34.転移門を作る
あくるひ。
今日のお昼ご飯はバーベキューだった。
料理長キャロちゃんが作ってくれた、美味しい串を食べた。
「ばう~……」「わう~……」「にー……」『ぴゅい……もーたべれなーい……』
魔物の子どもらの食欲を、見誤っていた。
どうやらかなり食べ盛りらしく、ものすごい勢いで、大量のお肉を食べていた。
子フェンリルは大型犬になってるし、四神の子供達もけっこー食べる。
「お腹ぷくぷくね君ら」
仰向けに寝てるふぇる太のお腹を触る。
もふもふぷにぷにだった。
「わふん……♡」
私にお腹を見せてくるふぇる太。
私はわしゃわしゃしながら、からになったお皿を見る。
お皿の量も半端じゃあない。
「ごめんなさい、ミカさま」
フェルマァ(人間姿)が申し訳なさそうに肩をすぼめている。
「この子達遠慮が無くって……」
「ばう?」「わう?」
遠慮ってなぁに、とばかりにふぇる太&ふぇる子が首をかしげる。
一方でふぇる美はペコと頭を下げる。この子も体は小さいけど、ふぇる太たち同様に食べるんだよね。
「今は食べ盛りじゃからのぅ」
空いた皿を片付けながら、ペットシッターふぶきが言う。
「少しは遠慮なさいと言ってるのですが、ミカさまのお出しになるお料理が、どれも最高に美味しいらしくて、ついつい食べ過ぎてしまうようです」
「フェルマァ、おぬしもそうじゃろう? まあわしもじゃがな。もう主の飯なしで生きられぬ体になってしもーたわ」
まあ、もふたちが美味しそうに食べている姿は、見ていて癒やされるので、別に気にしてはいない。
「いいっていいって。でも……そうね。食費がね~……」
眷属が増えて食費がさらにかかるようになった。
KAmizonで食材を買うのには神ポイントがかかる。
現状、ポイントを稼ぐ方法は魔物を狩ることだけ。
最近食事で消費するポイントと、狩りで貯めるポイントがトントンくらいなのだ。
「日増しにこの子供らの食欲も増していくし、このままでは消費ポイント数のほうが多くなるやもしれぬの」
「ま、そのときは、そんとき考えよ。だからそんな顔しないの」
よしよし、と落ち込んでるフェルマァの頭を撫でる。
魔物の子供達はなんだなんだ? と集まってきた。
フェルマァが落ち着くのを待つ間、子供らの面倒を見てあげよう。
「みんなで散歩いきましょう」
「ばうばう!」「わうううー!」「みー!」『ぴゅいいいい! いくーー!』
フェルマァにはお留守番してもらい、魔物の子供達+ふぶきをつれ、散歩に出かけることにした。
ややあって。
「皆ちょっと……くっつきすぎ……」
大型犬2、小型犬1、猫1、鳥1、という大所帯だ。
しかもみんな私にぴったりくっついてる。
「ばうばうー!」「わうわうー!」
特にふぇる太&ふぇる子の大型犬コンビは、大きいうえに私に抱きつこうとしてくるので、歩くのに難儀する。
びょんびょん飛び跳ねて、私に突進してくるのだ。
まあ私のレベルは∞、ステータスの数値も∞、大型犬に倒されることはない。
けど……みんなくっついたり飛びついたりしてくるので、非常に歩きづらい。
「皆ちょっと離れて。敵の魔物現れたとき、対処しづらいし……」
すると隣を歩いていたふぶきが言う。
「敵の魔物なんて現れないぞ?」
と、気になることを言ってきた。
「どういうこと?」
「この山に住み着いていた魔物は皆、突如現れた神を恐れて山に近寄らぬようになったからの」
神を恐れて……って、え?
「もしかして、私のこと言ってるの?」
「他に誰がおるというのじゃよ……」
まあそうか。
「私を恐れてって、なんでよ」
「神獣を三匹も引き連れておるからな」
なるほど……朱羽たち神獣は、とっても強い魔物だ。それを三匹も私は引き連れている。
この山の魔物達は、朱羽たちに恐れをなしてしまったのだろう。
私は神プロテクトしてるから、一見すると強いやつって分からないからね。
「よほどの馬鹿でないかぎり、この山に魔物は近寄らんよ」
「なるほど。ん? じゃあ、タマネギ兵団は、いったいどこから魔物を狩ってるっていうの?」
ひょこっ、と私の肩にタマネギ兵団長が乗ってきた。
びしっ、とタマネギ兵団長があさっての方向を指さす。
その先には……別の山があった。
「もしかして、隣の山まで行ってるの?」
「…………」こくん。
私のせいで、タマネギ兵団は隣の山まで毎回遠征に行かないといけなかっただなんて。
「いつもありがとうね」
「…………」てれてれ。
眷属を増やし、伝説の武器を装備させたのに、獲得できる神ポイント数がさほど増えていなかった。
隣の山まで、眷属達が毎回えっちらおっちら向かっていたのが原因だったのか。
「なんじゃ、ポイントのこと考えておったのかの?」
頭の良いふぶきは、私が何を考えていたのかわかっているようだ。
「なんとかしてポイントを稼ぐ効率的な方法はないものかなって思って」
「大転移で眷属を送るのはどうじゃ?」
なるほど、転移スキル。
それなら、隣山までひとっ飛びだ。
「あ、でも送れるけど、帰って来れないじゃん」
「歩いて帰ってこさせればよいのでは?」
「うーん……行き帰りも転移した方が早いでしょ?」
「まあそれはそうじゃの。じゃが、そのためには主が毎回狩りに付いてく必要があるぞ?」
そうだった。
うーん……それはめんどうだ。
一番の理想は、タマネギくんたちが転移を使えるようになることだ。
そうすれば、私は楽できる。
「無理じゃな。大転移は神のスキルじゃ。神にしか使えん」
私は歩きながら全知全能で、方法を検索する。
~~~~~~
白虎の爪
→万物を切断する爪
~~~~~~
これだ。
「白猫」
脚にずっとスリスリしていた白猫を持ち上げる。
「お願いがあるんだけど」
「にー!」『【いいよっ。だいちゅきなおねえちゃんのためなら、なんでもするっ】だってー』
朱羽が白猫の言葉を通訳してくれる。
「ありがとう。じゃあ、白猫。お力を拝借」
私は白猫を両手で抱っこする。
「目の前の空間を、スキル【白虎の爪】で攻撃して」
「みー!」
白猫が右腕を広げる。
爪がまるで太陽のように、強く、光を放つ。
「みー!」
ずばんっ! と白猫が爪でひっかく。
「な、何をしてるのじゃ……? 何もない空間に攻撃なんぞしよって」
「まあ見てなさいって。ふぶきはここに居て」
私は転移スキルで隣山へとやってきた。
白猫にもう一度、白虎の爪で何もない空間をひっかいて貰う。
空間に裂け目ができた。
その裂け目に向かって手を入れる。
ずぶ……と手が沈んでいく。
よし、いけそう。
「ふぇる太たち、ここでちょっと待ってて」
こくん、とふぇる太たちが素直にうなずく。
……気になって後ろを見る。
「ばう?」「わう?」
大型フェンリルたちは、普通にくっついてこようとしていた。
待っててって言ったのに……。
朱羽と白猫もくっついてくる。
ふぇる美はちゃんとお座りして待ってた。
「ごめん、ふぇる美。君だけ待ってて」
「…………」こくん。
ふぇる美は手がかからなくていいね。
「さて……よっと」
私は空間の裂け目を通る。
「うぉおおお!? あ、主!? ど、どこから出てきたのじゃっ!?」
よっし、成功。
「隣山から」
「な、何を言ってるのじゃ?」
「百聞は一見にしかず。ついておいで、ふぶき」
ということで、全員で空間の裂け目を通って、ふぇる美の待つ隣山へ。
「て、転移しておる……じゃと!? 魔法もスキルも使っておらぬのに!?」
ふぶきが驚愕の表情を浮かべる。
「ど、どうやって転移したのじゃ?」
「白虎の爪を使ったんだ」
「白虎の爪?」
「うん、万物を切り裂くって書いてあったからさ。万物ってことは、空間も切り裂けるかなって」
隣山と、龍脈地のある山。
二つの山をつなぐ空間を、白虎の爪で切り裂いてもらったのだ。
「どうしたの、ふぶき?」
ふぶきが額に汗をかいてる。
「主よ……これは、転移門じゃ」
「転移門?」
「うむ……転移の力を込めた門のことじゃ」
「へえ。それが?」
「……転移門技術は、いにしえの時代に失われて、現代では存在しない」
「つまり……失われた技術を復活させたってこと?」
「うむ。技術が失われたのは、術式構築が非常に難解であったからじゃ。それを理解できたのは、いにしえの大賢者ただ一人」
だから、その彼がいなくなって技術は失われたと。
「別に私も術式? とやらは理解してないよ。ただ、白猫ならできるかなーって思いついただけ」
白猫を持ち上げる。
尻尾を私の腕に巻き付けて、甘えてきた。
「よしよし、ありがとね、白猫。あとで鰹節あげる」
「に~♡」
一方でふぶきはつぶやく。
「複数の神を従え、その能力を完璧に使いこなしておる……こんなの、上級神であるモリガンさまでもできぬことじゃぞ……」
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