第五十二話: 野良鬼と戦う見習いたち
数十匹もいたザコオニの群れが冒険者たちによって見る見るうちに数を減らしていく。
意外と言っては何だが、見習いの【真っ赤な絆】三人組もよく敢闘していた。
「おおっとっと……させるか! 【パリイング】!」
「ライレ、グッジョブ! そこ! 食らいやがれっ!」
「次、左手、すぐ! 大きいの来るわよ! 気を付けて!」
初級冒険者の彼らにとって、下級魔獣のザコオニはやや格上の敵と言って良いだろう。
しかし、ライレの防御、アザマースの攻撃、シイリンの指示……三人それぞれ己が役割に徹し、短剣、手斧、投石といった雑多な武器による群れの波状攻撃をも押し返している。
「おうおう、けっこう殺ったな。奥の方から逃げてくが……姐御、追うかい?」
瞬く間に倒されていく仲間たちを目の当たりにし、飢餓による興奮状態が醒めたのだろうか、いまだ十匹以上も残存するザコオニの群れが背を向けて潰走し始めた。
「無理に追わなくていいよ! 後は遠撃ちで散らせるだけ散らしな!」
と、ジェルザが仲間の射手・神術師・魔術師、エルキル村の狩猟団へ合図すれば、そこからの主役は遠ざかってゆく小さな背に雨のような遠距離攻撃を浴びせかける彼らとなった。
「ええと、私たちは……」
「ぐぐぐ……こいつだけ逃がさねえように……押さえとこうぜっ!」
「そうね! もうちょっとだけ頑張って、ライレ」
そんな中、【真っ赤な絆】の三人組は一匹の大きなザコオニに掛かりきりとなっている。
他の皆、特に飛び道具を持たない者たちは、逃げずにいた僅かなザコオニを片付けてしまって早々に手すきとなるものの、少年少女に加勢しようともせずニヤニヤと観戦ムードを漂わす。
「もっと気張れや、坊主ども。三人がかりでホブも倒せねえんじゃ昇級なんざ、まだまだ先だぞ」
「まっ、無理そうならホブくらい別に逃がしちまっても構やしないわよ」
「ふは~、誰も助けてくんねえのかよぉ」
絆たちが戦っているあいつ――身長一六〇センチほどもある大人サイズのザコオニは、単なる発育がいい個体というわけではなく、ホブゴブリンと呼ばれる近縁種である。
見た目は腰蓑一丁で茶褐色の肌を晒す半裸の野人といったところか。
額に生えた二本の小さな角は鬼を思わせるも、人間の男と比較しても小柄で迫力不足だろう。
しばしばザコオニの群れで共同生活を営んでいるものの、奴らほどには邪悪な質をしておらず、体格相応に力が強いことだけを除けば、よほど与しやすい相手と言えるかも知れない。
逆に言うと、その膂力だけで下級魔獣とされているわけで、言葉通りに侮るのは危険だが……。
『周囲の掃蕩はあらかた終わったか。こっちものんびりしていてよさそうだ』
絆たちの戦いを眺めがてら、引き続き、上空での周辺警戒を続ける僕である。
しかしながら、決着まではさしたる時間も掛かりはしない。
アザマースが片手持ちの棍棒【明星鎚】を振り抜き、ドガッという鈍い打撃音を響かせると、ホブゴブリン――ノラオニの上半身にまた一つ、赤黒いアザが浮かび上がる。
明星鎚とは、ボウリング球より一回り小さな棘付き鉄球を棍棒の先端に固定した打撃武器だ。
その威力は高く、幾度も殴られたノラオニの動きは見るからに鈍くなってきていた。
呻き声を上げつつ振り回す無骨な石斧の反撃も、誰の身に触れることなく空を切る。
「隙ありだぜ! どっせえええい!」
すかさずカメの甲羅に似た大盾を突き出し、ライレが体当たりを敢行した。
重い石斧を空振りした勢いでバランスを崩しかけていたノラオニは、大盾を強く打ち付けられ、よろよろと数歩たたらを踏むことになる……そこに。
「これで決めて! アザマース!」
シイリンの絡投縄――両端に重石が付いた狩猟用の投縄が飛来し、両脚にぐるぐると絡まる。
「よしキタ! あーらよっ……ゴチっと!」
その場に転倒して尻餅を突いたノラオニは、アザマースが最上段から叩きつける渾身の一撃に反応すらできず、頭を割られたのだった。
「ふい~っ、やっと倒せたかぁ。タフな奴は苦手だわ、俺」
「早く武技を使えるようになるといいわね。……もっと私も前に出ようか?」
「シイリンは後ろにいろよ。大盾を構えてる俺としちゃ、周りを見ててくれた方が助かるぜ」
「そう?」
「おう、どんな攻撃でも俺が受け止めてやる。シイリンとアザマースには怪我一つさせねえよ。だから、お前らは無理しようとすんなよな」
初級冒険者とは、「冒険者」という名乗りも許されぬ見習いであり、戦い方もまだ相当拙い。
通常、下級魔獣の一匹くらいであれば、斧や鍬を手にした村人にも撃退できてしまう。
そんな相手に三人がかりで手こずっているようでは半人前の誹りも相応と言ったところか。
『まぁ、あきらかに経験不足だな。個々の実力が足りていないわけじゃないんだが』
「特にライレなんて言うだけのことはあるんだよ。防御だけ見れば本当に上手い」
そのうち、うちの従士たちと合同訓練でもさせてみたら、お互いに面白い成果が生まれるかも……などと考えているうちに、地上では戦闘の後始末や魔道具の点検まで終わったようだ。
上昇してくる【鷹の目】の魔道具と入れ替わりに僕は皆の下へ降りていくのだった。





