99~急げ!海賊だ!
『おい、ペトラ。まだ他にもなにか焼いているのかい? 私はこの焼き魚だけで充分だが』
「いえ。もう皿を。後片付けを」
『焼いていないのかい?』
「なにも。焼き網をゴシゴシ洗っているだけでございますが」
『ヘルゲ。なにか魚を焼いているような匂いがしないかい?』
そう言われたヘルゲ男爵。鼻を上に向けクンクンと右左。
「お前の食べたその焼き魚の残り香ではないのかい?」
『煙臭いのだ。わからんか?干物を焼いたような、、、』
ヘルゲは椅子から立ち上がると、食堂の窓を開けた。
「お、臭い! ゴホゴホッ!」
食べた皿をペトラに渡したドロテア。開けた窓の外を覗いた。
ゴホッ! ゴホっ!
『わっ、煙たい!』
ドロテアはテーブルの上に置きっぱなしになっていた扇を手に取ると、その口元に当てた。
『ヘルゲ。あれは街の方ではないか?! 煙がモンモンと立ち昇っている』
「ホントだ! あれはヨーセスの店の方じゃないか?」
『火事だ!こりゃ、大変だ!おい!ヘルゲ!行くぞ!店の品物がやられたら大変だ!』
「?いや。だから、ヨーセスの店は空っぽだから」
『じゃ、慌てなくてよいか』
「しかし、様子は見に行くぞ。ここはわしの町だ。なにごとも知る義務がある」
『では、お好きに。あ、行くならそこの窓閉めて行ってくださいな』
ヘルゲはカタツムリのように巻きあがった髪を山高帽に押し込むと、玄関に立て掛けてあったステッキを手にした。
「行って来る」
『私は旅の疲れ。少しお昼寝でもさせてもらいますわ』
「フン!呑気だ」
玄関の扉を開けたヘルゲ。頭上を見上げると、青空の中、雲ではない煙が東へと靡いていた。
「大事のようだ」
ヘルゲはステッキをブンブン振り回し、配下の街に降りて行った。
「おお、煙がドンドンと大きくなるわ」
パタパタパタッ
「おや、誰かこちらに向かって走って来るぞ。ん?」
それは若い男女。
2人は煙を吸い込まないようにか、口元を反物の生地で覆っていた。
「ヘルゲ殿っ~!ヘルゲ殿~!」
「ん?」
「大変で~す!」
大声でないと聞き取れない距離。
その男は口元から反物を外した。
「おー!ヨーセスではないか! なんだ?どうした?火事か?」
「ハア、ハア、ハア。はいはい、火事でございます」
「やっぱり!」
「と言いますか。火の着いた矢が放たれたのでございます!」
「矢?誰が?」
「たぶんでありますが、ベルゲンの海賊達であります! 私の店の品物を全部強奪していった上、支払えないとみるや港から取って返して街に火を」
「は?トールが言っておったぞ。タリエ侯爵の使いの者に売ったと」
「いえいえ、それが。私が港に行って問い詰めましたら、、、実は海賊。騙されたキルケとイワンは捕らわれていたようであります!」
「はぁ~?」
「で、今であります!ヘルゲの館はどこかと騒いでおります! 時期にこの石畳みを駆け上がって来るかと!」
「なんで?」
「ヘルゲ殿のお持ちのお宝をも強奪していくつもりなのではないかと」
「本当か! 早くドロテアに報せねば!」
「急いでください!」
「して、この女は?」
「あ~、今は煙が凄いので口を覆わせておりますので。そんな事よりも早く!」




