45.王子が土下座してくるけどもう遅い
《主人公Side》
麒麟の赤ちゃんが拉致された。
母親麒麟が不憫だったので、赤ちゃんを助けることにした。
全知全能を使って居場所を調べ、大転移で現場へとやってきた。
場所はゲータ・ニィガ王国の辺境、カーター領。
森の入り口に、麒麟の赤ちゃんと、そして彼女を拉致したと思わしき存在……。
オロカニクソ=フォン=ゲータ・ニィガがいた。
名前通りの、愚かでクソな王太子だ。
他人の言葉を鵜呑みにし、私を追放し、さらに雪山に放置して殺そうとした。
そんなやつとの久方ぶりの再会。
本来なら、恨み言を言ったりとか、苛立ちを感じたりするものだろう。
……でも、不思議だ。
別に何も感じない。
それよりも私が向かったのは、泣いている、小さな麒麟のもと。
「こんにちは」
「ぴー……?」
麒麟の赤ちゃんが私を見上げて、首をかしげる。
「お、おい! 逃げろミカよ! そいつは凶悪なモンスターだぞ!」
~~~~~~
・奴隷の首輪
→隷属化の魔法が付与された首輪の魔道具。
首輪には呪いが付与されており、絶対に壊れない
~~~~~~
こんな魔道具を、小さな子どもに付けて、無理矢理従わせようとするなんて。
再会したばかりのときは、怒りを覚えなかったけど、気が変わった。
「■、オープン。おいで、フェルマァ、白猫」
空中に黒い箱が出現し、そこからフェルマァと白猫が出現する。
「ひいぃい! な、なんだこのバケモノぉ!?」
「フェルマァ。そこの王子がこっちの邪魔しないように見張ってて」
こくんっ、とフェルマァがうなずく。
『別に、殺してしまっても問題ありませんよね?』
「しゃ、しゃ、しゃべった!? その姿……ままま、まさかフェンリルぅ!?」
オロカニクソが声を恐怖で震わせる。
「殺す価値もないわ。邪魔しないようにして」
『御意』
さて、これでOKと。
私は麒麟の赤ちゃんに言う。
「その首輪、私が外してあげる。触っても良い?」
赤ちゃんは少し躊躇する。でも目を閉じて首を差し出す。良い子。
「む、無駄だぞミカ! その首輪には特別なまじないが駆けられている! ぜったに壊れない首輪だ!」
「白猫」
私の肩の上に座っていた、白虎の子ども白猫が、爪を振り上げる。
キンッ!
ぱかっ。
「なにいぃ!? 首輪が切断されただとぉお!?」
奴隷の首輪が地面に落ちる。
白虎の爪は万物を切り裂く。
こんな首輪、簡単に壊せるのだ。
麒麟の赤ちゃんは目をむいて、そしてぴょんぴょんっ、と飛び跳ねる。
「これでもう大丈夫よ。青嵐、おいで」
■から青嵐が出てくる。
「この子に治癒を。それと、けが人の治療よろしく。村人を含めて、全員の怪我を治して」
周りを見渡すと、地割れに巻き込まれたらしい、村人達がいた。
彼らは重傷を負っている。
麒麟ちゃんが地割れを起こしたせいだ。
まあ、もとはといえば、そこのオロカニクソが麒麟ちゃんいじめたのが原因だけども。
青嵐はうなずき、空を舞う。
巨大な水球が出現する。
水の球ははじけると、周囲に水しぶきが舞う。
青龍の水は万物の素。
無加工でも完全回復薬程度の回復力を持つ。
「おお! 痛みが引いていく……!」
「折れた骨が治った!?」
村人……と、ついでに王太子の取り巻きどもも、無事快復したようだ。
「あとは壊れた大地と村の修復ね。サツマ君、よろしく」
■から出現したさつまくんが、背負っていた神鎚ミョルニルを、かつんっ! と地面にたたきつける。
瞬間、壊れていた大地と、建物が、一瞬にして再生する。
これでけが人、壊れた物、修復完了。
麒麟の子どもも救出できたし、全て問題解決っと。
「うそ……なによこれぇ……?」
「ああ、こごみじゃない。居たんだ?」
私を追い出した元凶が目の前にいるっていうのに、別に何の感情もわいてこない。
オロカニクソにしてもそうだ。
私のこいつらに抱く感情は……無関心。
もう、関わりたくない。
その気持ちしかなかった。
「さ、麒麟ちゃん。帰ろう。お母さんが待ってるよ」
「ぴ~!?」
マジ? とでも言いたげだ。
「うん、私んちで待ってる」
母麒麟は眷属じゃないから、■で召還できないけど。
「かえろ?」
「ぴっ!」
すりすり、と麒麟の子どもが私の体に頬ずりしてくる。
「ま、ま、待ってくれ! ミカぁ……!」
オロカニクソが私に近づこうとする。
だが、フェルマァがやつの前に立ち塞がる。
『偉大なるミカさまに、触れるな! 下郎!』
「うわぁあああああああああああああ!」
オロカニクソはぶっ飛ばされて、森の木に頭をぶつける。
「な、なんという強力な風の魔法……伝説の魔獣フェンリルの魔法が、これほど強力とは!」
『ふんっ! 何を馬鹿なことを。これは……わたくしの息です』
「なっ!? ただの息で、この威力だと!?」
王太子が私を見ながらいう。
「フェンリルだけでなく、聖なる獣を従え……奇跡の技を披露する。ミカ……やはり、あなたのほうがが本物の聖女だったのだなっ! そこのゴミではなく!」
それを聞いたこごみが、「はっ!? なぁ!?」とキレる。
「ちょっ!? ゴミってなによぉ!?」
「貴様のことに決まってるだろうが! 無能のゴミ聖女が!」
「ひっどい! なんて言い草!」
「黙れ! 貴様なんぞ、ミカの足下にも及ばん! このド低脳がぁ!」
醜く言い争っている。
ほんと、お似合いカップルだこと。
「じゃ、私はこれで」
フェルマァが私の隣にやってくる。
神獣たちを連れて、転移しようとする。
「待ってくれぇぇえええええええ!」
オロカニクソ王太子が泣きながら私の前にやってくる。
「頼む! 今、君の力が必要なのだ! ミカ! 戻ってきてくれ! この通り!」
「普通にいやですけど」
自分が何をしたのか、もしかしてすっかり忘れてるの……?
「君を偽物と言った件については謝る!」
「いや別に謝らなくて良いです」
「じゃあ戻ってきてくれるか!?」
「ありえません」
「どうして!?」
「自分が何をしたのか思い出してください。私を追放、そして……雪山に捨てたじゃあないですか」
「あ……」
「それ、普通に殺人未遂ですから。死にかけましたからこっちは」
「あ、あれは……その……」
「そんな風に酷いことしてきたあなたのもとに、帰るなんてありえませんので」
きっぱりお断りする私。
だがオロカニクソはまだ諦めない。
「き、君を殺そうとしたのは、その……ぶ、部下が! 部下が勝手にやったことだ!」
……他人に責任をなすりつける、か。
本当にどうしようもないやつだこと。
「部下の無礼、そして君に行った数々の非礼は謝罪する! すまなかった! この通り!」
オロカニクソは土下座をする。
まあ……それを見ても、別になんとも。
神になったから?
特にこいつに対してなんとも思わなくなった。
「お願いだ、戻ってきてくれ! 今……この国は大変な事態に置かれてるんだ! そこのゴミ聖女のせいで、魔物に町や村が襲われてる!」
またもオロカニクソが頭を下げる。
「この国の民達のため、どうか! 力を……」
「お断りします」
「ど、どうして!? 国民が苦しんでいるのだぞ!?」
「だって、私、この国を追放されましたし」
「あ……あぁ!」
さぁ……とオロカニクソの顔から血の気が引いていく。
「私じゃなくて、こごみに頼ったら? 聖女スキルがない訳じゃあないんでしょ?」
「しかし無能なのです!」
「あんたもでしょ?」
「ぐうう……」
何も言えず、黙りこくってしまった。
やれやれ……。
「とにかく、私はあんたらを助けるつもりはないから。自分たちのことは自分たちでなんとかしてください」
そのときだった。
『クオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
「!? ぴー!」
空を、1匹の美しい麒麟が駆けてきた。
子どもが空を見上げて、ぴょんぴょんぴょんっ! と飛び跳ねる。
「あらま、待っててっていったのに。待ちきれなかったのかな?」
『クォオン!』
母麒麟が降りてきて、子どもの元へ駆け寄る。
何度も、何度も、愛おしそうに顔を舐める。
「良かったね」
『くぉん!』
母麒麟は私に頭を何度も下げる。
「良いって良いって」
『…………クォン』
母・麒麟が、オロカニクソをにらみつける。
あー……うん。言葉わからなくても、わかるわ。
「じゃ、私はこれで帰るから」
「ままま、待ってくれ! 頼む! さっきのように助けてくれ!」
「さっき助けたのは、子麒麟ちゃんが暴走して、迷惑をかけたから。でも……この母麒麟の怒りは、あんたの愚行が招いた結果でしょう? 助ける必要がどこにあるの?」
私は子麒麟ちゃんを抱き寄せ、他のもふもふたちとともに転移する。
『クォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
「ひぎやぁあああああああああああああああああああああ!」
……愚か者の悲鳴が、夜空に響き渡るのだった。
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