表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第二部: 君の面影を求め往く - 第二章: 新進気鋭の男爵家にて
201/254

第二十五話: 荷羽車に揺られて細道

 狩猟(おさめ)謝肉祭(カーニヴァル)を兼ねた祭事【聖浄の星祭り(サン・テグジュペリ)】が終わり、辺境の開拓村――エルキル男爵領を取り巻く大草原(サバナ)は一気に乾期の色を深め、まさに真っ盛りを迎えようとしている。


――チュンチュン! チュンチュン!


 前世地球であれば誰もが巨大スズメと評するであろう見た目ながら走鳥類の特徴を備える下級魔獣モントリーが二羽立てで()羽車(ばしゃ)に揺られ、僕は今、その乾ききった熱風を浴びていた。


 大きな(ほろ)が掛けられた荷車の前方、御者台より周りを見れば、馴染(なじ)みとなった中級冒険者一行(パーティー)【草刈りの大鎌(おおがま)】六名に加え、初級一行(パーティー)【真っ赤な絆】の三名が目に入る。


「ほーら! 行ったよ! いいかい! 決して羽車には近付けんじゃないよっ!」

「はい!」

「くっそ! そっち行くなっての!」

「マジすばしっこすぎなんですけど!」

「返事っ!!」

「「へい!」」


 いずれも徒歩(かち)。とりわけ目立つのは、大鎌のリーダーを務める女冒険者ジェルザに叱咤(しった)され、前へ後ろへ(せわ)しなく走り回っている絆の三人組シイリン、ライレ、アザマースだった。


――キュキュッキュイ!


 その周囲をぴょんぴょんと跳ね回り、からかうかのような甲高(かんだか)い鳴き声を上げるものもいた。

 体長三十センチほど小さなサル――ガラゴによく似た二匹の生き物である。


 奴らの名はおサル(ヽヽヽ)パンチ。確か、危険度の低い初級魔獣(モンスター)のはずだ。

 両拳に装備した果実の殻はさながらボクシングのグローブだが、意外な威力を見せるパンチを何発食らおうとそうそう大怪我(おおけが)をするわけじゃなし、見た限りでは凶暴な性質とも思えない。


『苦戦しているようだな。まぁ、僕らが心配する必要はないさ。ジェルザに任せておけばいい』


「うん、ノブさん……おっと、ノブロゴ。あとどれくらいかな?」


 周りを意識から追い出し、隣で御者を務める我が領の従士長ノブロゴ爺さんに声を掛けてみる。


「残り半分ってとこじゃねえか。ほぼ予定してた通りに進んでんだろ……おっと、進んでますね、(ぼん)……シェガロ様……んっんんっ、チッ、この喋りには、なかなか慣れねえぜ」

「あはは、他領に行くのは、ここに移住してきたとき以来だし、ちょっと緊張するよ」

城爵(ティノ)オギャリイへの顔見せなんて俺たちだけでやっとくんで楽に構えてりゃいいでしょうよ」


 そのノブロゴ翁の言葉が聞こえたか、後ろの荷台より新たな声が会話に加わってくる。


「フッ、(しか)り。今回はわざわざ改まって皆で訊ねるまでもありません」

「それは分かってるんですけど、何があるか分からないじゃないですか」

「あっとこの家も……まっ、うちの大将ほどじゃねえにしても大概ゆるい貴族ですがね」


 我がエルキル領のお隣さんに当たるオギャリイ家は、父マティオロが持つ男爵(ベオ)より一つ上位の城爵(ティノ)を授かっている貴族家だ。


 ああ、城爵(じょうしゃく)という聞き覚えのない言葉に、もしかすると戸惑わせてしまっただろうか。

 前世ヨーロッパに(なら)うなら城伯、よく知られた五等爵では子爵相当の階級と考えてもらいたい。


 あまり(かしこ)まるほどの相手ではないものの、城を中心として発展した町といくつかの村を治め、その領地はうちを含めた南方開拓において物資や人材の集積拠点的な役割を担っている。


「これだけの荷羽車(にばしゃ)を出してきたのです。思い悩むのは買い出しのことにしては如何(いかが)ですかな」

「ファルは! ファルはね。靴が欲しい」

「ちびっこ、羽車(ばしゃ)の中で走んじゃないですよ。ほら、こっち来なさい」

「ねっ、ねっ、ミャアマは何買う?」

「人の言葉が通じないんですか。いいから座んなさい。何度も言わせないでくれませんかね」


 見ての通り、御者台にいる従士長ノブロゴと僕の他、この羽車には数人が同乗している。

 後方の荷台に乗っているのは、アドニス司祭と巫女(みこ)ミャアマ、僕の専属従者ファルーラだ。

 交易品――うちの産物を納めたいくつもの木箱に埋もれるような状態で各々(おのおの)腰を下ろしていた。


 振り返って荷台の更に後ろを眺めれば、別のモントリーたちが()く羽車が二台付いてきていた。


――ピュイ! キュッキュキューッ!


「はぁはぁ……やっと追い払えたかぁ」

「あンのサルどもっ! な、なめやがって~」

「もー、最後まで遊ばれてたじゃない」

「ほら! 終わったらさっさと持ち場に戻んな! だらだらしてたら草むらン中に叩っ込むよ!」

「「「へーい」」」


 護衛の冒険者たちに囲まれた三台の羽車(ばしゃ)はゆっくりと進み行く。

 草原の中、荒れた細い道をガタゴトと……。


 目的の町までは、まだしばらく掛かりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
お隣の領主さんにご挨拶ですか。羽車での旅は賑やかで楽しそうですね! 駆け出し冒険者の3人は大変そうですが、しっかり護衛もいて快適そうです。従者、と言いつつ相変わらず話が通じないファルちゃんは、この先…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ