第五十五話: 砂、噴き上がる分かれ道
狂角と汚羽が支配する禁忌の森ではあれど、それらさえ除けば大きな危険はない。
いくつかの宝箱、植物や鉱物、何よりも森の中の貴重な情報……収穫も上々と言えるだろう。
……残念ながら、今回、僕らエルキル村の狩猟団は下級冒険者たちに同行しているに過ぎず、彼らや大鎌らが手に入れたお宝に関して取り分を主張できる立場にはないのだが。
まぁ、たまにはナイコーンさまを連れて宝探しに訪れてみるのも良さそうな考えに思えてくる。
しかし、流石に今はそのときではないはずだ。
まるまる一日ほどで調査を切り上げ、僕ら一行は森を抜けた。
二基の魔道具【鷹の目】を高く飛ばして周辺の様子を確認し、適当なところで野営とする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、コユセアラ探索の三日目は前日までと大きく様相を変えることとなる。
「楽しみにしてやがれよ、ショーゴ坊! 今度はぜってえ高値を付けさせてやるからな!」
「あはは、せいぜい面白そうな物を見付けてきてよね」
「ほんじゃあ、白坊ちゃん、達者でなー」
「ちょっとアンタたち、急ぎなさいよ」
【草刈りの大鎌】と僕らエルキル開拓村の狩猟団は更にダンジョンの奥地へと向かう。
対して、外周に沿って調査を継続する下級冒険者たちとはここで一旦お別れだ。
下級冒険者一行【剣と花】の女冒険者五人組がぞろぞろと歩き出せば。
その後に同じく下級の【明の三連星】――禿頭のごつい男による三人組が続き。
そして、殿としてサポーターの初級三人組【真っ赤な絆】が駆け足で追いかけていく。
荷役のモントリー二羽を連れた彼らは、二基の【鷹の目】と共に紅霧の中へと消えていった。
「斥候! この先、アンタがアタシらの目だ。任せたよ!」
「へへ、予備はあっちに渡しちまったから抜かるんじゃあないぜ」
「きひひっ、誰に向かって言ってんだか」
さて、聞いての通り、こちらの索敵は情報収集に優れた職能【斥候】を持つ彼が務めるようだ。
【鷹の目】を手渡された斥候は、仲間たちが見守る中、それを起動して空へと放った。
「言うても、今日は坊がいるかんな。万一、お前がしくじっても問題ねえんだわ」
「……予備があった」
「あはっ、大鎌の皆さんに限って万が一なんてないでしょ?」
こうして軽口を叩きながら、モントリー騎羽隊を囲んで広く散開していく大鎌を見ていると、二年前の探索行を懐かしく思う。
「……あたま?」
「フフ……それでは、我らも出発するとしましょうか」
「しゅっぱーつ! ふぁいおー!」
「俺たちも続くぞ。冒険者たちを見失うな。それから、弓はいつでも射れるようにしとけよ」
「「「「おう!」」」」
ナイコーンさま、アドニス司祭、ファルーラ、ユゼク、それに村のみんな……一緒にいる顔はあのときとは少しばかり違うけれども。
『いよいよ本番か。気を引きしめて行こう』
そう、僕にとって久方ぶりとなる紅霧の荒野コユセアラの探索はここから本格的に再開される。
下級冒険者たちと別れたことで一団の人数は半減してしまったわけだが……。
残ったのは中級冒険者【草刈りの大鎌】とモントリー騎羽で揃えた狩猟団である。
戦闘力や感知能力はさほど低下しておらず、移動速度に関して言えば、むしろ上がっていた。
相変わらずモンスターの気配もほとんど感じられず、僕たちはハイペースで歩を進めていく。
「この辺り、随分と噴砂が多いんですね。紅霧より砂埃の方が濃いくらいかも」
「元々、コユセアラでは表の大草原と比べて頻度が高いようですよ。噴砂孔も至るところに」
「きひっ、奥へ行きゃ、もっと多くなるんだぜえ」
僕とアドニス司祭が騎羽上で話していると、側を歩いていた大鎌の斥候が話に加わってきた。
普段とは異なり、彼の顔にはごついゴーグルのような物が装着されている。
目元を完全に覆うそれは、上空に浮かぶ【鷹の目】と俯瞰視点を共有するための専用装備だ。
『いやはや、それでよく躓いたりもせず歩いていられるものだ。しかも会話しながら』
「下級一行の【鷹の目】担当はモントリーの荷車に乗ってじっとしてたのに、流石は中級」
「ひっひっひっ、一緒にされちゃあ困るぜえ」
こんな状態では、前世の歩きスマホどころじゃなさそうだが、何とも器用なものである。
「あ、また砂が出た。しゃらららー! ふんさこーって誰が作ってるのかなー?」
「んんん? 耳長ちゃんは噴砂孔に興味津々かい? きっひひ」
「……おじちゃんには聞いてないの」
「いよぉっし! そんじゃ俺サマが教えてやんぜえ」
「聞いてないの」
僕らの会話をどこ吹く風とばかりに羽上ではしゃいでいたファルーラが、斥候に話し掛けられ、ガクッとテンションを落とす。
だが、僕とナイコーンさまの影に隠れた彼女を余所に、斥候はご機嫌な様子で解説し始めた。
「あの噴砂孔ってのはよう、まぁ、村の近くでも乾期になりゃ見られっから知ってんだろうが、地面の下にたまった目の細けえサラッサラの砂をシュバーっと噴き上げるもんよ。いつ、どこに出来るかは決まっちゃねえ。今時分の大草原なら、いつ、どこにだってパパッと出来ちまう」
「固い地面とか樹の根元とかは別だよね?」
どこでもとは言っても、出現地点は草の茂った粗い砂質の地面に限られる。
流石に家の土台や木石を突き破ったり、水の中から噴き上がったりすることはない。
「おん、何かが作ってるってえわけじゃなく、草原の底を川みてえに流れてる砂が水気の減った地面を浸食して自然に飛び出してくるんだとか聞くぜえ。一旦、出来たら、後は雨季が来るまでそんまんま、ときどき思いだしたみてえに砂を吹く穴ぼこの完成よお」
『前世では、道路工事なんかで泥水が湧き出してくることを噴砂と言ったんだけどな』
「こっちだとまるで黄砂の間欠泉だもんね」
「フッ、シェガロさまは間欠泉もご存じでしたか。博識ですな」
そこで話が一区切り、僅かな沈黙が僕らの間に落ちる……と。
「あー、あー、そうそう、一つだけ注意しとかねえとなあ。ダンジョン中の噴砂孔についちゃ」
「んにゅ? 注意?」
一応、話に耳を傾けてはいたのか、小首を傾げてファルーラが聞き返す。
「ひひひ、耳長ちゃん、よく気ィ付けときな。外じゃ大して危なかねえ噴砂孔だけどよ。ここの奥の方じゃ偶に魔獣の塒になってて、砂と一緒に休眠中の奴が飛び出してきたりすっからなあ。砂と一緒に魔蟲がボトボト降ってきたりすんだぜえ……ひっひひひっ」
「ふーん」
妖精の取り替え子――妖精族であるファルーラは、もう誰もがご存知の通り、綺麗な顔立ちに似合わず、相当なヤンチャ娘、虫どころか蛇を見ようと悲鳴一つ上げたりすることはない。
怖がらせようとした斥候の大袈裟なジェスチャーが空振りする――。
が、そのとき! 斥候はいきなり真顔になって叫びを発す。
「姐御! 左手、風の方角に感ありだぜい! ざっと八〇〇メトリ、人間、二、知らねえ面だ! ありゃ? ちと待て。奴ら……何や……って……おいおい、冗談じゃねえぞ!」
切羽詰まったその声は、僕ら一行の間にも緊張を走らせた。
※先日、完結済みの短編二本を投稿してみました。
よろしければ、隙間時間にいかがでしょう?
短編、約2,000文字の熱血ロボットアニメ風SF 「憧憬神機ライラプス vow one!」
https://book1.adouzi.eu.org/n2101kg/
短編、約1800文字、ひな祭りにちなんだ和風ホラー 「そこには灯火も桃花もなく」
https://book1.adouzi.eu.org/n2518kg/





