまうとは! 恐れ入りました!」
別に従えてないんだけどね。
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