93~魔女の成り方
「よいか、アデリーヌ。この地下の回廊を出たらな」
「乾物屋なんでしょ?」
「そうなんだけどさっ。魔女の振りをするんだ」
「振り?」
「ああ、振り。隠修士たちが港の荷車に気づいていれば、必ず乾物屋に戻しているはず。全部ではないよ。一台は必ず」
「一台?」
「そう。その荷車は特別。お前用。後ろが開くようになっていて、ドレスやスカートを履いていても乗り降りできるようになっているんだ」
「魔女使いを乗せる為?」
「ま、そういうこと。俺が造らせた」
「それに乗るの?」
「で、魔女の振りってのはさ。乾物屋の親父は、俺がこの回廊を抜けて連れて来る女は本物の魔女使いと思っている。金も払ってるしぃ、、、嘘っぱちみたいじゃおかしいだろ? 魔女じゃなくてもただの人身売買ってこともあるしさ。それには乾物屋の親父は加担しないけど、魔女を捨てに行くってのには協力してくれるんだ。この街から悪魔を追い払いたいからね。それに魔女を捨てに行くのは、穏修士って決まってるんだけど、俺が奴らと手を組んでんだ。それはドロテアも知らない」
「私を助けてあなたは何を?」
「ま、それはまた話すよ」
「また?って、このまま荷車に乗せられたらもう二度と、、、」
「マーゲロイの島で」
「わからないわ」
「とにかく振りをしてくれ。偽物と疑われないように。ただでさえ、ドロテアが男好きってのは有名でさ、ここに連れて来られる女たちは、勝手に魔女狩りの憂き目にあってると皆思っているから。それにさ、お前は美し過ぎる」
「どうすればいいのですか? それで私はあなたが言うように助かるのですか?」
「ああ、まずは乾物屋の地下から上に出たら、そのドレスの裾を捲り上げるんだ」
「はぁ? いやですわ!」
「いいから、いいから。で、尻を出して天に向ける」
「無理です」
「だめだめ!それが魔女たちがする天に背くということ。魔術使いは神を欺くんだ。やってもらわねば困る」
「それだけでいいのですか?」
「まだまだ。その店には犬がいる。その犬に頬ずりをして接吻するんだ。跪いて」
「?」
「そうするとさ、その犬に悪魔が宿っているってことになる。魔女が跪くんだからな」
ヨーセスは地下の回廊。
ロウソクの盆を地面に置くと、水溜まりに膝をつけてやって見せた。
「で、まだある。地面に十字を切って、足で踏みつけるんだ。それを見た乾物屋の親父は、売っている魚の干物を荷車の縁に掛けるから、それを手に取って揉み解すんだ。パラパラと粉になったらそれを口に含む」
「そんなことまで?」
「本当なら子供を一人生贄にして、埋葬後に取り出してさ、その骨を粉々にして粉薬にして飲むってのが魔女だ。その粉薬の代用に、親父が干物を捧げるってわけさ。殺される前の儀式だ」
「できないわ。そんなこと」
「とにかくさ、本物の魔女になってもらわなきゃ困るんだ。こんな仕事、乾物屋以外にやってくれる者がいないんだよ」
「困ったわ」
「お前が偽物の魔女なら、その美貌。あちこちで虫にたかられる。本物ならマーゲロイまで誰も近寄らない。逃げられる道が開くんだ」
「けどキルケ殿やイワン殿はそんな態度は見せませんでしたわ」
「お前が偽物と思っているからだよ。俺はあいつらも近づけないよ」




