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クズの婚約者は金ヅルにしますのでどうぞお構いなく  作者: いか人参


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13/23

13.レナードの屈辱



序盤に相応しいスローテンポの曲が始まり、周囲の注目を浴びながら踊る二人。

互いに見目良く、側から見れば釣り合いの取れた理想のカップルだ。


自分の腕の中で踊るレイチェルからレナードは目が離せず、この夢のような光景と彼女から漂う甘い香りに酩酊しそうになっていた。目と鼻の先にいる彼女の顔立ちは恐ろしく整っており、吸い込まれるようにして見惚れてしまう。


その上、スタイルも素晴らしかった。シャルロッテより年下であるはずなのに、メリハリのある見事な身体つき。彼の好みど真ん中で、気を抜くとつい不躾に目で追ってしまう。

だからレナードは下心がバレぬよう、不自然なほど最も魅力的な部位から目を逸らしていた。



「レナード様は、お噂よりずっと初心な方なのですわね。」


二人の距離が近づいたタイミングで、ふふふっと楽しそうな笑みをこぼしながらレイチェルが口を開いた。


(は?年上で令嬢から人気のあるこの私が…?彼女は一体何を言っているんだ…)


真意が分からず、レナードは困ったように眉を下げた。



「そのようなことを言われたのは初めてです。どういった意味かお聞きし…っ!!」


話の途中でレナードが口をつぐんだ。

足の甲に激痛が走り、痛みで言葉を続けられなかったのだ。


(……った!!今のはなんだ…足を踏まれたのか?相手はあの公爵令嬢だぞ?そんなミスをするわけが…)


まだ痛みの残る右足を軽く引き摺りながら、なんとかステップをこなすレナード。だが軽くパニックに陥り、どんどん彼のステップから優美さが欠けていく。ゆったりとした曲調なのに、足を動かすことだけで精一杯だ。



「ダンス中の会話に慣れていらっしゃらないようでしたから。きっとお相手とは、会話がいらないほど信頼し合った関係なのですわね。羨ましいですわ。」

「……っ!!」


シャルロッテの悪行を広めるチャンスだと思い、すぐさま否定したかったのに、口を開く前にまたピンヒールで思い切り足を踏まれてしまった。


苦痛に歪みそうになる表情を堪えたまま、静かに痛みに悶絶する。もう痛すぎて足の感覚がなく、ダンスどころではなくなっていた。



「というより、ダンス自体に慣れていませんのね。…少しテンポを落としても宜しくてよ?」


レイチェルが気遣うように笑顔を向けてくるが、馬鹿にされたようでレナードは内心穏やかではなかった。僅かに口元が引き攣る。



「……申し訳ありません。その、先ほどから足が…」


我慢の限界を迎えたレナードが控えめに抗議の声を上げた。


年下とはいえ、相手は格上の公爵家のご令嬢だ。彼女のミスを指摘するような真似は許されない。だがこれ以上の痛みには耐えられないのもまた事実であった。



「まぁ。上手く出来ないのは、わたしくのせいだと仰りたいの?」


レイチェルの声音が一気に冷え込んだ。


恋する乙女のように頬を薔薇色に染めているのに、その視線に親しみは微塵も感じられない。キラキラと輝く瞳の奥にあるのは、強い弾糾の意思だけであった。

その一貫性のない見た目と振る舞いに、レナードが怖気付く。


「…いえ、そのようなことは決してありません。全て私の不徳の致すところです。せっかくお誘い頂いたのに、満足にエスコートも出来ず申し訳ありません。」


「いいえ。大切な婚約者がいる方をお誘いしたのが悪かったのですわ。わたくしの魅力が足りないせいで、レナード様の気が乗らなかったのでしょう。」


ダンスが始まってからずっと上げていた顔を初めて俯かせたレイチェル。


明らかに沈んだ彼女の様子に、見ていた周囲から何やっているんだとレナードを咎めるような視線が向けられた。



「そんなことはありません。レイチェル様とダンスを出来てとても光栄…」

「是非今度は、婚約者様と息の合った素晴らしいダンスをお見せして欲しいですわ。」


レナードの弁明の言葉を、笑顔のレイチェルが容赦なくぶった斬った。



「今宵は素敵な夢を見させてくれてありがとうございます。とても楽しかったですわ。」


演奏が終わると同時に、レナードの返答を待たずしてレイチェルの手が離れていく。

彼女の言葉は暗に、もう二度と貴方とは踊らないわと言っていたのだった。


(一体彼女は何がしたかったんだ。自分から誘ったくせに。この私に恥をかかせやがって….)


「………くそっ」


フロアに一人置き去りにされたレナードは悪態をつき、痛む足を庇いながら会場の隅へと移動した。給仕から酒を受け取り喉を潤す。


(誰が噂を流しているか分からないが、ここで私が馬鹿にされているのは全てあれのせいだ。あんなのが私の婚約者ヅラをしているせいでっ…)


グラスを強く握りしめたせいで、彼の爪先が白くなっている。


(…いや待てよ。皆の関心が集まっているあれを夜会に連れてくればいいんじゃないか?…悪女に仕立て上げ、私が被害者になればいい。)


そう考えるとレナードの視界が明るくなった。先ほどまでのイライラが嘘のように消え、心が浮き足立つ。


(全部あれのせいにすれば、今までの金を返させた上で関係を解消出来る。慰謝料として領地を貰えば目的達成だ。あんな卑しい女の相手など、最初からしてやる必要は無かった。私は優し過ぎたのだ。)


次の手を決めたレナードの顔にいつもの貴公子の微笑みが戻る。彼は高まる気持ちを発散させるため、今晩の相手を探しに薄暗いテラスへ消えて行ったのだった。




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