95~演技?本物?
「さてと、あそこの扉だ。乾物屋の地下室。ここも押せばクルっと回る。鍵はとっくに壊れていてそのまま」
「ここも回転する扉なのですね?」
「そう」
「なぜ回転?」
「たぶんだけど、壁のイミテーションに見せるだけの扉なら回転しなくていいと思うんだ。けどここは暗闇。ここにいた神父、修士たち、それに処刑人、皆ランプ片手だったり荷を抱えていたりだろ?
そうするとお尻でポンっと開く回転式の方が手を使わずに済むのさ。古いから今はギコギコだけど、造りを見たら簡単に回転する代物だ。それともう一つは魔の気を戻す為。扉を開けて出た空気が回転と同時にまた地下牢に逆流して封じ込まれるんだ。魔の気はまた元のこの場所に戻る」
「封じ込めるため?」
「じゃ、開けるよ。ランプの皿を持ったままお尻で開けてみようか? ボロボロだから少し硬いけど」
「もう話はいいから、早く開けてください。ランプは私がお持ち致しますので。もう地下水でビショビショ。寒くて仕方がないのです」
ヨーセスがランプをアデリーヌに渡した。
ほんのりと映し出されたアデリーヌの顔は、寒さのせいなのか淡い薄紫に変わっていた。
ポンッ!
回転扉がクルと廻った。
クルッ! バタッ!
「あッ! わッ! え!なに?!」
扉が回った瞬間であった。
ランプを持ったアデリーヌは、その扉をもう一度お尻でポンと叩いた。
するとそれは強く回転し、アデリーヌは乾物屋の地下室。ヨーセスはまた地下牢へと弾き返された。
右手に持ったランプを頭の上に翳したアデリーヌ。
辺りを見回すと、目の前に一階に続くらしき階段があった。
アデリーヌはドレスの裾を左手で捲し上げると、バタバタと駆け上がった。
再び地下牢に押し込まれたヨーセスは、両手でまた扉を回した。
「あれ?!アデリーヌは? いない? マズい!一人で上にあがっちまったか!」
ヨーセスもまた、地下室の階段を駆け上がった。
店に出る扉をバタンと開けた。
「え~っ!あ~っ!」
目の前に現れたのは、尻。
アデリーヌはドレスの裾を高々と巻き上げ、天井に尻を向けていた。
蝋のランプは頭の上に受け皿ごと乗っていた。
「ハッ!ハッ!ハぁ~ッ! 不届き者のイエスッ! 私の目の前から去れッ! 去らねば尻から悪魔の矢を放つッ!」
もちろん驚いたのはヨーセスだけではない。そこにいた乾物屋の親父。
アデリーヌに向かいイワシの干物を放り投げた。
アデリーヌはそれを受け取ると、尻を天井に向けたまま両手でイワシを摺り出した。
粉々になって行く干物の上に、ポタポタ ポタポタと濡れた髪から水滴が滴り落ちた。
頭上のランプが落ちることなくユラユラと揺れた。
(演技、、、じゃないみたい、、、)
口に含んだその魚砂。頬っぺたと顎には小骨が付いた。
「ハハハッ!ハッ!ハッ!ハぁ~!」
アデリーヌはドレスの裾を元に戻すと、ゆっくりと腰を上げた。
そして、火の点いたロウソクを再び手に持つと、店の棚を避け、スルッスルッと、一歩ずつ、そこにいた乾物屋の番犬に近寄った。
いつもは獰猛に吠える番犬。
彼は一歩ずつ後退りを始めた。
(演技、、、じゃない?)
※ 91話~「私はどこに連れていかれるのか?」に挿絵を掲載致しました。
※昨日。夕方より職域でのコロナワクチン接種により投稿出来ませんでした。
予告なしでごめんなさい。




